4 早朝サイクリング
自転車にはまったく詳しくないです。
昔、どこかのサーキットでこういうの乗ったような……くらいの感覚で書いてます。
ちゃんと調べろ定期。
翌朝、雄馬はかなり早い時間から、姫王子のマンションについていた。
起きているかどうかの確認に連絡を入れると、まだ寝ていたとのこと。
ついたと伝えると、『早いよ!』とお怒りのメッセージとともに、謎のスタンプが添付された。
「6時はないだろぉ……まだわりと眠いんだけど」
「もう6時半だな」
「もう三十分くらい、遅れてもいいんじゃないの……」
時間としては問題ないが、その場合は学校の到着時刻が少し遅くなる。
そのくらいに登校する生徒は多いため、目立つことになりかねない。
「俺はそれでもいいけど、姫王子は気が進まないだろ」
「……ごめん、ありがとう」
殊勝に頭を下げる姫王子は、少なくとも昨日よりは王子さまだった。
目が腫れぼったい感じではあるが、血色がよく、髪艶も生きている。
(……これなら大丈夫か。昨日の状態なら、勝手に行って自爆してそうな感じがあったけど)
それも警戒して、早朝からやってきたわけだが、どうやら杞憂だったらしい。
安堵しながら自転車を回し、進行方向へ向きなおる。
「よし、行くか――って、乗り方わかるか?」
「う、うん……こういうのは初めてだけど」
タンデム自転車とは、二つの自転車を縦列につなげたような、二人乗り用の自転車だ。
後部にもサドル、ペダル、固定用ハンドルがついており、二人でこぐことができるため、推進力は倍ということになる。
条例によっては公道を走れない町もあるようだが、少なくともこの町では問題がない。
「よっと……あれ? なんか、ペダルと別にステップが――」
「こぐのに疲れたら、そこで休んでればいい。後ろの運転手がそうできるように、ちょっとだけ改造されてるからな」
「本当に大丈夫なのかっ!?」
違法自転車――と思われたような気がしなくもないが、そういった魔改造でもないので、親からは問題ないと言われている。
「ま、こまかいことはさておいて――そろそろ行くか」
「ちゃんと返事をしろって! もうっ、強引だなっ!」
文句を言いつつも雄馬がこぎだすと、姫王子も後ろでペダルを回し始めた。
タンデムに乗るのは久しぶりだが、そういえばこんな感覚だったなと、なつかしい気持ちも同時によみがえる。
「おおー、すごい……思ったより重くないね。むしろ快適かも……」
「そりゃよかった。これできついようなら、別のタンデム三輪とかにしてもよかったんだけどな」
「さんり――え、三輪車?」
「いや、そういうのではなく――」
タンデム三輪はいわば、自転車の前に車椅子をセットしたような形状で、介護などでも使われる乗り物だ。
別の型のものもあるが、姫王子を乗せて使うとしたら、その車椅子型のものになるだろう。
「前に座っててくれれば、俺がこいで学校まで行ける感じで」
「そ、それはさすがに恥ずかしいかな……ごめん、ちょっと休ませて」
「了解。あんま無理はしなくていいからな、できる範囲で――あと、こぐときはひと声かけてくれれば、それでいい」
「うん、わかった」
出発して十数分ほどだろうか、そう言って彼は脚を休ませていた。
昨日からの疲労蓄積もあるだろうが、それを抜きに考えても、やはりここからの自転車通学は厳しいだろう。
それを思えば昨日は、よく学校まで到着できたものだ。
「……よくがんばったな」
「えっ、なに急にっ? っていうか、現状がんばってるの羽生くんだけど」
たしかに、姫王子が脚を休ませているということは、動かしているのは雄馬ひとりということになる。
しかし雄馬は苦にした様子もなく、すいすいとペダルを回して、むしろ二人のときより速いくらいの勢いで、通学路を驀進していた。
「……お父さんがって言ってたけど、羽生くんもよく乗ってるんじゃない?」
「自転車のことか? まぁ、自転車競技とかする感じじゃないけどな。普通の人よりは、頻繁に乗ってるほうだと思うぞ」
家庭の事情もあって、父親は必要以上に雄馬の相手をしてくれている。
もちろん、高校生――というか思春期以上になってからは、そうした機会も減ってきてはいるが、かつてはサイクリングなどもしていた。
「いいね、サイクリング! こうやってると、僕でも行けそうな気分だ」
「俺も昔は、こういうタンデムで親父に引っ張られる形で、連れて行ってもらってたよ。慣れてきたら、それぞれの自転車だったけどな」
そんな話をする合間にも、姫王子は何度か、ペダルに足を戻している。
脚の疲労、もともとの体力。
そのあたりの配分は、自分でも把握できているらしい。
「――ひとりでも乗れるようになったら、サイクリング行ってみるか」
「ほんとっ? ははっ、それは楽しみができた――体力づくり、がんばるよ」
「ああ、だけどゆっくりな。無理はするなよ、身体こわすだけだからな」
わかってる、わかってる――と。
彼は調子よく返事をしていたが、道程の半分も過ぎるころには慣れてきたようで、ペダルを回す頻度も上がってきていた――。




