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67. 野生のもふもふが現れた?

翌朝、身支度を整えて朝食の準備を手伝おうとしていたフィーリアたち女性陣とヴァルツのところに、マクレガンが慌てた様にやって来た。

早朝訓練よろしく手合わせなどしていたらしい男性陣も一緒に戻ってきたようだ。

何だかマクレガンを筆頭に、全員が困惑したような表情を浮かべている事に、フィーリアたちは首を傾げる。


「外に仕掛けてあったカゴに、かかってたんだけどね……」

「わーい!やっぱり鼠でした??」


フィーリアの問いに、マクレガンがそれが……とカゴをテーブルの上に置く。


女性陣とヴァルツは揃ってカゴの中を見た。



捕獲用のカゴの中には、何やら真っ白い、もこもことした生き物が入っている。

どうやら鼠ではないらしい、と顔を見合わせて、もう一度覗いてみる。


カゴの中の生き物は、大人の両手の平に乗るくらいの大きさだろうか。

毛玉かと見間違うような真ん丸な体をしているらしい。 

ふさふさの尻尾がカゴからはみ出していて、それがゆったりと揺れている。


「何このもふもふふさふさ……」


フィーリアは恐る恐る尻尾に触れてみる。


「キュッ!」


触れた途端、驚いたのか、小さな高い鳴き声が聞こえて、真ん丸がくるんと向きを変えた。

どうやら今までは横向きだったらしい。

白い毛玉に、これまた真ん丸な一対のつぶらな瞳と豆粒のような鼻がくっついていた。

そして頭には丸い、耳と思しきものが一対ちょこんとのっかっている。


何もかもが真ん丸なもこもこの、そしてふさふさな尻尾の生き物。


「……なななななな、何ですか!?この素敵な生き物!!」


フィーリアが覚えている限り、ルース村にはこんな生物はいなかった。

といっても然程離れていないレーヴェ村にいるのだから、フィーリアが見た事がなかっただけで、生息はしていたのかもしれない。


「触って平気ですか!!?」


両手の指をわきわきと動かしながら、はあはあ荒い息を吐いて今にもカゴを開けようとしているフィーリアに待ったをかけて、マクレガンがうーーん……と唸る。


「いや……私も初めて見る生き物でね。だから皆にも見て貰ったんだけど」

「俺たちも、初めて見る生き物で……二人は、どうかな?」


ランネルから視線を向けられたミリアとクリスタも、同時に首を振る。


「初めて見たわ」

「私もです……」


「……え、超希少生物???」


フィーリアのその言葉に、マクレガンがうぅーんとまた唸った。


「と……とりあえず、大人しそうだし、出してみても良いですか??」


目の前でふわふわと誘惑するように揺れている尻尾に、フィーリアの理性は早くも限界だった。

お願いポーズで必死に男性陣を見る。


そんなフィーリアの潤んだ瞳に最初に絆されてくれたのは、ランネルだった。


「出して、みますか……眺めてても仕方ないですし」


ランネルに言われて、マクレガンも少し迷った末に頷く。


「じゃあ、出してみよう。一応私が開けるよ」


噛みつかれたりなんて事もあるかもしれないしね、と言われて、フィーリアは大人しくカゴをマクレガンに渡す。

フィーリアの後ろではクリスタが小さくシールドを唱えていた。

警戒しすぎじゃない?と思いつつ、フィーリアはマクレガンの手元を……真っ白真ん丸もこもこふさふさ生物をガン見する。


マクレガンがそぉっとカゴを開けると、真っ白真ん丸もこもこふさふさ生物はキュキュッと鳴いて、少しだけ身体を動かした。


カゴを開けたまま手を出すことなくじっと様子を見ていると、真っ白真ん丸もこもこふさふさ生物はきょときょとと瞳を動かしてから、ぽわぽわと跳ねるようにカゴの外へと出てくる。

