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夢から醒めた日② ―エリス視点―

そうして聞かされた話は、まるで実感のないもので……

けれど、確かにいくつかは覚え(・・)があった。



「私、の……赤ちゃんは……」


「あれから八年、経っているんだ」

「ヴァルツって言うんだ。とても可愛い子だよ」

「黒目も黒髪も、僕は綺麗だと思うんだ」



けれどやっぱり村では暮らしにくいだろうから、今村に滞在している義勇兵だという若者達を信用してあの子を預けようと思うんだと、パトリックが寂しそうに言った。


朧気ではあったけれど、覚えている。

私はあの子にとてもとても酷いことをしてしまった。

だからきっと、あの子は私を恨んでいるだろう。

これまでをなかった事にして一緒に暮らす事なんて、きっとあの子も、そして私も、出来はしない。


だから村から送り出すというパトリックに、私は頷いた。


  だけどどうしても……

  赦して、なんて言う資格がない事も分かっているけれど──



そうして次の日、月の光の女の子が、家に来た。


あぁ、思い出したわ。

あの時(・・・)この子はとても具合が悪そうだったのに、私はそんな子を突き飛ばした。



それなのに、その子は──フィーリアちゃんは、私に怒る事も責める事もしなかった。

パトリックがあの子をお願いしたいと伝えると、ホッとしたように表情を緩めた。


  一度だけで良いから、あの子と話がしたい


そう伝えると、フィーリアちゃんは泣きそうな顔で、微笑んでいた。



  あぁ、この子が居てくれたら大丈夫。 


そう思った。


私があの子に与えなかった愛情、 自ら手放してしまった家族の絆、

今まで経験させてあげられなかった、あの子がこの八年で当たり前に経験するはずだった色々な事、


きっと、この子が与えてくれる。


根拠なんてなかったけれど、ストンと、そう思った。



次の日、対面したあの子は、少し怯えたように私を見ていた。


黒目、黒髪──


恐くないかと言われたら、まだ恐れは、ある。


でも目元がパトリックに似ている。

口元は、私に似ているような気もする。


僅かに恐れも残る反面、確かにあの子を 可愛い と、思った。


なぜ産まれたあの時、抱き締めてあげなかったのか──


今更ひどく後悔して、どうしようもなく遅すぎるけれど、抱き締めたくて、

けれど私にはそんな資格はありはしないと、ぐっと掌を握り込む。



不安そうに「おかあさん?」と呟いたあの子に──ヴァルツに、

本当なら泣く資格だってない私の目から、涙が零れた。


「ごめんなさい──」


何度も何度も、ただ謝る。



「おかあさん……まだくるしい?」


ふいにそう言われて、私は顔を上げる。

いつの間にか、ヴァルツが私の前に立っていた。


「ばばが、おかあさんは くるしいんだよって。 でもげんきになったら、きっとわらってくれるよって。 ないてるの、まだくるしい?」


「お義母さん……」


零れる涙を、拭って拭って、それでもやっぱり涙は止まらなくて、


「もう苦しくないわ、大丈夫よ──だけど、ごめんなさい…… ごめんなさい……」


いくら謝ったところで、私がしてきた事は赦されることではない。

それでも、謝ることをやめられずにいた私の頬に、そっと柔らかくて温かいものが触れた。



涙を拭ってくれたヴァルツの手に、


私は縋るように、自分の手を重ねた。



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