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73.

翌日、フィーリア達は朝食を済ませると、女性陣はオルガと一緒にパンを焼いてマヨネーズを作って、ゆで卵もたくさん作った。

エドガールとランネルはマクレガンの畑から野菜を何種類かとってきて、オルガに用途を確認しながら洗ったり千切ったり切ったり刻んだり、ついでに干し肉を薄くスライスする係も担当した。

アレンフィードとクラースはヴァルツの身支度を整えると、どこか不安そうにスノウを抱き締めてソファでじっとしているヴァルツに、王都まではこんな町を通るだとか、王都はこんなところだとか、少し先の未来の話をたくさんした。



そうしてお昼よりも少し前に、マクレガンに連れられてパトリックとエリスがやって来た。

最初にマクレガンだけが同席して家族三人で会話をして、そしてそれが終わったら旅の同行者として改めて全員でパトリックとエリスに挨拶をする事になっている。



マクレガンに連れられてヴァルツが応接室に入っていった後、全員が何となくソワソワと落ち着かないながらも、クリスタから「ちょっとお話が……」と言われて男性陣の部屋へと集まった。


「実は昨晩話をしたのですが……どうやらスノウは魔法を使う事が出来るみたいなんです」

「……待て、誰と話したんだ?」

「スノウと」

「話せるのか??」


驚いたようにスノウを見たアレンフィードに、クリスタがいいえ、と首を振る。


「こちらが質問して、それに対するスノウの鳴き声を読んで、更に合っているかを確認しました」


「それは………大変だった、な……」


複雑な表情で見てくるアレンフィードに、スノウはキュウッと尻尾をふさりと揺らして見せる。


「例えば、どのような魔法が使えるんですか?」


クラースはクリスタに問いかけながらスノウを手招くと、自らの膝に飛び乗ってきたスノウの背を撫でる。


「昨日スノウの毛が一気に伸びたのは、どうやらスノウ自身の時間を進めたから、のようです」

「──時間を、進めた?」

「えぇ。気が付いたのは、こちらの時間も進んでいたから、です」


すっとクリスタが出してきた二束の髪を、男性陣が不思議そうに眺める。


「これは、フィーリアの髪か?」


銀髪の方を見て、アレンフィードがフィーリアを見る。


「うん。こっちの茶色いのも、私の髪をアルが使っている染粉で染めたやつ。元々はどっちも染めてあったの」

「こちらには、何か魔法がかかっていますね」


クラースが茶色いままの髪に触れながら僅かに首を傾げたのを見て、フィーリアが頷く。


「状態固定の魔法をかけてみたの。ほら、アルが染め直すのが大変って言ってたでしょう?だからその回数を減らせればなって思って」

「今すぐかけて欲しいくらいだな」


アレンフィードが自分の前髪を引っ張りながら呟いたので、フィーリアは「やって良いならいつでもかけるよ」と返す。


「それで、こっちは何もせずに置いておいたの。そのまま暫く持ち歩いて様子を見るつもりだったんだけど……スノウが自分の時間を進めた時に、こっちも一緒に進めたみたいでね」

「具体的に、何日くらい進めたんですか?」


クラースの質問に、女性陣は「それが…」と困ったようにスノウを見る。


「そこが分からなくて……」

「どうも、スノウはあまり時間の……というか日付の、と言った方が分かりやすいかもしれませんが、その感覚がないようで……」

「でも、時間を進めたんだろう?」


首を傾げたアレンフィードに、フィーリアがうんと頷く。


「確かに時間は進めたみたいなんだけど。私たちだったら、多分漠然とでも"10日分くらい進めちゃえー"とか、そういう考えをすると思うんだけど。どうもスノウはそういう感じではなさそう……というか……」

「さすがにそこまで細かい話は "キュウ" だけでは確認が出来ませんでした。何日、という聞き方をしても、スノウがよく分からないようで」

「あぁ、なるほどな……。うーん……じゃあ、スノウ、朝とか夜は分かるか?」


アレンフィードがクラースの膝の上でころんと丸まっていたスノウに呼びかけると、キュ?と毛玉が転がる。

丸まっている時は身体に巻き付けていて完全に同化していた尻尾がふさりと出てきたので、どうやら起き上がったようだという事が分かった。

そして一晩経って機嫌が直ったのか、今日はアレンフィードの方をきちんと向いている。


「朝は分かるか?」


もう一度同じ質問をしながらアレンフィードが手を差し出すと、スノウがその手にぽわっと飛び乗る。


「キュ!」

「じゃあ……時間を進めた時に、朝が何回来たとか、考えたか?」


フィーリアが「そういう聞き方もあるかー」と指を鳴らす。

スノウはアレンフィードの質問にキュ~……と考えるようにぽわわんと数回跳ねて、そしてくるりとその場で一回転したかと思ったら、フキュッ!!と一鳴きしてアレンフィードの手の平の上でぽわぽわと跳ね始めた。


