高嶺の花と、優しい彼。
とりあえず短編です。
好評だったら続きを書くかもしれません。
「ずっと前から好きでした。僕と付き合って下さい!」
……こんな感じの言葉はもう聞き飽きた。
「ごめんなさい」
そう簡潔に伝えると、男は渋々とどこかへ歩いていった。
「……どこの誰だか知らないけれど、なんでこんなに寄ってくるのかしら……」
私は高月琴音。この春入学したばかりの高校一年生。幼い頃から、外を歩けば誰かが振り向き、突然見知らぬ誰かに告白される。周りは口を揃えて「綺麗な人」「いつも可愛いね」などと言う。そんな感じの人生だった。
どうして皆が自分をそんな目で見るのかが分からなかった。私よりも姉や母の方が何倍も綺麗だ。私は普通の女の子。ただそれだけ。
家に帰って自室へ戻ると、やっと心が落ち着いた。
「琴音、ご飯よ。」ドアの向こうにいたのは、とても綺麗な私の姉だ。同性の私から見てもこれだけ綺麗なのだから、きっと男性が見たら、一瞬で惚れてしまうだろう。
「頂きます」
「召し上がれ」
いつも通りの2人きりの晩御飯。何を作ったとしても美味しいし、調味料も適量だ。私とはかけ離れた完璧な女性、それがこの人。
「何か嫌なことでもあった?」
「大丈夫よ。姉さんの料理はいつも美味しいわね。」
「ありがとね〜♪」
どうやらご機嫌らしい。やはり、いつ見ても綺麗だ。たまに見せる怒っている顔ですら、魅力的に感じてしまう。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
お風呂に入って少し予習をしたら、目を閉じて静かに眠る。 ……まるでこの世に存在しないかのように。
次の日、授業が終わると見覚えのない女子から呼び出された。
「何か用があるの?」
「決まってるじゃない。私の彼氏……いや、元彼の話よ。」
「貴女の彼氏と関わった覚えは無いのだけれど……」
「とぼけないで! あんたが昨日振ったのは私の彼氏よ!? いきなり別れを告げられたと思ったら、急に知らない女子に告白しに行って! 挙句の果てに振られてるのよ!? 彼が幸せになれるならそれでいいやと思ってたのに……!! なのに……なのに……! 何であんたは私から奪っていったの!? 全部持っているくせに!! 返して! 返してよ!! 私と彼の幸せだった日々を返してよ!!」
そう言うと彼女は泣き崩れた。なんて対応すれば良いのか分からなかった。ただ、私がこの人を傷つけてしまったのは明白だ。謝らなければ……
「ごめんなさい……」
深く頭を下げた。誠心誠意、心を込めて。しかし、彼女が泣き止む気配は無かった。彼女が泣き止むまでそばにいようとしたけど、
「とっとと消えて! もうこれ以上私から奪わないで!!!」
と拒絶された。
落ち込んで、ゆっくりと家へ帰る途中、金髪の軽そうな男にナンパされた。
「お姉さーん、ちょっとお茶しなーい?」
「バイトがあって急いでいるので」
「えー、いいじゃーん……」
「お断りします」
そう言って立ち去ろうとしたその時……
「おい待てよ。人が誘ってるだろーが」
ついに男が本性を現した。
「ですからお断りします」
「ったくめんどくせーな……」
「……ッ!」
強く腕を引かれて人気のない路地に連れ込まれる。
「ここなら何してもバレねーよなぁ?」
「止めて下さい! 通報しますよ!?」
「どーせ出来ないくせに。」
「…………」
しまった。今は両腕を握られているから動かせない。きっと大声で叫ぼうにも気づかれて口を塞がれる。
「おっぱい小さめだけどまぁ揉めればいいか〜」
「止めて下さい!!!」
……もう絶望的だと思ったその瞬間、高校生くらいの男子が金髪の後ろに立っていた。
「オイ、お前耳ついてねーのか? 止めてって言われてんだろ……とっとと離せ!」
とても怖い声で男子が叫んだ。
「ヒイッ……」
とても怯えた様子の金髪は、そのまま飛ぶように走り去って行った。
「ありがとうございました!!」
「いいよいいよ。たまにいるんだよね……ああいう奴……まぁ、君みたいな綺麗な人なら仕方ないかな……」
……ドクンと心臓が跳ねた気がした。この人に言われた「綺麗」はとても嬉しく感じた。これが俗に言う「一目惚れ」と言うやつだろうか……
「じゃ、また明日。高月さん。」
「あの……明日って……?それになんで私の名前を……?もしかしてストーカー?」
「いや違うからね? ……えっと、一応聞いておくけど、俺のこと覚えてる……?」
「……すいません!!」
「あちゃー……やっぱそうか……俺結構地味めだけど、流石に隣の人に忘れられるのはショックだなぁ……」
……そうか! ようやく思い出した。新しい隣の席の人だ。確か名前は……
「とみ山君……」
「お! 覚えててくれた!? よっしゃー!」
「あの……ちょっといいかしら……とみ山君の『とみ』って、ウ冠の富と、ワ冠の冨……どっち……?」
「ワ冠の方の冨だけど……それ、そんなに気にしないで良いと思うよ……俺もたまに間違えるし。」
「……そう。さっきは本当にありがとう。」
「大丈夫。気をつけて帰ってね。」
「さようなら。冨山君」
「さようなら。高月さん」
こうして、私が久しぶりに「綺麗」と言われることが嬉しいと思えた日は幕を下ろした。
……また明日も、冨山君と会えるんだ。そう考えると、明日学校へ行くのが楽しみになった。
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