A beautiful day(4)
「おはよう、篠宮くん!」
鮮烈な朝日の一閃を思わせる快活な挨拶と、クラスメイトからの奇異の眼差しを同時に浴びせられ、僕の一日は始まった。
「おう……おはよう」
若干の居心地の悪さを感じながら、石川に挨拶を返す。数秒が経った後、こちらを向いていた視線は次第に元の位置へと戻っていった。
注目を集めた理由は分かる。年中右手に謎を纏わせた石川は普段から人目を引いている。そんな彼女が昨日まで接していなかったクラスメイトへ突然声をかけていれば、不思議がられてもおかしくない。
「篠宮くん、今日の放課後は予定空いてる?」
当の本人は衆目にまったく気付いていないようで、僕の机に両手を置いて続ける。思わず、白色の布に包まれたその右手を見ながら答えた。
「ああ、空いてるけど」
「よかった、じゃあ早速バンドのことについて話をしたいんだけど」
「……分かった、いいよ。俺も色々と聞きたいことがあるし」
「よし、それじゃあ放課後ね! 場所はこの教室で!」
始業の鐘が鳴り、彼女は片手を小さく振って自分の席に戻った。チャイムから数秒遅れて担任が姿を現し、ホームルームが始まる。
連絡事項を伝える気怠げな声に、僕は上の空で耳を傾けた。頬杖をつきながら、つい石川の背中に目をやる。今日も今日とて亜麻色の髪は柔らかな輪郭を保っている。昨日と同じ光景。しかし、その後ろ姿にはどこか昨日よりも愉快そうな空気が漂っているように見えた。この席からでは表情までは窺えないので単純に僕の感覚的なものだが、気のせいではないと思える。さぞ全身に高揚を巡らせているのだろう。僕と違うことは、それに不安が一切混じっていないことだ。
「おい、修志」
前の席の友人がこちらを振り返り、囁くように声をかけてきた。
「どうした?」
「お前、いつの間に石川と仲良くなったんだよ?」
僕は少しだけ目を丸くしてしまった。
「べつにそんな仲が良いってほどじゃないだろ。普通に挨拶して話しただけだし」
「まあそうだけどさ」と、友人は続ける。
「でも一年の時から同じクラスだったけど、なんていうか、ああやって石川自身から人に声をかけるのってほとんど見たことないんだよな。人に話しかけられたら気さくに応じてるし、友達も多いっぽいけど」
「へえ、全然気にして見たことなかったな」
同じクラスになってまだ一ヵ月と、短期間だから気付いていなかっただけか。もしくは昨日の屋上での姿が第一印象として強く刻まれたためか。どちらにせよ、まったく想像もしていなかった所感だ。だがその理由については思い当たるものがあった。
石川が意識的に人と距離を置いているとすれば、それはきっと、その右手が原因だ。彼女は昨日、以前に義手であることによって嘲られたことがあると語っていた。そんな経験から、自己を防衛する術として、自然とそのような人との接し方が身に付いたのだろう。
勝手な推測ではあるが、ふと浮かび上がった憐憫で胸の内が微かに痛んだ。