「? ……………っあ! 待て、ストップ!」


怪訝そうに眺めていたアレンフィードが、はっと気付いたように跳ね続けていたスノウの身体を両手の平で包み込んで、跳ねるのを止めさせる。


「キュウ?」


不満そうに鳴いたスノウに、アレンフィードは手の平をそっと開く。


「跳ねなくて良い、疲れるだろう。 んー…20回くらいか?」

「キュ」

「25回?」

「…キュウ」

「じゃあ30回」

「キュッ!」


スノウがぽわんと跳ねる。


「30回──30日くらい、らしい。って事で良いのか?」

「そうですね、そうみたいです。 ありがとうございます」

「いや、スノウに"朝"が通じて良かった」


これ以外は思いついてないと肩を竦めたアレンフィードに、フィーリアが、あれぇ??と声を上げる。


「じゃあ、スノウってすぐモップになっちゃうって事?」

「動物は毛が生え変わるのも早いだろうから、普通は……。あー……じゃあその辺もいじったって事か?」


アレンフィードの呟きに、スノウがキュッと鳴いて尻尾をふわふわと揺らした。


「──どういう事?」


首を傾げたフィーリアに、アレンフィードはスノウを少しだけ持ち上げて見せる。


「犬とか猫とか……動物の毛は伸び続けないで一定の長さで止まるだろう?あれは成長し切ったら抜けて生え変わっているだけで、毛の成長が止まったわけではないんだ。だから本来スノウも、昨日みたいな長毛になる事はないんじゃないか、と」

「あーあーあー!育毛サイクル!」

「それそれ」

「……どれよ」


二人で分かりあってしまったアレンフィードとフィーリアに、ミリアが突っ込む。 

詳しいことはまたあとでね、とその場を流して、フィーリアはスノウの鼻をツンとつつく。


「じゃあ、スノウは単純に時間を進めただけじゃなくて……自分の毛のサイクルまでいじってたってこと?」

「キュキュ」

「もしかして……かなり万能だったりする?」

「キュ??」

「ついでに人の言葉もしゃべってみない?」

「キュ~……」


「まぁ、これだけ意思疎通出来れば充分だろう、普通は」


フィーリアにスノウを渡して、アレンフィードは二束の髪を手に取ると、改めて見比べる。


「すごいな、本当にちっとも色落ちしてない──フィーリア、あとで頼む」

「らじゃー!」


ぴしっと敬礼したフィーリアの肩で、スノウが満足そうに尻尾をふわりと揺らした。




そんな事をしている間に、オルガが皆を呼びにやって来た。


応接室に入ったフィーリア達が見たのは、泣き腫らしたエリスと、遠慮がちながらも彼女の隣に座っているヴァルツの姿。

そしてマクレガンがフィーリア達に向かって微笑んだのを見て、どうやらヴァルツはパトリックとエリスと無事に会話が出来たようだと、皆一様にほっと息を落とした。


ややあってランネルが前に進み出た事に気付いたパトリックが、居住まいを正す。


そして昨日ルヴィエ家に同行しなかったメンバーに聞かせる為にも、昨日話した内容をなぞるような形でランネルとパトリックの間で会話が交わされた。


「それで、急で申し訳ないのですが……明朝、出発しようと思っています」

「そう、ですか……。お待たせしてしまって、すみません」


パトリックが頭を下げようとするのをいえいえとランネルが止める。


「ヴァルツの様子を見ながらになるので前後すると思いますが。一月後くらいには、王都に着くと思います」

「一月、も……?」


ぽつんとエリスが落とした言葉に、ランネルが大人の足でも15日ほどかかるのでと言うと、エリスはそうですか、と小さく頷いて、

そして隣のヴァルツを不安そうに見つめる。

ヴァルツはエリスを見上げて、「だいじょうぶ」とほんの僅か、微笑んだ。


お互いにぎこちなさはあるけれど、その様子に皆が目を細める。



「それで、ですね。王都へ行ってしまうとヴァルツも暫くは帰って来られないかもしれないので──」


ランネルがマクレガンとオルガに視線を送ると二人ともが頷いたので、ランネルはそこで一旦言葉を切ると、パトリックとエリスに微笑みかける。


「よろしければ、この後皆でサンドイッチパーティーをしませんか?」


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