私の心理
美幸はベッドにダイブすると、目を瞑った。
「…強く、言い過ぎたかな…?ううん、あれぐらい当然だよね…?」
時計は夜の11時をすでに指している。
あっという間に過ぎた時間の間、美幸は同じことを考えていた。
「…海斗…カイはどう思った?私を嫌いになったかな?」
そうであって欲しい。
美幸は呟くと、ある事を思い出す。
「そういえば…カイは何処かで会ったことがあるって言ってたよね?」
視界が変わる。
ショッピングモールだ。
「さーて、残りあと三日!ラストスリーだよ!今日も頑張ってね!」
少女はいい去った。
美幸はその少女を追いかける。
(この子なら何か知ってるかな…?)
ずっと前からある怪談、『ショッピングモールに住む、鬼ごっこの少女』。
では、自分が来たことはあるのだろうか?毎日来たことがあるのだろうか?
「私は…確かめたい!」
何か霧がかかっている。隠されているのは何か。
「待って…!」
少女な振り向く。必死な表情の美幸を見て、思わず足を止めた。
「…はぁ…はぁ…」
「お姉ちゃんどうしたの?」
美幸は息を整えると、肩を掴んだ。
「貴方はいつからここにいる?」
「…分からないけど…少なくとも二十年はココにいるよ。…痛いから離して。」
少女は訳がわからないというふうに眉をひそめる。そして、その小さな身体のどこに込められているんだというぐらいの怪力で美幸の手を払った。
しかし、美幸は特に驚いた様子を見せず、更に問い詰める。
「…十年前、ここに小さな女の子が毎日通ってなかった?」
一筋の希望にかけて、尋ねる。必死な美幸にうーんと言いながら少女は記憶を探り、「懐かしい」と呟いた。
「いたね。貴方のように何故か私が見えて話しかけてきた奇妙な子。アホっぽかったけど。」
毒舌な言葉とは裏腹に優しい表情をする少女は、確かに長く生きているんだろう。大人びた雰囲気がある。
しかし、美幸はその目を零れんばかりに見開かせた。
「……あるかもしれない、私が忘れている時間がーーっ。」
突然強く背中を押され、美幸はよろめく。
背後には狂った表情の奏が手を突き出した姿。そして、その後ろには、栄樹がいる。
少女との会話に集中していた美幸は近づいてきていたのに気づけなかった。
まあ…気づいていればどうにかなったのかは別だけれど。
「まさか…!」
「ふふっ!ふふふふっ!アハ、アハハハ!これであんたが今日の鬼よ!ざまあ見なさい!」
(やっぱり…!)
「なんで…?」
「私は人類の宝よ?貴方よりも価値があるから助かるのは当然よね!?それに、貴方のような子が海斗さんに釣り合う?現実を見ろ!調子乗るんじゃないわよ!!」
突然目の前が真っ暗になった気分。
今まで見てきた奏は偶像で…今見ている奏がきっと本来の姿なんだろう。
ーー何故人に押し付けるんだ?何故私を?何故二人は一緒にいた…?
ぐるぐると考え、気が付けば栄樹に助けを求めていた。
「栄樹くん…!」
しかし、鼻で笑われる。
「俺が生き残るためだ!何が犠牲になろうと何でもいい!」
この言葉に美幸は…今度こそ絶望した。
皆覚えているだろうか?栄樹は穏やかな子…だった筈だった。
しかし、素性を隠していたのだろう。
美幸は言葉を返せない。
何か良い返さなくては。でも何を?
(私は…)
だっと駆け出し、エレベーターのボタンを押す。
後ろから少女の呼ぶ声が聞こえたが、御構い無し。
神が味方をしてくれたのか、誰も乗っていない。
ホッと息をつく。
美幸はいつものようにあの世界へ向かった。