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02.

「もーーーーしわけありませんっっっ!」


「はぁ………」


真っ白な空間で、悠人はひたすら瞬きをしていた。


隣にはさっき庇って抱きしめたはずの紗良。

どうやら怪我はないようだ。


紗良も悠人と同じくポカンとした表情をしている。


そして二人の目の前には何故か土下座をする……女性?



「えぇーっと……ここは一体………?」


紗良が辺りを見回した。

見回したところで、ただひらすらに白い世界が広がっているだけだったが。


「ここは、私が急遽お二人をお連れした場所でございます」


土下座女性が顔を上げた。


美人だ。

滂沱していなければ。


「犬と女の子とトラックは……」

「犬さんと女の子さんは元の世界で無事でございますっ!」

「……"元の世界"?」


その一言が気になって聞き返した悠人に、土下座美女は再び「申し訳ありません~~~!!」と土下座のまま更に深く頭を下げた。


戸惑った紗良が悠人を見上げてくる。

悠人も紗良を見返して、小さく首を振った。

ワケが分からない。


「えぇーっと……とにかく、何がどうなっているのか教えて頂けると……」


紗良がおずおずと土下座美女に手を伸ばす。


「うっ…うぅ………」


涙と鼻み……色んな汁を溢れさせながら、土下座美女はその綺麗な顔面を完全崩壊させたまま、紗良の手を取った。



❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊


「し ん だ ??」


紗良が一文字ずつ繰り返す。


「はい……あの、トラックに轢かれまして……お二人共………」


ひとまず落ち着いた土下座美女はまず二人の現状を説明してくれた。

曰く、あの時悠人の願いも虚しく、二人はトラックにはねられて仲良く即死してしまったらしい。


ところがその事故――例の犬が駆け出した事が、この土下座美女のせいなのだとか。


「私の世界では、今少々問題が起きておりまして……基本的に私たちは世界の出来事には干渉しないのですが。さすがに

何とかせねばと、少しだけ手を貸そうと思ったのです」


「私の世界……って、王様か何か?」

「いえ、"神様"というやつです」

「かみさま……」


紗良が呟く。

生まれた時から一緒の悠人は、その呟きの裏を正しく理解した。


『神様もあんなに涙とか鼻み…色んな汁とか流すんだ……』と。



「私の世界では、えー、魔法というものがありまして、その中に、んー……"召喚"というものがございます」


ところどころ詰まるのは、どうやら世界間の単語の擦り合わせをしているようだ。

誰が土下座美女に地球の、というか日本語を教えてんだ?自動翻訳か?神様すげぇ

と悠人が関心している横では、紗良が魔法!?召喚!?と目を輝かせている。


「私の世界は今魔物と呼ばれるものが増えていまして、人の生活が脅かされています。増える魔物に恐れをなした人々は、混沌とした時代に現れるという聖女に縋ろうと、召喚の儀を行いました」

「まさかその聖女が私!?」


輝きっぱなしの瞳を更に輝かせる紗良。


「いえ、違います」


スパッとぶった斬る土下座美女……いや、女神サマ。


「残念ながら、聖女の素質を持つ方が私の世界にはおりませんでした。なので、私が少し手を貸して、異世界からお呼びしようとしたのですが……思わずつるっといっちゃいまして」


「――何がだ?」


ボソリと呟いた悠人に、女神サマは誤魔化すようにうふふと微笑みだけを返した。


「聖女候補はそちらの世界──チキュウにいらっしゃる方だったのですが、少しばかり震動が起こってしまいまして……。といっても物理的なものではありません。けれど敏感な動物さんたちには伝わってしまったようで……」