そして完全にカゴの外に出た真っ白真ん丸もこもこふさふさ生物──略して白丸──は、テーブルの上で人間たちの様子を伺うように、のんびりぽわぽわと跳ねている。

罠にかかった事で気が立っている、とか、こちらに飛び掛かって来る様子がない事から、マクレガンはフィーリアに小さく頷いてみせた。


フィーリアはそっとテーブルに近づくと、白丸に向かって片手を出す。


「おいでおいで」


ちっちっちと舌を鳴らして小さく呼びかけると、白丸はキュッと鳴いてフィーリアを見ると、ぽわぽわと跳ねながら寄ってくる。

そして警戒する事もなく、フィーリアの手の平にぽんっと飛び乗った。


「っっっっっっっっっっっっ!!!!」


フィーリアは、言葉にならない悲鳴を上げた。


見た目に違わず、白丸の毛は見事なもこふさっぷりだった。

手の平をくすぐるその感触に、フィーリアは白丸が乗っていない方の手でそっとその背を撫でる。


ふわふわと指の間を滑るその毛並みに、フィーリアは堪らずくぅっと呻く。


「ど……どうしよう………。この子、殺人的に気持ちいい………」


撫でるだけでは我慢出来ず、フィーリアは白丸を両手で包み込むようにしてわしゃわしゃと撫でまわす。

キュウッという鳴き声が聞こえてきたけれど、フィーリアは構わず撫でくり回す。


「ヤバい。ほんとヤバい。みんなも触ってみて!!」


ついに頬ずりまで始めたフィーリアに、ミリアがじゃあ……と白丸に手を伸ばして、

そして触れた瞬間、ミリアも息を呑む。


「っっっっっっふ……ふっさふさ………!!!」


私にも抱かせて!とフィーリアから奪い取るようにしたミリアの横から、クリスタもそっと白丸に触れる。

そしてはわぁっと悲鳴とも溜息ともつかない妙な声を上げたクリスタに、ようやく男性陣もそこまでなのか?と手を伸ばす。


──結果的に、白丸はオルガがご飯にしましょうと声をかけるまでの間、

9人の人間に代わる代わる撫でくり回され、時に頬擦られ、抱き締められまくるはめになった。


最初のうちはキュ~キュ~と抗議の声っぽいものをあげていたものの、最後には目を閉じて地蔵のようになってしまっているのを見たクラースが、

「大人しくて、そして恐らくとても頭の良い子ですね」

と白丸を撫でながら結論付けた。


「あらあら。あとで私にも撫でさせてくださいね」


皆で楽しそうでずるいわ、と言うオルガに、女性陣がはっとする。


「ご、ごめんなさいっ。朝ごはん準備のお手伝い何にもしなかった……」

「じゃあ、洗い物はお願いね」

「はいっ!!」


撫でくり地獄から解放されたと察したらしい白丸は、かっと開眼するとクラースの手からするりと逃げ出して床に飛び降りる。

そしてキュッキュっと鳴きながら床を跳ねて部屋の隅へと退避してしまった。


「あの子、飼っても良い……???」


朝食を食べながら、一時的ではなくて旅の間も連れ歩きたいと懇願したフィーリアに、全員が迷わずこっくりと頷いた。


「名前は何にしようか~。真っ白でふさふさで……はっ!マッシロシロスk……」

「長い」


ざくっとアレンフィードに切られて、ですよね、と千切ったパンを口に放り込む。


「うぅーん……シュガー、コットン、スノー、ミルキー、シルキー……シロ、ホワイト……」

「またそのパターンか」

「じゃあ皆も何か考えてよぅ!!!」


フィーリアの叫びに、皆がうーんと、首を傾げる。


「雲とか綿毛みたいですよね」

「もう鳴き声のキュウとかで良いんじゃない?」


どうやら名付けにあまり拘らないらしいクリスタとミリアに、フィーリアがえぇっと不満そうな声をあげる。


「ほらほら、皆手が止まってるわよ」


クスクスとオルガに言われて、皆はひとまず白丸の名前を考えるのを中断して慌てて朝食を済ませる。


朝食後は各々手伝いやら何やらを済ませる為に、オルガが出してくれた蓋付きのバスケットに白丸を入れて、

「私が様子を見ておくわ」と可愛らしく微笑んだオルガに内心独り占めズルイ!と思いながらも一旦解散となった。



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