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「つまり、俺やヴァルツの髪の色を変えようと魔法をあみ出したは良いけど、いきなり人間にかけるのは躊躇われたから動物で実験をしようとした。罠にかかったコイツの尻尾だけを染めようとしたけど、何故か全身が染まってしまった上に、コイツの毛が一気に伸びた、と」
アレンフィードのまとめに、フィーリアがこくこくと頷く。
アレンフィードはぽわぽわと、長くなったせいなのか若干跳ねにくそうに跳ねている元白丸の毛をむずっと掴む。
キュッ!と茶丸が抗議の声を上げているけれど、アレンフィードは気にせず観察する。
毛先は真っ茶色、そして伸びた分と思しき箇所から根元にかけては、元通りの真っ白だ。
わしゃわしゃと毛を掻き混ぜてみるが、染料的なものが手につくこともなく、毛先は綺麗に染まっていた。
「カラーリング魔法としては、成功だと思うんだけど……この子の身に一体何が起こったのかが……」
軽くホラーだった……と呟いたフィーリアは身を寄せてくれているヴァルツにぎゅーっと抱き着いている。
「夢に、見そうです……」
クリスタもミリアも、青い顔でカタカタと震えて抱き合っている。
一体その瞬間はどんな風だったんだろうかと、男性陣は顔を見合わせた。
とりあえずこのままでは茶丸が動きにくそうだし、マクレガンやオルガへの説明も大変そうだ、という事で、ミリアが四苦八苦して鋏を入れて、何とか茶丸から白丸に戻した。
少し長さが違っているところがあるけれど、そこはもう我慢してもらうしかないだろう。
「キミは一体何者なの……」
フィーリアが疲れたようにつんつんと白丸を突っつくと、キュキュキュッ!と何か答える。
「私たちのしゃべってる内容分かってそうなのに、こっちはキミが何言ってるか全然分からないとか、不公平じゃない?」
「キュ~……」
「今のは何となくわかった。そんな事言われても、的な事でしょ」
「キュッ」
そんなフィーリアと白丸のやり取りを、皆が まさか、本当に?、いやいやそんなハズは……とボソボソ言い合いながら見ている。
「あー……そうだ、名前。名前考えないとねー……シロ、マル、ユキ、」
フィーリアが適当に単語を並べ始めると、白丸は尻尾をふわふわと揺らしながらフィーリアをじっと見つめる。
「──ブランシュ、ミルキー、スノー、」
「キュッ!!!」
白丸がぽわんと跳ねる。
「ん?……ブチ、シュガー、」
「キュッキュッ!」
「……スノー?」
「キュッ!!!」
「ユキは?」
「……キュ」
「スノー」
「キュッ!!!」
白丸のとても分かりやすい意思表示が始まったのを見て、アレンフィードが白丸に向かって指を差し出す。
「名前、決まったのか?」
白丸はアレンフィードの指をふさりと尻尾で払うと、ツンっと身体の向きを変えた。
どうやらさっき毛を掴まれたのが面白くなかったようだ。
「う、ん……スノーが、良いみたいなんだけど……」
「こいつが気に入ったなら良いんじゃないか?」
スノーは遠い国の言葉で雪って意味なんだぞ、と指先で白丸の背を掻きながらアレンフィードが呟くと、相変わらずそっぽは向いたままだけれど、白丸の尻尾がふわふわと揺れてアレンフィードの指先をくすぐった。
「スノウ?」
ミリアが小首を傾げる。
「あー……"スノー" より "スノウ" の方が、発音しやすいかな?」
「キュッ」
「じゃあ、今からキミの名前はスノウね」
よろしく、とフィーリアが手を差し出してみると、白丸改めスノウはキューっと鳴いてフィーリアの手の平に乗っかった。
その際アレンフィードの手を尻尾で叩くのも忘れない。
実際はその毛質のおかげで、叩かれたというよりふさりと撫でられた、という感触でしかないのだけれど。
そうして三人の悲鳴に、とても心配して下でそわそわと待っていたらしいマクレガンとオルガに、突然天井から虫が降ってきて驚いた、という若干苦しい言い訳をしてから、全員で食卓を囲む。
「明日までは、泊っていくでしょう?」
食事中にオルガにそう言われて、ランネルがそうですね、と頷く。
「明後日には、出発しようかと思います」
「寂しくなるわね……」
オルガがスープを掬いながら、暫く作る量を間違えそうだわ、と寂しそうに微笑む。
フィーリアはスープを眺めて、パンを手に取って、暫くそれらをじっと見つめてからオルガを見る。
「オルガさん。明日のお昼にでも、またサンドイッチパーティーしませんか?」
フィーリアの突然の申し出に、オルガがあら良いわねと、パチンと手を合わせる。
「皆で楽しい食卓にしましょう」
「はい……。 あの、それで……もしヴァルツが嫌じゃなければなんだけど……」
フィーリアが隣に座っているヴァルツをそっと伺う。
「パトリックさんとエリスさんも、一緒にどうかなって……」
フィーリアに言われて、ヴァルツは口いっぱいに頬張っていたパンをむぐむぐと飲み込みながらも、首を傾げる。
そしてごっくんとパンを飲み込んで、迷うように視線を彷徨わせてから、「わからない」とぽつんと呟いた。
「おとうさんは、ばばがいるときは やさしかった、けど……」
「……そうだよね……」
ヴァルツの様子から、パトリックの事はそんなに恐がったりはしていないようだという事は分かる。
恐らく "わからない" のはエリスの事だろう。
エリスとは地下に押し込められた時くらいしか顔を合わせていないはずなので、その時のエリスしか知らないのであれば良い印象などあるはずもない。
むしろ恐れしかないかもしれない。
「やっぱり、やめた方が良いかな……」
王都へ行ってしまったらすぐには帰って来られないかもしれないから、最後に一家で揃って食事が出来たら……と思ったけれど、浅慮だったかしらと、フィーリアはしゅんと肩を落とす。
「そうしたら、まずは午前中に話してみて……その時に様子を見てはどうだい?」
マクレガンがヴァルツに優しく問いかけると、ヴァルツは少し考えるような素振りの後に、小さくこくんと頷いた。




