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そしてバズった

 ポワン、ポワン、と引っ切り無しに鳴るARフォンの通知音で目が覚める。


「んだよ……うるせえな」


 ARフォンを手に取り、スリープを解除する。

 時刻はまだ朝の九時前だった。


 春休みなんだしもう少し寝かせてくれよ。


 通知モードをオフにしようと画面をちゃんと見た時だった。


「……はあ!?」


 思わず飛び起きる。

 大量の通知が画面に表示されていたからだ。


 ケインさんにフォローされました。

 大根色神楽さんにフォローされました。

 はれさんにフォローされました……etc.


 どれもSNSアカウントのものだ。


「え、は? なんで急にフォローが来てんの?」


 突然の大量フォローに頭が混乱する。


 動画の告知用に『RTA配信主』の名義でアカウントは作ってはいたが、生放送の開始の呟きだけで日常的な更新なんてまともにやってない。

 いわば形だけのアカウントだ。


 普通に考えれば、余程の物好きでない限りフォローされることはないはず。

 ……のはずなのだが、


「フォロワー数が五百超えてるってどういうことだよ……!!」


 一晩で何があった。


 頭を落ち着ける為に、一度ホーム画面に戻る。

 それから、配信用で使っているチャットアプリにメッセージが届いていることに気づく。


「ん……誰からだ?」


 チャットアプリを起動させると、メッセージを送ってきたのはモナカからだった。




Monica♪:やったね、ぬしっち! 昨日上げた動画軽くバズってるよー!




「嘘だろ、おい!!?」


 すぐさま動画サイトを開き、昨日投稿した動画のアナリティクスを確認する。


 ——20241回視聴。

 高評価213。


 それと現在のチャンネル登録者数——五百十二人。


 一晩で登録者が二十倍以上に増えてんだけど。

 いや、マジで何があったんだよ……!?






「——まあ、簡単に言うと、ヒーローの編集ちゃんがぬしっちの動画を見つけて拡散したんだよ」


 場所は変わってアルクエ内、クランハウス一階共同ルーム。

 いつの間にか設置されていた黒のモダンなソファに腰掛けながら、モナカはそう言った。


「ヒーローって……まさか、あのヒーローか」

「うん。あのヒーロー」

「そういうことか。通りでバズるわけか……」


 ——チャンネル名『The HERO TV』。

 特撮作品のゲーム配信や作品内のストーリー解説並びに考察、なりきり玩具のレビュー動画の投稿等を中心に活動しており、現在のチャンネル登録者は百六十万人を超えている人気投稿者だ。


 以前、SNSに投稿したとあるイベント会場で披露した歴代ソルジャー連続変身モノマネは、そのクオリティの高さとヒーロー自身のルックスの良さが相俟って滅茶苦茶バズっていたのは、今も記憶に残っている。


 それと同時に、JINMU RTA any%における第三位の記録の持ち主でもある。

 荒々しい体術と洗練された剣技を織り交ぜた戦闘スタイルが評判で、ヒーローに影響されて大太刀を使い始めたプレイヤーも少なくないという。


 死にゲーと特撮。

 そもそものジャンルもターゲット層も大きく異なっているコンテンツを扱っているにも関わらず、JINMUから入った視聴者を特撮に沼らせ、特撮から入った視聴者をJINMUに沼らせるほどの強い影響力を持っている。


 モナカやSyu-Taと言った数いるインフルエンサーの中で、ある意味一番JINMUの知名度向上に貢献した人物と言っていいかもしれない。


「まあ、動画の中身が中身だから、他の有名配信者だったり実況者がぬしっちのことを拡散してたと思うよ。今回はたまたま編集ちゃんだったってだけで」

「なるほどな……」

「んにゃ? ぬしっち、あまり嬉しそうじゃないね」

「いや、嬉しいには嬉しいんだけどよ。あまりにいきなり過ぎて、反応に困ってるっつーか……あんま実感が湧いてこねえっつーか」


 今まで反応がないのがデフォだったから、喜びよりも戸惑いの方が大きい。


「にゃはは、なんかぬしっち見てると昔を思い出すなー。あたしもチャンネル登録者数が伸び始めた時は、こんなだったなあ。ずっと鳴かず飛ばずだったのが、ある時を境に少し目を離せばチャンネル登録者数が増えていって。……ま、ぬしっちもその内この感覚になれるよ。あたしも慣れたんだからさ」


 言って、にししと目を細めるモナカを見て、気づく。


 そうか……モナカも最初は、俺と似たような感じだったんだよな。


 今でこそ国内外にその名が轟く有名ストリーマーだが、最初からそういうわけじゃない。

 俺と同じように、全く知名度が無い状態からスタートしていたんだよな。


 ちょっと考えれば当たり前のことだが、つい見落としてしまいがちになる事実。

 正直、動画配信者としては月とスッポンレベルでかけ離れた関係性だと思っていたが、もしかしたらいつかは月側に手が届くかもしれない。


 ちょっとだけ、そんな気がした。


「——あ、そうだ」

「ん、どうした?」

「軽くバズったし、もう遠慮しなくていいか。サムネもタイトルも改善されたことだしね」

「……何の話してるんだ?」

「ぬしっちにもっとバズる感覚を味わってもらおうってこと☆」


 ん、どういうことだ?

 もう十分にバズってるだろ……って、


「——まさか!」

「うん、そのまさか! Ch.Monica♪でぬしっちのこと宣伝するねー! という訳で、配信行ってきまーす!」

「おい、ちょっと待て!」


 咄嗟に呼び止めるも、モナカは聞く耳を持たずに自室へと戻って行った。


「……マジかよ」


 誰もいなくなった共通ルームに、ポツリと俺の声だけが虚しく響いた。

今回、ヒーローの動画編集担当が最初に拾ったが、そもそもモナカとSyu-Taがその気になればいつでも拡散できていたという事実。

真っ黒サムネと日付タイトルでなければ。

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