異空間での出会い
その次の日も美幸は誰もエレベーターに乗っていない時を見計らって異空間に向かった。
鬼に捕まる心配もないので、隠れ場所にもピッタリだった。
しかし、違う点があった。
「……貴方は誰?」
宇宙空間に一つの男が立っていた。
背丈から見るに、年は美幸より少し上か、同じぐらい。
少し離れたところにいる男は、静かに星を見つめている。
しかし、何故ここにいるのか。なぜ同じように美幸は疑問しか浮かばない。
男は美幸の声に顔を向ける。
遠目からでもわかる冷たい表情に美幸の体はこわばるが、それが嘘のように目があった瞬間蕩けるような笑顔を見せた。
「……美幸!」
美幸のように、自由に動けるらしく、まっすぐ飛んでくる。そして、美幸を力のあらん限り抱きしめ、唇を奪った。
「んっ…!あふ…」
見知らぬ人に突然キスされるという状況に一瞬で美幸の脳は混乱する。
酸素が足りなくて美幸が口を開けると、舌が潜入する。
腰が抜けていて動けない美幸は、拒みたくても身体が思うように動かない。
「…っ…」
長いキスが終わると、美幸はぐったりとしていた。
男は申し訳ないという顔をして、それ以上する事はなくなった。
だが、美幸の腰に回されている手は離れない。ぐいっと引き寄せられると、男は鼻と鼻がくっつきそうなぐらい顔を近づける。
美幸の目は澄んでいる翡翠色に惹き込まれる。ファーストキスがー、と騒げる余裕はない。
「ああ、ごめん。でもさ、久しぶりだから仕方ないよね?」
「…え?あの、何を…?」
今すぐここから逃げたいぐらいの羞恥心に晒されていたが、聞き捨てならない言葉が聞こえ、キョトンとした顔で見つめた。
だが、男は気付かずに一人恍惚とした顔で話し続ける。
美幸の頬を愛おしそうにそおっと撫でながら、髪を手に取る。
「ああ、確かにこの目と髪は美幸だ…。ねえ、なんで急にこっちの世界に来なくなったんだい?すごく心配したじゃないか。一週間来なくなった時、君の世界に本気で行こうと思ったよ。だけど美幸は絶対来てはいけないと言っていたから…」
「あの、何を言っているのですか?」
美幸は本当に困惑した様子だ。
男はみるみるうちに顔色が悪くなる。
「…冗談だよね?あ、もしかして忘れてる?やっぱり十年ぐらい前だと…」
「十年前?十年前に会ったことがあるの?」
「…嘘だよね?え、本当に覚えてないの?」
「覚えているも何も以前会ったことはないですよね?」
美幸は記憶喪失の間に何かあったかと思ったが、親から何も言われていないので、すぐに可能性を潰す。
男は首を振り、否を示す。
「…いいや、此処で毎日会っていたんだ。十年前までは。…なあ、本当に覚えてないのか?」
縋るような眼に見つめられ美幸は覚えていると言いたくなったが、流石に覚えのないことをうんとは言えない。
「すみません、人違いじゃ…?」
「……そうか。」
男は少し俯いたかと思うと、ばっと勢いよく顔を上げる。
美幸はどこまでも真剣な翡翠に惹かれる。
だが、男はそれを吹っ飛ばすようなことをいう。
「なら美幸が思い出させるまで側にいる。」
「……え?」
「ずっと、片時も離れない。流石に家までは押しかけないが、可能な限りは隣に居る。…ねえ美幸。私は神にでも誓ってもいいけど、貴方のことを愛しているよ。」
突然なんていうこというの!?と美幸は混乱した。
何故会ったばかりの人に告白されなければいけないのか。プロポーズまがいのことを言われているのか。
もう茹でタコみたいに真っ赤になった美幸はちゃんとした言葉が言えない。
「…え、と…」
「返事は全てを思い出してからでいいよ。だけど、私はいつまでも待つけど、なるべく早く思い出して欲しいかな。」