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80.

「──あ」


皆で食事をしている途中、ふいにヴァルツが声を上げた。

何事かと隣を見たフィーリアに、ヴァルツがポケットに入れていた宝石を取り出す。


「いしが……」


ヴァルツの呟きと同時に、宝石がぱきんと小さな音を立てて砕けて、ヴァルツの瞳の色が黒へと戻る。


「効果切れると割れちゃうんだ、勿体ない。んーと…5、6……7日、かぁ。ヴァルツは石が割れるって分かったの?」


フィーリアはヴァルツから砕けた宝石を受け取りながら首を傾げる。


「うん。 いしをもってるときは、フィーリアのちからがフワフワって、してるから」

「私の力……魔力が、フワフワ?」

「こうやって、ぼくのまわりにあるの」


ヴァルツは自分の頭から輪郭をなぞるように手を動かす。


「あぁ、包み込んでるって事。 じゃあ、そのフワフワが無くなりそうっていうのが分かったのね」

「うん、フワフワが……ゆらゆらってした」


ヴァルツの言葉に、フィーリアは目を瞬かせる。


「ヴァルツが優秀なのか、魔力があれば誰でも分かるものなのか……」

「それも実験するの?私も何か持ってみたい!」


フィーリアの呟きに、ミリアが興味津々といった様子で手を上げる。


「じゃあ効果はさっきの、アルが言ってた痛み軽減とかかなぁ。何かリクエストあれば聞くよ~」


出来るかは分からないけど、と付け足したフィーリアに、ミリアがぱくりとパンにかぶりつきながら唸る。


「うーん、ちょっと考えてみる……」

「お願いします」


戦闘中に使えそうな何かを提案してくれそうだと期待しながら、フィーリアはミリアにぺこりと頭を下げると、改めて自分の手の中の砕けた宝石を見る。


「この大きさで7日かぁ……王都までって、あとどれくらいかかりそうでしょうか?」

「とても順調なので、このままのペースでいければ15日程度でしょうね。食事が終わったら宝石を見ながら話しましょう」

「はぁい」


クラースに言われて、フィーリアとヴァルツも食事を再開させつつ確認を続ける。


「石が割れた時も、おかしい感じはなかった?」

「うん、だいじょうぶ。 でも、フワフワがなくなって、さみしい」

「さみしい?」

「フィーリアが まもってくれてるってかんじが、なくなるから」


スープを口に含んだところだったフィーリアが、ヴァルツのその言葉にぐっとむせる。


「んんっ……何か分からないけど、すごい照れる!」


頬を赤らめたフィーリアに、クリスタが微笑む。


「フィーリアはヴァルツのお母さんですね」

「一応同い年なんだけど……」

「すみません、言葉が悪かったですね。心の支えとか、守護者とか、そういう……安心して委ねられる相手、という意味で」


クリスタのその言葉に、フィーリアは何となく全身がくすぐったいような気持ちになって、誤魔化すようにスープをかき込んだ。



❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊


「ま……まぶしぃ………」


そう言ってフィーリアが後ずさるのを、アレンフィードが押し止めて元の位置に座らせる。


「宝石だと思うな。石ころだ、これは」

「む……むりぃぃ………っ!!」

「じゃあ鉱石」

「間違ってはないけれども!!!」


イヤイヤをするように首を振って、また後ずさろうとするフィーリアに、クラースが視線を向ける。


「では、効果付与は行わない、という事でしょうか。でしたら、全部しまいますね」


クラースが袋から取り出していた宝石達を戻し始めたのを見て、フィーリアはひゃうっと悲鳴をあげて、慌てて元の位置に座り直す。


「や、やります……。やります、けど……。あの、その辺のすごく大きいのは……怖くてたまらないので、しまって頂いて構わないかと思いますです」


フィーリアが震える指で示した辺りの宝石は、これ本当に国宝とかじゃないの?と言いたくなるレベルのサイズだった。


「まぁ確かに、今は不要かもしれませんが。フィーリア嬢には慣れて頂いた方が良いと思うので、出しておきます」

「な……慣れる?何でですか??」


内心で「しまってぇぇぇ!!!」と叫びながら、フィーリアはクラースを見る。


「宝せ……いえ、鉱石に何かしらの効果を付与するという魔法は、魔法師団に持ち帰れば相当研究されて、将来的には大活用されるようになると思います。年齢的にフィーリア嬢がすぐに魔法師団でどうこうという事はないでしょうが、テオドール様の性格を鑑みるに、そんな事は関係なく研究室に呼び出すくらいの事はやるでしょう」


「え、社畜コワい。 私まだ8歳なので、労働基準法的な何かで守ってもらいたい……」

「ないからなぁ、労働基準法。市井の子供達は普通に働いてたりするしな」


背後のアレンフィードから無慈悲な回答を貰って、フィーリアはうぅぅと呻く。


「そして "魔法師団長" が持ってくる鉱石は、恐らくはこの辺りが最低レベルです」


フィーリアから見て左から右にかけて大きくなっていくように並べられた宝石の、真ん中から右寄りの……一番長いところで3cmはあろうかという大きさの石を指さされて、フィーリアはぐらりと傾ぐ。

本当に倒れるのではないかと思うくらいの傾ぎっぷりに、アレンフィードがフィーリアの肩を支えた。

ちなみにスノウはヴァルツに預けたので、フィーリアの肩は今フリーだ。


「つ……つかぬ事を、お伺いしますが……」


泣きそうな顔で、フィーリアがアレンフィードを見上げる。


「この世界の、宝石価値ってどんなもんなんでしょうか……」


「あー……日本よりは、だいぶ安価な印象だな。といっても俺は日本の宝石相場がよく分かってないが」


興味もなかったし、一介の男子高校生には宝石を買うどころか触れる機会なんてほとんどなかった。


「うぅんと……ダイヤ 1カラットが0.2gだったっけ?大きさだと5mmとか6mmとかだったかなぁ……それで安くても20万とか30万とかだったと思うけど。カットがどうとかで、一概に言えなかった気もする」

「あぁ、じゃあこっちの方が大分安いと思う。ダイヤではないが、さっきのこのサイズで……7、80万ってところか」

「そ……それでも私には充分コワいレベルですけれども……というかどっちにしろ庶民には手出し出来ない代物って事だよね?」

「アクセサリーで、それこそ1カラットもない3、4mmサイズで良ければ数千円レベルって事だぞ?」

「んむ……そういわれるとものすごく安い……?」

「まぁつまり、ここに転がってる鉱石は多分フィーリアが思ってる程高価なものではない、て事だ」


アレンフィードが雑に締めくくったのを、クラースが拾う。


「毎回そんな反応をされては研究側もやりにくいでしょうから。宝石を見ても『ちょっと良い石ころ』と思えるくらいには慣れて頂いた方が良いかと」


「い、石ころとは流石に思えない気がしますが……が、がんばり、ます……」



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