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12/23

後日談1

後日談も見てみたい、との声があったので少しだけ。

思いついたら、たまに追加するかもしれません。

三人視点のほうは、綾香については考えてみたものの、重かったり思考に一貫性がなかったりと、公開できそうな仕上がりでなく……。

三人とも反省はしてます、許してはもらえませんが、という感じだと思っておいてください。

 翌日、月曜の朝――。

 いつもどおりの気分で迎えに行こうとするものの、やはりそうはいかない。

 どうせ自転車移動で崩れるにもかかわらず、妙に髪形を意識してしまったり、服におかしなところがないかなども気になってしまう。


(彼女……ってことになるんだよな、公言はできないって言っても……)

 しかも雄馬にとっては初めての彼女、それもとびきりの美少女だ。

 舞い上がって妙なことをしないよう、気を引きしめる必要がある。

 ――のだが。


(……ニヤけてる場合か、バレたら日本経済がやばいんだぞ)

 鏡の前で頬を叩き、隙あらば緩もうとする唇を引きしめさせ、冬の早朝という寒空の下へ向かう。

 先週まではそれほどではなかったのだが、昨夜から寒波の影響が強くなってきたらしく、今朝はとみに寒くなっていた。

 すでに十二月に入っている、ここからが冬の本番というところか。


(あ――そうだ、これも持っていっとかないと)

 昨夜、姫王子――稜のマンションから帰る前に、明日は寒くなるからと防寒具の話はしておいたが、なにが必要かは詳しく伝えそこねている。

 メッセージアプリのやり取りはしたが、どこの恋愛小説かと思うような、妙に初々しい会話に終始してしまい、そうした事務連絡はしづらい雰囲気だった。


 そういったわけで、自転車通学に慣れない彼女のために、用意されていなそうな防寒具を、予備として持っておこうという運びになる。

 あくまで、なかった場合に急場をしのぐもので、明日には彼女に合ったものが用意されるとは思うが、それでも――。

 自分のお古を、彼女が使ってくれることになればと思うと、先ほど引きしめた頬が、また緩んでしまうのだった。


     …


「おそーい」

「いや、悪い……出がけに手間取った」

 ロビーで出迎えてくれた稜に、片手を上げて答えつつ、彼女の服を見やる。

 スッキリとしたシルエットのハーフコートに手袋と、自転車をこぐに相応しい格好ではあるが、それ以上に受ける印象があった。

(……まずい、俺の彼女がかわいすぎる)


 おそーい、などとあざとい言葉でふくれる表情もさることながら、制服に合わせたデザインのコート姿は、彼女を知らなければ普通に女性に見えてしまう。

 いや、実際に女性なのだから、それは当然なのだが――男装だという点を強調しなければならないのに、こんなにかわいくてよいのだろうか。


「どしたの?」

「……見惚れてた」

 学校では男子として、友人として接しなければならないのだ。

 ここでくらい、彼女の服を褒めてあげたい。

 そんな思いから素直に伝えてしまうと、稜の白い肌はみるみる赤く染まり、困ったような曖昧な笑みを浮かべた。


「あー……うん、ありがと……えへへ」

「ああ、いや……」

 おかしい――先週までは、完全に男友達のノリで話していたというのに、たった三日でこうなってしまうなんて。

 男子三日――いや、女子三日会わざれば、とでも言おうか。


(……こんなかわいい子が彼女でいいのか? しかも俺、キスしたんだぞ?)

