悲劇
美幸は授業中ずっと横からの視線を感じていた。
「………。」
「………。」
気にしない!と言い聞かせても、どうにも意識が向いてしまう。
お昼になると、我慢ができなくなった美幸はカリュードを連れ出す。
「どうしたんだい?こんな人気のないところに呼び出して…。ひょっとして返事とか?」
「どうしたんだい?じゃないよ!あのね、授業中ずっと視線を向けるのやめてくれない!?」
「どうしてだ?」
「授業に集中できないの!」
「出来なくても理解ができれば良いだろう?」
「集中するから内容が頭に入るんだよ…」
「そうなのか?」
「え?」
「ぼーっと聞いていても頭に入ってくるんじゃないのか?」
「んんん?」
なんとも理解し難い言い草に、美幸は大量のはてなを飛ばす。
暫くブツブツとカリュードは呟いていたが、顔を上げて結論を言った。
「取り敢えず、授業中は美幸が集中出来れば良いんだよね?」
「う、うん。えと、それだけだから。」
じゃあねと美幸は教室に帰る。まだお弁当を食べていないのだ。
だが、引き止める人がいた。
「ここで食べようよ?」
「…いや、お弁当は教室にあるから…」
「ああ、それなら私の者に頼もう。…私の教室から美幸の分も弁当を持って来てくれ。頼んだぞ。」
「…海斗く「違う。」え?」
「会った時に言っただろう。カイと呼べと。」
「……カイくん?」
「カイ。呼び捨てだ。」
視線がとても痛い。有無を言わせない圧がかかってくる。
「……カイ。」
「何だ?」
「みんなの前で婚約者って、なんで言ったの!?」
「いいや?間違いではないぞ。覚えていないだろうが、私は一度美幸と婚約をしている。」
「……ちょっと待って、頭が追いつかない。え、私そんな記憶ないよ?」
「だから、記憶がないんだろう。心当たりはないのか?」
「っ!」
美幸は詰まった。
心当たりなんて、アレしかない。確信だ。
だが、人様に言うものではないので、言うかどうか美幸は迷う。
眼を泳がせていると、カリュードと視線が合う。
言えと促してくる。
美幸は溜息をつくと、あまり思い出したくない思い出を話す。
「……十年前に交通事故に遭って、記憶喪失。」
「……っ!」
カリュードが息を飲むが、美幸の口は自然と言葉を繋いでいく。
「私はよく覚えていないから、知人の情報になるけど…家族でドライブしていたところにトラックが突っ込んだらしいの。私以外の家族は、全員この世からさよなら。奇跡的に息をしていた私だけが助かったの。だから、今の両親とは血が繋がっていない。でも、お母さんたちは実の子供のように接してくれるけどね。」
だけど…と美幸は呟く。
「時々、なんで私だけ助かっちゃったんだろうって思う。生きているのは嬉しい。だけど、肉親は私を残して逝ってしまった。…会いたいって思っちゃうんだよ。顔なんて欠片も思い出せないのに。」
「……記憶喪失だから仕方ない。私は美幸が生き残ったなら、それでいい。家族は私の知ったことではない。」
「……え?」
同情など期待していない。慰めなど以ての外。
だが、美幸は
家族を否定されるのは望んでいない。
愕然としていると、カリュードは心がないようなことを言う。
「美幸の家族なんて、私は知らない。だけど、美幸を生かした点はとても評価するよ。あとはそうだね…」
「……ふざけないで!」