家族円満とルール
「お母さん!今日はお昼、ラッキーセットが食べたい!」
五歳の美幸は車に乗ると、一番にそう言った。
美幸の妹の南は、便乗するように、行きたいと復唱する。
助手席に座った女性ーー美月は、困った笑顔になると、運転席に座った旦那に話しかけた。
「あなた、今回のおもちゃは何だったかしら?」
ラッキーセットには、おもちゃが付いている。
それが目当ての姉妹は、CMを見るたびに食べたいという。
「確かプルキュアじゃなかった?CMで僕も見た。」
女の子に大人気アニメは、当然美幸たちも好きだった。
目を輝かせ、漫画なら間違いなくバシッと音がつきそうな勢いで指を突きつけた。
「そうなんだよ!これは買うしかないでしょ!」
「ふふっ、そんな言葉どこで覚えたの?…春さん、いいかしら?」
春さんとは、春樹の事だ。妻の特権というやつだ。
春樹は頷くと、ハンドルを切る。
「いいんじゃないか?折角の外出だし、たまには良いか。」
「やった!南、何が出て欲しい?」
二歳下の南は、うーんと考えるそぶりを見せた。
「お姉ちゃん、わたしはキュアラッキーがいい!もう大好き!お姉ちゃんは?」
「当然ビューフル!冷静沈着で素敵!」
手を組んで、すてき〜とうっとりする。
南はお姉ちゃんを真似した。
「「すてき〜」」
見事にハモった声は、まるで双子のよう。
可愛い姉妹を見て、美月は、口が綻んだ。
更にそれをみた春樹は、心が和む。
車内はいつものように幸せが溢れていた。
だが、終わるのは唐突だった。
「は!?」
春樹の叫び声に、三人はビクッとなる。
何事かと前を見ると、乗用車が車線を無視して割り込んでいた所だった。
美幸たちの車は危うくぶつかりそうになったが、ギリギリで避けた。
怒りが収まっていない春樹は、文句を言いまくる。
「なんなんだよ。車線移動できないってあんのになんで無視したんだ。ぶつかりかけたじゃねーか。俺じゃなかったら事故が起きてたぞ。」
子供の前では隠している口調が漏れてしまっている。
だが、美月も止められない。
もしも春樹でなあったらと考えると、恐ろしい。
春樹は運転が上手い方だ。だから今の有り得ない状況に対処できた。
美月はあり得ないと呟くと、よく分かっていない娘たちを見る。
「お母さん、なんで今のはダメなの?」
「それは車線が黄色いからだよ。黄色の車線は、車線変更をしてはいけないの。さっきのところにもあったんだけど、あの車は無視をして飛び込んできたから、衝突して事故が起こるところだったの。」
「そうなんだ…」
「…お母さん、また」
「なあに?」
「また目の前にトラックが…」
「え?」
美月は振り向き、再び前を向いた。
すると、すぐさまに顔面蒼白になる。
「…春さん、なんでルールを守れないのかしらね。」
「ふざけんなよ!」
視線の先には、ガラスいっぱいにトラックのボディがあった。
そこからは美幸は覚えていない。