 乾燥の強い冬場ということもあってか、唇には瑞々しいリップが甘く引かれており、それが雄馬の視線を誘導する。

 それに気づいたのか、稜は目を見開いて周囲を見回し、人気がないことを確認すると、スススッと身を寄せてきた。


「……見すぎっ」

「うっ……わ、わかってる……ちゃんと、学校では気をつける」

 そう返しはするが、ほんとかなー、と疑うような目を向けてくる彼女もまたかわいらしく、はっきり言って、気をつけられる自信はない。


「んー……………………ちゅっ」

「――っっ!?」

 そんなことを考えていると、不意打ちのように彼女が唇を重ねてきた。

 一瞬で離されてしまったものの、その温かさとやわらかさは、しっかりと感触を残している。


「おまっ……だ、誰かに見られたらどうすんだっ」

「ちゃんと確認したよっ……っていうか、雄馬が見てくるからだよっ」

 自分の頬が緩んでいるのはわかるが、真っ赤になった稜の顔も、うれしさを隠しきれていないことは明白だ。

 これではまるで、バカップルのようではないか――。


「――まるでではなく、まぎれもなくです、お二人とも」

「ひぁっ!?」

「おうわぁぁぁっっ!?」


 そんな雄馬の心を読んだように、二人の間にヌッと割り込んできたのは、彼女のお手伝いさん――かつ、彼女の姉であるレイコさんだ。

「幸い、私しかいませんでしたが……外ではくれぐれも、お気をつけください」

「は、はい……もちろんです」

 正面に立ち、ジロリと睨みつけてくるレイコさんの圧力に、何度もうなずく。


 やがて彼女は納得してくれたのか、満足したように瞳の圧を緩め――おもむろに顔を上向かせ、スッと目をつむった。

「――って、なにしてんのレイコさん!」

 慌てて稜が引き剥がそうとするも、レイコさんは動じない。


「お嬢さまにできない分、私にしていただこうかと」

「なんでそうなんのさ! そりゃ、外ではできないけど……へ、部屋の中ですればいいわけだしっ」

「落ち着け稜、おかしなこと言ってるからな」


 などと冷静なふりをして突っ込むが、雄馬とて動揺はしている。

 稜とはタイプこそ違うものの、レイコさんもクールな秘書系の美人だ。

 そんな彼女のキス顔を間近で見せられ、されてもよかったかのような発言をされては、意識しないほうが難しい。

 しかもバストは、101センチ――。


「――雄馬」

「はい」

「そろそろ行こう、遅くなっちゃう」

「はい」


 得も言われぬ迫力に従い、ロビーから外に出ようとして――。

「あ――そうだ稜、これつけといたほうがいい」

「え、なに――あ、イヤーマフ?」

「ああ。今朝はかなり寒いしな」

 普通にしてても耳が冷えるような気温だ、自転車ならなおのこと必須である。


「これって、自転車に乗ってつけててもいいの?」

「ああ。イヤホンとかヘッドホンがだめなのは、そこから音が出て、周りの音が聞こえなくなるからだしな」

 栓をするわけではない防寒具なら、普通に音が聞こえれば問題なしだ。


「……デザインについては、俺のお古だからあきらめてくれ。好みのが見つかったら、そっちと交換すればいいから」

 とりあえず今日のところはな、と彼女の耳にあてがっておく。

「よし、じゃあ行くか」

「……ねぇ?」


 改めて外に向かおうとすると、彼女が背後から呼びかけてきた。

「どうした?」

「買い替えるかはともかく、これ……もらってもいいん、だよね?」

「まぁ……俺はもう使ってないから、そんなんでよければ」


 単色で、頭の後ろを通って耳を覆う、シンプルなデザインのものだ。

 顔の前を覆うマスク型のものや、女性用のニット編みほっかむり型など、探せば色々なものがある。

 そういったものから、好みのものを選んでもらえればいいのだが――。


「……うん、これがいいっ」

「そっか。なら、もらってくれると助かる」

 照れくささを隠しきれず、鼻の下をこすってそう答えると、彼女は両手で、耳当てをキュッと押さえた。


「ん、大事にする♪」


 そんな幸せそうな笑みを向けられてしまったら、ここから学校までの道中、コートの必要がなくなるかもしれない――。

 雄馬は火照りをごまかすように、パタパタと顔をあおいだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 純粋にめっちゃ好き [一言] 「バレたら日本経済がやばい」という多分今後ここ以外で 一生目にすることはない文字列面白い
[一言] 良い物語でした。グッジョブ
[一言] とても面白かったです! 学校生活をもっと続けて欲しいって思っちゃいました! 他の人たちは男性だと思ってる、しかも3人組は主人公に擦り寄ってくるのを、嫉妬しつつイチャイチャするのとか見てみたい…
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