ゲームの始まり3
「……っ!」
「…くっそ待てよ!」
「……っ!」
美幸はまた追いかけられていた。鬼は変わり、栄樹になっている。
口調は乱暴になってえり、おそらくこれが素なのだろう。
引き離そうとしても食らいついてくる栄樹に美幸は焦りを感じている。
栄樹は足が遅いと記憶していたのだが、偽っていたのだ。
こののままだと捕まってしまうが、人が多いと上手く動けない。逆に見つかりにくいのだが、巻き込むのは避けたい。
大人や中学生以下が気味の悪い顔でみる。対して高校生は口を押さえて真っ青な顔になっている。何が起こってるのか分かってしまったのだ。
美幸は角を曲がり、壁に身体を隠す。冷静さを欠いている今なら通用するかも知れないと、淡い期待を抱いて。
そして賭けに勝った。
栄樹は「くっそ」と言いながら立ち去る。
美幸は息を吐いた。
そして踞る。
「うぅ…なんで友達と命の駆け引きをしなきゃダメなの?」
美幸の本音だ。
だが泣き言を言っている暇はない。
頭では分かっているのだが、身体は疲れ切っている。
長い時間走り続けるなど、無理なことだった。
しばらく休み、歩き出す。
聴覚に細心の注意を払い、目で状況を把握する。
一階からは上の階が見えないが、音的に…
「なんで聞こえるの?まさか二階に?…五階に行かなきゃ!」
普通の鬼ごっこのように。遠くに逃げて必要時以外動かない。
美幸は足をパンパンと叩くと、気合いを入れ直す。
誰かが居なくなるのは悲しい。だけど少女は罰と言った。
なら殺すような事はしないはずだ。…そう信じたい。
美幸はエレベーターへと向かう。
五階を押して、人混みに紛れる。
(ふぅ…五階についたら…)
二階でエレベーターの扉が開く。
何気なく目を外へ向けると…栄樹と目があった。
「……!?」
何でいるのか、タイミングが最悪すぎたのだ。
真っ直ぐ向かってくる。
美幸の前に立っていた人が降りていく。
全てがスローモーションに見える。
モノクロの世界で美幸は考える。
このままだとーーー
(捕まる!?)
時の流れが元に戻る。
降りる人が全員降り、待っていた人が順番に乗り込んでくる。
美幸は青ざめると、咄嗟に近くにあった閉じるのボタンを連打した。
扉が閉じ始めるが、外の人が矢印を押して留める。当然のことだが、文句を叫ぶ。
「おい!」
「俺らまだ乗ってないぞ!」
「挟まったらどうするんだ!」
美幸は珍しく顔を歪めた。
「お願い!今だけは許して下さい!だから閉じさせて!」
栄樹は何をしようとしているのか分かり、口を開ける。
そして、その小さな身体からとは思えない程の大声が出る。
「待て!」
大人が吃驚して栄樹を向き、何かが起こっていると考え出す。
「いや!」
反射的に美幸は叫ぶ。
一般の人が混乱しているが、美幸の必死さが伝わり、扉を開けようとしなくなった。
妨げるものが無くなった扉が閉じていく。
栄樹が手を伸ばす。だが…
ウィーーン
エレベーターは元どおりに動き出した。
美幸は人目を気にせずへたり込む。緊張の糸が切れたのだ。
そしてアナウンスが流れる。参加者にしか聞こえない音が。
『一時間が経ちました。最後の鬼は塀大栄樹。みなさん中央に集まってください。」
「…ははっ!」
「嬢ちゃん大丈夫かい?」
エレベーターに乗っていた人が心配する声をかけたが、美幸の耳には入らなかった。
考えている事は一つ。
(あとこれが六日間続くのか。)
ーーーー地獄の始まりだ。
異空間にいくのは次の日…です。
そして主人公はとてもピュアな真っ白い女の子です(中学にでもなると珍獣ですね