77.
レーヴェ村を出て暫く経ってから、フィーリアはヴァルツに髪色を変える魔法をかけた。
おかげであまり人と遭遇しなさそうな場所ではヴァルツもフードを取って歩けるようにはなったものの、安心して町などに立ち寄れるように目の色についても早急に何とか──と、アクセサリー類を持っていなかったフィーリアは道端で拾った石を使って"効果付与"が出来ないかの実験を始めた。
けれど効果付与を行うのに早々に問題になってしまったのが、石に対して魔力を籠めようとすると石が砕けてしまう、という事だった。
何度か砕けた後に、アレンフィードの思い付きでクラースが持っていた小さな宝石を一つ提供して貰ったところ、それは砕けずに済んだ。
どうやら石の質が関係するらしい、という事が分かると、クラースがいくつか宝石をくれた。
フィーリアは「砕けてしまうかもしれないのに宝石を頂くなんてそんなっ!」と慌てたものの、お金に困った時の換金用として持っていた物らしく、不慮の事故で割れてしまった傷物で、サイズも小さく大した価値もないからあまり気にしなくて良いと言われた。
地方の貧乏村民としては、そんな"傷物の小さくて価値がない"宝石でも十二分に、"超絶高価な物"なのでフィーリアとしてはものすごーく気になったけれど、ヴァルツの為だと言われてしまえば受け取るしかなかった。
「くそぅ、お貴族様めっ」というフィーリアの呟きに、内心同感だったらしいミリアとクリスタもほんのりと微笑んだ。
そうして砕ける事を恐れつつも、フィーリアは宝石への効果付与の実験を始めたけれど、これまたすぐに石自体の質が良くても小さすぎるものは道端の石同様に砕けてしまうようだという事が判明して、
そこでフィーリアは色々吹っ切った。
吹っ切れてしまった。
「宝石でも小粒は道端の石と変わらない!小粒な宝石は屑!」
とやけくそ気味に叫ぶフィーリアに、ミリアとクリスタは顔を見合わせて溜息を落とした。
庶民仲間が減った瞬間であった。
そうしてフィーリアは宝石への遠慮や恐れをかなぐり捨てて "小さくて価値がない" 中でも大きめの石を使って実験を再開した。
当初自分自身を実験台にしようとしていたフィーリアだったが、スノウが効果付与の終わった宝石をかすめ取るようにぱくりと咥えてしまうから、またしてもスノウに実験台をお願いする事になった。
宝石自体の色が変わってしまったり、スノウが咥えた途端に全身が染まって見えてしまったりと、何度か失敗を繰り返して、
そしてレーヴェ村を出てから3日目の野営中、思ったよりも早くにそれは完成した。
「じゃあ、スノウ。お願いします」
どうせまた何か違う事になるんだろうなと思いながら、フィーリアはスノウに宝石を渡す。
「キュッ!」
スノウが一鳴きして宝石を咥えると、宝石から放たれた魔力がスノウの全身を覆う。
「──―あ!?」
フィーリアがスノウに向かって手を差し出すと、スノウがぽわんとその手に飛び乗る。
自分の目の前にスノウを持ってくると、フィーリアはじーっとスノウの小さな瞳を見つめる。
「……変わってる……」
「キュウ♪」
「ヴァルツに持たせてみても……平気かな?」
「キュキュッ!」
スノウが尻尾をふさりと揺らしたので、フィーリアはヴァルツを呼ぶと、「ちょっとこれ持ってみて」とスノウから返してもらった宝石をヴァルツに渡す。
ヴァルツが宝石を受け取ると、宝石から放たれている魔力がヴァルツの身体を覆ったのと同時に、ヴァルツの黒い瞳が色を変えた。
「変わった……」
ヴァルツの瞳は、淡い茶色に見えている。
「ちょっと、ぱちぱちって瞬きしてみて」
フィーリアに言われた通り、ヴァルツが瞬きをする。
ヴァルツの瞳は、変わらず淡い茶色のままだった。
不自然な感じもない。
「ちょ……ちょっと、皆見てー!何色に見える!!?」
フィーリアの声に全員が集まってきて、ヴァルツの瞳を覗き込む。
ヴァルツはその間にも瞬きをしたり、視線をきょろきょろと動かしたりしてみている。
「茶色、ですね」
「うん、茶色に見える」
「横から見ても茶色だよ」
全員がきちんと茶色に見えている事を確認すると、フィーリアはへなへなとその場に座り込んでしまう。
「フィーリア?」
ヴァルツが慌てたようにフィーリアの前にしゃがむ。
心配そうに覗き込んでくる瞳はやっぱり淡い茶色で──フィーリアはそっとヴァルツの頬に手を伸ばす。
「見え方は?おかしくない?」
「うん、なにもかわらない。 ちゃいろくなった?」
自分の瞳を自分では見られないから、ヴァルツ自身は全く分からないようだ。
首を傾げているヴァルツに、フィーリアはへにゃっと微笑む。
「うん、茶色になってる。これで、フード被らずに歩ける、ね」
安堵しているフィーリアの頭を、アレンフィードが「お疲れ」とでも言うようにぽんぽんと撫でる。
「あとはその効果がどのくらいの時間持つのか、だな。 突然解けるかもしれないから、その辺は皆で気を付けておこう」
アレンフィードの言葉に、全員が頷いた。




