セーラー服のサンタクロース
クリスマスは苦手だ。
きらびやかな装飾、御馴染みの陽気なメロディ、はしゃぐ子供達に、何となく浮き足立つ大人。
キリストさんには縁の無い人間が過半数を超えるこの日本の、何の為、誰の為だか分からないこのイベントが、俺は苦手だった。
子供の頃はそれなりに楽しんでいた。
それこそサンタクロースを信じてプレゼントを待っていた可愛い時代もあったし、恋人と甘い時間を過ごした事もある。
それは今でも良い思い出だし、かつての自分と同じようにイベントを楽しむ人々を否定したりはしない。もちろん、自分が独り身だからって仲睦まじいカップルに向けて舌打ちなんてしない。
俺が苦手なのはイベントそのものではなく、どちらかと言えば「サンタクロース」という赤いオジサンだ。
昔は憧れていた存在も、今の俺にとっては天敵でしかなかった。
「ミッキー先生、先生はサンタさんに何頼んだの?」
「先生、サンタさんは私にもプレゼントくれるかなぁ?」
「ねぇ先生。この病院、煙突ないけどサンタさん大丈夫かなぁ?」
「ねぇねぇミッキー先生、サンタさんって本当にいるの?」
そう言って見上げてくる純粋無垢なキラキラとした瞳が、俺は苦手だった。
どう答えるのが正解か。
正解はもちろん「サンタは居ない」だが、それを夢見る彼らにハッキリ言う度胸などなかった。
だから代わりに
「もしも何かくれるってんなら俺は車だな。出来ればBMW。」
「いい子にしてればもらえるんじゃねぇの?」
「煙突がなきゃ窓とかドアから勝手に入ってくんだろ」
等と毎年適当に答えるのだ。
心底信じているヤツらはまだ良い。
一番厄介なのは、半端な年頃の、サンタを信じきれなくなってきているヤツらだ。
自分で気付いたのか誰かに言われたのか知らないが、サンタという存在に疑問を持ち始め、しかし信じていたいと思いながら尋ねてくる。あの不安定に揺れる小さな瞳が、何よりも苦手だった。
「お前がいると思うならいるんじゃねぇの?」
毎年そうやって、答えになっていない曖昧な答えで誤魔化していた。
そして、今年もそんな季節が来たなぁ、と憂鬱になり始めた、ある年の12月半ば。
俺は、サンタクロースに出会った。