北区84番地にて
北区の外れ——街の中心から見て丁度北西辺りの位置。
緩やかに長く続く上り坂を登り、行き止まり近くのところにある小道に入る。
それから小道の奥にある階段を上がった先にそいつはあった。
「あれが……クランハウス」
白い石製の塀に囲まれた中にあるのは、これまた全体的に白を基調とした外壁の石造りの建物。
屋根は青雲のような色合いとなっていた。
見たところ二階建てとなっており、隣には十人以上でBBQをしても尚、スペースにゆとりを残せそうな広々とした庭が併設されている。
今はまだ青々と広がる芝生とウッドデッキしかないから少し殺風景だが、これから家具やら花壇やらを設置していけば賑やかになっていくだろう。
そして、家の門の前にはそわそわと待ち侘びるモナカの姿があった。
「あっ、ようやく来た! おーい!」
モナカは俺らに気づくと、ぴょんぴょんと跳ねるような足取りで駆け寄ってくる。
「どうどう、見てよこれ!? スゴいでしょ!」
「……ああ、凄えな。想像していたよりもちゃんとしっかり家してるし、庭もついてるとは思わなかった」
「でしょ! 中もスゴいから見てってよ!」
言って、モナカは俺らの後ろに回り込む。
「ほらほら、ゴーゴー!」
背中を押さんばかりの勢いで促されたまま門を潜る。
家の扉を開けると、広々としたリビングが俺たちを出迎えた。
「うわ、広っ」
多分、バスケットコート一面分くらいあるんじゃねえか?
外壁は石造りとなっていたが、内壁はやや灰色がかった白い木板が使われており、床材にはダークブラウンの木材が使用されている。
一見、シックな印象を感じるが、ウッドデッキに繋がる一面に設置された格子窓のおかげで、同時に開放感も両立していた。
それとまだ家具が何にも置かれてない辺り、ザ・新居って感じがする。
ちょっとだけワクワクしていると、モナカが簡単な部屋の紹介を始める。
「まずここがリビングで皆んなの共有スペース。設置する家具はみんなで決めようね。それで向かって右奥にあるのが厨房。セカンダリージョブに料理人をセットしていれば、実際に料理も作れるらしいよ」
「ほ、本当ですか!?」
真っ先に反応を見せたのはシラユキだ。
期待で瞳を輝かせて、部屋の奥を覗いていた。
「お、ユキりん興味津々そうだね〜」
「はい! まさか、こんなに早く料理が作れるようになると思ってもいなかったので……!」
あー、そういやシラユキのセカンダリージョブって料理人だったか。
料理人は、名前の通り料理を作ることのできるジョブだ。
プレイヤーには空腹値なる概念がないから、何も食わずとも特にこれといった問題はないが、料理人の作った料理を食うことで一定時間バフが付与されるらしい。
悪樓戦の時に料理を食えてたらもう少し戦闘が楽になっていたかもしれないが、今更たらればの話しても仕方ねえか。
あの時は料理を作れる奴も作るための設備も無かったわけだし。
「それから向かって左奥にある階段は地下に繋がっていて、地下にはライライとだりーの工房、あと倉庫があるよ。倉庫にはチェストが設置してあるんだけど、クランメンバーなら好きにアイテムの出し入れをできるらしいよ」
「へえ、結構便利そうじゃん」
ということは、アイテムの受け渡しをするのにわざわざ譲渡申請をしなくても済むってことだよな。
これならログインしてるタイミングとかが合わなかったとしても、無理なくアイテムの受け渡しができそうだ。
「……って、そういやライトとひだりは?」
「ライライとだりーなら、ちょっと前にキンルクエに行ったよ。前に住んでた所から色々アイテムを持ってくるって」
「なるほどな。じゃあ、その間モナカは一人で暇してたってことか」
「いぐざぐとりー! いやー、だから思ったよりぬしっちたちが早く来てくれた助かったよ!」
二人には異虚霊のことについて何か知らないか話を聞きたかったんだが……まあ、それなら後でいいか。
「それで話を戻すけど、二階は個人部屋になってるよ。部屋は全部で十五部屋あるから好きなとこ使っていいよ」
入って右手にある階段に視線を向けながらモナカは言う。
「十五って随分と多いな」
「そりゃあ、家のサイズがMだからね。今の人数ならSでも部屋の数は足りるらしいけど、仮にクランメンバーが増えた場合に備えてとか、地下工房を作る関係とかでMサイズにしたらしいよ」
「ふーん。まあ、アイツらが良いんならそれでいいか」
金出してくれてるのあの二人なわけだし。
つーか、リビングがクッソ広いのもMサイズだからか。
(……ところで、この家買うのに幾らかかったんだ?)
俺が調べた相場ってのは、あくまで最低額にしか過ぎない。
それに今思い出したけど、クランハウスを建てるには、まず先に土地を購入しておく必要があったはずだ。
確か建築費用よりも土地代の方が何倍も高かった気がする。
そうなるとSサイズのクランハウスであったとしても、少なくとも数百万はかかる計算になる。
じゃあMサイズになると当然、もっと費用がかかるってことだよな。
「なあ、モナカ。このクランハウスって購入するまでに幾らぐらいかかったか分かるか?」
「うーんとね……大体、千五百万ガルくらいだったかな」
「わー、いっせんごひゃくまんかー」
とりあえず、一呼吸しとくか。
天を仰いで、吸って、吐いて。
——うん、高過ぎだろ。
今まで獲得した金とエネミーの素材全部売っ払ったとしても、それでも余裕で届かねえじゃねえか……!
一応、割り勘ってことだから、実際に払わなきゃならない額は二百万ちょいってところだけど。
まあ、どのみち足りないことに変わりはない。
ふと振り向けば、他の三人もいきなりの額に驚いている。
というか、驚くなって方が無理な話だ。
一万でも結構高い買い物になるってのに。
「にゃはは、やっぱ最初はそんな反応になるよね。あたしもそうだったもん。でも、ライライもだりーも今すぐ払う必要はないって言ってたよ」
「……なら良かった。本当、あいつらには頭が上がらねえな」
それにしても、アイツら二人で分割したとはいえ、千五百万を一括で払ったってことだよな。
やっぱガチ勢になると所持金もえげつねえことになるのか。
改めて二人の凄さを痛感する。
そういや、アルゴナウタエの連中からも認知されてたっぽいしな。
「さてさて、簡単な部屋紹介はこの辺にしておいて。次は二階に行こっか! 誰がどの部屋を使うのか決めようよ!」
「あいよ」
そのままモナカに案内され、俺たちは二階に上がることにした。
クランハウス購入までの流れ
1.建築ギルドで土地を購入する。
2.家の建築を依頼し、その際に外観や内装に指定あればこの時点で伝えておく。
(後からでも変更はできるが、リフォーム代として建築費と同じ金額を支払わなくてはならいので、注文は慎重に)
3.注文が完了すればすぐに家は完成する。最後に現地のNPCとの引き渡しを終えて購入完了。
土地は幾つかの等級に分かれており、立地がよくなるほど等級が上がっていきます。
特に一等地になると競争が激しく、今なお熾烈な争奪戦が繰り広げられていたりします。
ちなみに、今回兄妹が購入した土地は値下がりした三等地です。運良く売れ残っていたのが見つかったので即決で購入を決めてます。




