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05.

「というわけで、暫く旅に出られる事になった」


3日前の自分のセリフをなぞられて、ほら、と寄こされた荷物を受け取ったアレンフィードはエドガールの顔をまじまじと見つめる。


「……本当に?」

「本当に」


大変だったぞ~と言うわりには全くそうは見えないが、実際は本当に相当大変だったのだろう。

父王や宰相、各団長等の上層部をこの短期間でどう説得したのか聞いてみたいところだが、きっとエドガールは言わないだろう。

エドガールは苦労とか努力とか、そういうものは一切人に見せない男だ。


ただ、アレンフィード同様エドガールも騎士団長からその才を認められ、既に王子の側近候補として剣術以外の教育もされているらしい。

上層部からの信頼はそこそこ得ているようなので、その辺りで上手くやったのだろう。


「条件はいくつかついてきたけどな。定期連絡を入れろ、本名を名乗るな、髪は染めていけ、と……あとはまぁ、あんまりヤンチャはするなよ、というような事を……」


僅かに視線をそらしたエドガールに、アレンフィードは「ヤンチャ?」と首を傾げてみたけれど、エドガールはそこはあまりお気になさらず、と誤魔化した。

ふぅん?とまだ少し考える素振りを見せていたアレンフィードも、まぁいいかと思考を切り替えるとエドガールの後ろに視線を投げる。

ドアの外に数名の気配を感じたからだ。


「──で?」

「彼らも"条件"のうちだ。騎士団員、魔法士各二名以上を連れていく事」


エドガールがドアを開けて招き入れたメンバーに、アレンフィードはパッと表情を明るくした。


「クラース!ランネル!来てくれるのか?」

「エドがどうしてもと泣きついてきたので、仕方なく」

「泣いてねーし」


クラース・マクシムはエドガールと同い年の幼馴染だ。

いつでも冷静な、一見物静かな文官タイプなのに意外や剣の腕も悪くない、という一粒で二度おいしい人物だ。

小さな頃から本の虫だったせいか、細い銀のフレームの眼鏡がトレードマークで、ただでさえ冷たい印象を与える造作に拍車をかけている。



「かわいい後輩の頼みだし、まぁ良い修行になりそうだしね」


体つきは立派なのに、どこかほんわかとした雰囲気を醸し出しているランネル・オーバンは騎士団所属の16歳で、エドガールが入団した当初の指導役でもあった。

アレンフィードもエドガールにくっついて一緒に稽古をつけて貰っていた事もあり、エドガールにとってもアレンフィードにとっても良き先輩である。


「頼りにしてますよ、センパイ」

「まぁ俺は唯一の成人だし、保護者的な立ち位置だから。がんばれ若人」


ははは、と笑うランネルに、エドガールは1歳しか変わらないハズですが……と呟く。


この国では男性は16歳、女性は14歳で成人と認められるが、ランネルは年齢の割に達観したところがあったりで、以前から騎士団内でも年齢詐称疑惑があるのだが、今のところ詐称の証拠は何一つ上がっていない。


本人は「どう見ても16歳だと思うけどなぁ」とお茶でも啜っていそうな雰囲気で笑っている。



「で、後ろの二人が魔法士のミリアとクリスタ」


ランネルの大きな身体の後ろから、赤みの強い茶色の髪を高い位置で結った少女がひょこっと前に進み出る。


「ミリア・クラヴェル、13歳です。魔法士団所属、まだまだ見習いですが、クラース様と一緒に旅が出来ると聞いたので志願しました!火と風が得意です!土もぼこっとくらいなら出来ます!」


