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あの世界

美幸はその後、カリュードを徹底的に無視した。

目を合わせず、近くにも寄らない。

こうしていると、第三者まで当然何かがあったと伝わる。


「羽鷺さん、海斗となにか…いや、何でもない。」


しかし、聴きたくても聞くことはできなかった。

それは美幸がかつてないほど不機嫌オーラを出していたからだ。


学校が終わると、美幸は真っ直ぐ家へ帰る。

扉を開けようとして、何気なく隣を見た。


なにもない。


「まあ、あれだけ言ったらどっか行ってくれるよね?」


「誰が?」


「うわっ!」


後ろから突然声がかかり、美幸はビクッとなる。

振り返るとそこには予想通り、笑顔のカリュードがいる。


「私がどこ行くって言った?」


「え?だって家無いし…」


「あるけど普通の人には見えないようになっているんだよ。美幸ならいいけど…見てく?」


「遠慮しときます!」


昼間の会話が嘘のようにカリュードはいつもの調子で話す。

しかし、美幸は戸惑うも、怒りが冷める気配はない。


「遠慮しなくても良いんだよ?だって婚約者だからね。」


「お昼の時の会話を忘れたの!?」


美幸は噛み付くが、カリュードは飄々としている。

更に怒りが募り、歯嚙みをしていると、美幸の義母(はは)が現れた。


「外で声がすると思ったら…早く家に入ったら?」


「う、うん…」


もやもやした気持ちが残ったまま、美幸は我が家へ帰った。


カリュードは理解不能と呟く。


「私がいけないのか?何がだ?人間と何が違うんだ。私は…」


無機質な声が響く。

自問自答しているが、一向に答えが出ない。


なんの表情も浮かんでいないカリュードは、一つの空間へと足を踏み入れた。










そこは何もない真っ白な世界。いや、何もないというのは嘘だ。

一つのアルバムが宙に浮いている。


カリュードは茶色のアルバムを取ると、いつもと同じページを捲る。


「…私はあの時から何も進化していない。美幸の記憶が戻ったら…」


「カリュード様、陛下がお呼びで御座います。」


突然、違う声が空間に響いた。

カリュードは溜息をつくと、侵入者を睨みつける。


「アジビル。邪魔をするなといっているだろう。」


「申し訳御座いません。ですが、それが私めの仕事ですので。」


「真面目で結構結構。…父上が呼んでいるとは?」


「そろそろ王になれと。」


「またか…」


再びの溜息。


いくつもあった国を一つにまとめたあの世界は、存在する国王は一人だけ。つまり、人類の一番上が国王なのだ。

そして、カリュードの父は王。つまり、カリュードは王太子だ。

美幸は覚えていない。だからこそ言えない。


自分が王太子と知って欲しいのか?…微妙なのである。


「私は運命の美幸に会った。だからそれまで待って欲しい。」


「…あと一つ伝言があります。一週間後に、冠の受け渡しをすると仰ってます。」


「っ!?」


冠の受け渡しとは、代替わりに行う儀式のことだ。

つまりーー


「期限は一週間後、という事か?」


「はい。」


カリュードは頭を抱えた。

何故美幸をあっちに連れていく前提なのか、頭痛がしてしまう。


今日は、よくわからないが美幸を大激怒させてしまった。

更に痺れを切らした王からの期限。


「何もかもうまくいかない…」


その姿をアジビルが、哀れそうに見た。


「……取り敢えず、待ってくれだけ言ってくれ。」


「了解致しました。」


どうしてここに来て全てがうまくいかないのか。

計測不可能な現実はいつだって無情で。


「…あの日だってそうだったんだ…」


「何か仰いましたか?」


「いや、何でもない。」


どうやって美幸の機嫌をとるか、更にカリュードは悩ませられた。

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