ピクニックに出て
改めて考えると朧もモナカもイカれてますね()
アドヴェンジ山地――クレオーノ東門を出て、そのまま北東に進んだ先にある山脈エリア。
麓や下層部は森林地帯となっており、そこを抜ければしばらく緩やかな傾斜が続く丘陵地帯、標高が高くなっていくにつれて岩肌が目立つ山岳地帯の三つの層で形成されている。
クレオーノで上位職へクラスアップを果たしたプレイヤーが次の街へ行く為に通らなければならないエリアの片方で、今までに通ってきた二つのエリアと比べて攻略難易度は一気に跳ね上がる。
単純にエネミーが強くなったからというのも理由の一つだが、エリアの規模が格段に大きくなったことで必然的に攻略が長丁場になってしまうからだ。
エリアが広くなるということは、その分エネミーとの戦闘回数も多くなるということであり、そうなれば当然アイテムや武器の消耗も激しくなる。
まあクラスアップやサブジョブの解放といったプレイヤー側に色々と強化が入ったことを考えれば、攻略難易度に調整が入るのはおかしなことではない。
ただ長丁場になることで発生するアイテムの枯渇や武器の損傷は生産職でカバーできたり、しっかりとした下準備をした上で攻略に臨めばどうにかなるらしい。
要するに、ちゃんと対策立てて攻略しろよということだ。
「——今回こそまともなエリア攻略になるといいな」
エリア攻略を開始して数十分。
森林地帯を抜けたところでボソリと呟くと、隣でシラユキが同調するように頷く。
「そうだね。前のエリア二つともずっとトラブルというか、ハプニングに巻き込まれてばっかりだったもんね」
「……二つとも、ということは、パスビギン森林でも何かあったのですか?」
後ろから聞こえるゆったりぽわぽわとした声。
訊ねてきたのは、チョコだった。
「うん、ちょっとね。良くない人たちに絡まれちゃったというか……」
「なんと、それは大変でしたね」
「まあ、そのおかげで結果的にライトとひだりと会えたから、今思えばそんな悪い記憶でもないけどな。……そういや、チョコはどうやってパスビギン森林を突破したんだ?」
「ちぃですか? ちぃは、冒険者ギルドでパーティーを組んでクリアしました。その場限りのパーティーでしたけど、皆んな良い人でしたよ」
おお……思ったより普通だ。
いや、これが一般的な攻略方法なのか。
二時間かけてだけど、VRゲーを初めて二日そこらなのにクァール教官を初見で単騎撃破した均等振りの奴とか、ゲーム開始から数時間でパスビギン森林をソロで突破する疑似RTAをするような俺と同類の奴が身近にいたせいか、俺の中での感覚がちょっとバグってるな。
そう考えると、今回の組み合わせは比較的常識的なメンツに思えてくる。
今回のパーティー構成は、俺、シラユキ、チョコの三人だ。
ひだりから霊峰への行き方を聞いた後、聖魔結晶を使ってテレポートの使い捨て術巻を何個か作成するのを待っている間にチョコがログインしてきたので、そのまま三人でエリア攻略に向かうことにした。
「それにしても……朧さん、本当に一緒に来なくて良かったのかな?」
「本人がいいって言ったんだから大丈夫だろ」
「それならいいけど……」
実を言うと、チョコと同じくらいに朧もログインしていたのだが、モナカだけを残してしまうのは可哀想だからとクレオーノに待機していた。
ぶっちゃけモナカなら一人で切り抜けてしまいそうではあるが、他にも戦闘スタイル的に一番近いのがモナカということもあって、間近で見て戦闘の勉強をしたいとのことだった。
確かにモナカに師事する選択は間違っていないと思う。
使用武器こそ違うが、どっちも遠近両用の戦い方ができるし、基本的な立ち回りも似たようなものだしな。
それにサブジョブを魔術士にして術系アーツスキルを習得したとはいえ、朧の戦闘の根幹を担うのは投刃による投擲と斬撃の切り替えだ。
そういう意味でもモナカと行動を共にするのが正解なのかもしれない。
ちなみにライトとひだりが現在どうしているかというと、ライトは残った朧と共に素材の買い出しに街中に出ていて、ひだりは研究開発室に籠もってテレポートの使い捨て術巻を大量生産しているところだ。
兄妹で別行動を取るなんて初めてことだったからちょっと意外だったが、エンチャント台でドンドン書き上がっていく使い捨て術巻を眺めて「へっへっへ」とニタリと悪い笑みを浮かべているひだりを見てたら、そのままにするのが一番なんだろうなとライトの心情を察することができた。
「……ま、あの二人ならどうにかするさ。アイツらの強さはシラユキもよく分かってるだろ?」
「それはまあ、そうなんだけど……」
「んなことより、まずはこのエリアを無事に突破することに集中しようぜ。人の心配して俺らが足元掬われてちゃ元も子もねえわけだしさ」
昨日のクエストのおかげでかなりレベルが上がったとはいえ、エリアの攻略推奨レベルに達したかというと残念ながらそうではない。
シラユキが油断するとは思わないが、普段より一層気を引き締めて攻略にかかる必要がある。
「……うん、そうだね」
言って、シラユキはぎゅっと拳を握り締め「頑張らなきゃ」と小さく意気込んでみせた。