容姿から受ける印象の通りに元気な自己紹介をしたミリアに、エドガールとクラースが思わずといった様子で眉間を押さえる。

その様子を見て、アレンフィードは片眉を上げた。


「魔物討伐をしに行くから、そこそこ危険な旅になると思うんだが……大丈夫か?」

「はい!多分!!!」


笑顔で勢いよく答えるミリアに、アレンフィードはエドガールとクラースに小声で問いかける。


「……同行の魔法士ってこんなんで良いのか?」

「いえ、性格はこんなんですが、見習いと言えど魔法士としての能力はそこそこですので……ただ実戦経験はほとんどありません」


クラースが眉間の皺を伸ばしながら小声で答える。


「知り合いか?」

「知り合いといいますか……まぁ、知り合い、です……かね」

「何だ、クラースにしては歯切れが悪いな」


「さっきミリア嬢が自分でも言ってたけど、ミリア嬢はクラースの事が大好きらしい」


エドガールが横から小さな声で補足する。


「あぁ………がんばれ」


察したアレンフィードはそれ以上聞くのをやめて、ミリアの後ろにいるもう一人の少女に君は?と声をかける。


「あっ……あの、クリスタ・ネイオス、13歳です。魔法士団の研究部に所属しています……え、と……一応闇以外は全部……です……」

「闇以外、全部!?」


驚きの声を上げたアレンフィードに、クリスタはすみませんっと泣きそうな顔になってミリアの背中に隠れる。


「あ、いや、大きい声を出してすまない。その……魔法師団長以外でそんなに使える人に初めて会ったから……」


アレンフィードが慌てて謝ると、ミリアがクリスタの腕をさすって大丈夫だよーと声をかけている。


「二人は……元から知り合いだったのか?」

「はい、去年の新人研修で同じ班だったんです。その時から」


ミリアの答えに、そうか、と頷きつつも、アレンフィードは大いに戸惑っていた。


基本的に男所帯の騎士団に入り浸っているので、アレンフィードは女性と関わる機会が少ない。

騎士団に女性もいるが、総じて男勝りで何でもハキハキ物を言うタイプが多い。

ミリアはともかく、クリスタのようなタイプはどう対応して良いのか分からなくなるのだ。


割と何でも器用にこなす第二王子の弱点、といったところだろう。


「えーっと……本当にこの二人が今回同行を……?」


ちらりとエドガールとクラースに視線をよこすと、エドガールが間違いなく、と頷く。


「魔法士団の方に良い人材はいないかと打診しに行った際にたまたまミリア嬢が近くにいてね。クラースが行くなら絶対に自分が行く、と。実力的にはそう悪くないそうで、魔法士団長も許可を出した。しかし男だらけのパーティーに女性一人というのも心配だから、もう一人女性がいた方が良いだろう、という事でクリスタ嬢に白羽の矢が立ったわけだ」

「そ…うか……」


魔法士団長(テオドール)め、なぜ許可をした、とアレンフィードはいつも飄々としている魔法士団長の顔を脳内で10回程殴ってみる。


が、いくら脳内で恨んだところで状況が変わるわけではない。

アレンフィードは一つ息をついて、ミリアとクリスタに向き直る。


「さっきも言ったが……魔物討伐が目的の旅だ。危ない目にあうかもしれない……。俺は、正直女性は連れて行きたくない」


「"女は弱い"から?」


少しムッとしたように言うミリアの言葉に、アレンフィードは違う、と即座に首を振る。


「決して女性が弱いと思っているわけじゃない。女性で強い騎士も、魔法士もいる事は知っている。でも、騎士団員でも命を落とす者がいる。魔法士団でも何名か……という話も聞いている。だから、この旅で……俺の我儘みたいな旅で、女性が命の危険に晒されるのは、俺のエゴだと思うが……でも、」


「アレンフィード様、私新人研修の時に小屋を1個吹き飛ばしちゃったんです」

「……ん?」

「野外訓練で薪に火をつけようとしてその辺りを火事にしちゃいました」

「………は?」

「あと別の野外訓練の時には魔法陣で罠をしかけようとしたら爆発しちゃって、先輩が一名しばらく療養する事になっちゃいました」

「いや、それは……」

「ちょっと制御が苦手ですが、割と強いんです!」

「……"ちょっと"か……?」

「私はちょっとダメかもしれませんが、クリスタは使える属性いっぱいだし制御もばっちりだし、恥ずかしがり屋さんだけど魔法士団期待の大型新人なんです!」

「そ……そうか………」


ミリアの勢いに押されてわずかに仰け反ったアレンフィードの背を、エドガールが後ろからそっと押し返す。


「私たちもがんばろうねって、二人で決めて来たんです!」


ね!とミリアに同意を求められたクリスタが慌てて頷く。


「あの……、頼りないかもしれませんが……私の故郷でも、被害が出ているんです。私でも役に立てるなら力になりたくて……だから……その………」


真っ赤な顔で「よろしくお願いします!」と頭を下げたクリスタに倣って、ミリアも勢いよく頭を下げる。


クリスタの話に呆然と二人を見つめていたアレンフィードに、それまで黙って見ていたランネルが「殿下」と呼びかける。

はっとランネルを見て、そしてエドガールとクラースに視線を巡らせる。

三人ともが小さく頷いたのを見て、アレンフィードはきゅっと拳を握りしめた。


「俺こそ……すまなかった──ミリア、クリスタ」


呼びかけに二人が恐る恐る顔を上げるのを待って、アレンフィードは二人の前に歩み出る。


「野営続きになる事もあるだろうし、女性には色々と大変な事も多いと思う。それでも、一緒に来てくれるか?」


手を差し出すと、ミリアとクリスタは顔を見合わせてから、アレンフィードの手に自分たちの手を重ねる。


「「はい、よろしくお願いします!」」



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