「地震の前に動物の大移動が起こるとか、そういう感じの事が起こって、たまたまあの犬が驚いて駆け出したとこにオレたちが出くわしたって事か?」

「そんな感じです……」

「でもそれならあちこちで似たような事が起こったんじゃ……」

「いえ、幸いと申しますか……聖女の素質がある方に近い場所限定だったので……」

「あんなところに聖女候補が!?」

「紗良、鼻息うるさい」

「だって悠人~~!!!」


ハァハァ言ってる紗良にデコピンをお見舞いして、悠人は女神サマに視線を戻す。


「で、その巻き添えで死んだオレたちに親切にそんな解説くれて、オレたちどうなんの?」

「はい……大変申し訳ない事に、チキュウで生き返らせるとか、生まれ変わるとかいう事は、えー、神様界の権限で私には出来ないのです」

「神様界の権限……」


何だか大変そうですね、と紗良が真面目な表情で相槌をうつ。


「そこでせめてもの償いといたしまして、こちらの世界での転生をと思いまして──なるべくご希望に沿うような条件で!!」


「転生……って、二人とも?」

「はい。ただ、こちらの世界に転生させる事は出来ても、流転の波に乗せてしまった後は手出ししにくくて……。なので同じ場所で二人一緒に、とは参りませんが……」


"手出し出来ない" ではなく "しにくい" という事はこちらも神様界のナンタラがあるのだろう。

悠人は暫く考えて、確認の為に女神サマの言葉を反芻する。


「オレと紗良は、そっちの世界で生まれ変わる。でも生まれる場所はどこになるか分からないし、会えるかどうかも分からない、と」

「そうですね。生まれる時期も……ですね」

「それって十年違いとかあるって事?」


紗良がこてんと首を傾げる。


「はい……。チキュウでの記憶も封じさせていただきますので、お二人が再会出来たとしても思い出せるとは限りません」

「思い出せるかもしれない、と」


つまるところ、転生してしまえばもう二人が今のような幼馴染として過ごす事はほぼ不可能、という事か。


「まーでも死んじゃってる時点で全部終わってるもんねぇ。同じ世界に行けるだけ良いのかも……?再会出来るかもしれないし、思い出せるかもしれないんだから、完全に0ってわけじゃないんでしょう?」


あっけらかんと言う紗良に悠人もそれもそうかと、難しく考えそうになっていた思考を止める。

どうせ覚えていないのなら、今ここであれこれ気にしても仕方がないだろう。


「じゃあこれからの事を考えるか」


さくっと思考を切り替えた悠人に、紗良もうんうんと頷く。


「魔法があるって言ってたよね!それって誰でも使えるのかな」


鼻息荒く詰め寄られた女神サマは、紗良の勢いに引く事もなく、ありますよ~と微笑む。


「剣も魔法もありますが、魔法は誰でも……というわけではありません。魔力がなければ魔法は使えませんし、属性との相性というものがありますので、魔力があれば万能というわけでもありません」

「全属性オールマイティ!みたいな人はいないの??」

「いないわけではりませんが……ごく稀ですね。複数の属性を操るにはその分魔力の高さが必要となってきますので」

「魔力が高ければ高いだけ扱える属性が増えるの?」

「そうとも言えません。魔力が高くても何か一つが特出していて他はさっぱり、という方もいますし、複数の属性を操れるけれど、威力はどれも並み、という方もいます」

「う~ん、そっかぁ……」


紗良はうんうんと唸り始める。


「オレは魔法は別に興味ないけど……」


紗良に付き合わされてやっていたゲームでは常に剣士タイプを選択していた。

紗良が魔法士などの補助系を好んでいたから、パーティーを組むときのバランスを考えての事でもあったが、ゲームといえど肉体派を好んで選択していた。

片手剣が主だったけど、双剣使いも格好良かったな、などと考えている間にも、紗良は既に"転生後の方向性"を確定させたようだ。


「じゃあ私は回復魔法とか防御魔法とかが使えるようになりたいな。前で戦う人を後ろからガッツリ支えられる感じで!!」

「はい、分かりました。お顔などはどうしましょう?ある程度であれば容姿のご希望もお伺いしますよ」


キャラメイクも出来るようだ。


紗良はえっ!?と驚きの声をあげると、そのまま再びうんうんと唸り始めた。


「じゃあオレは肉体派だな。男で、剣士とか騎士とかそんな感じで。容姿は……あんまりブサイクじゃなければ良いか」

「悠人さまは拘りが薄いんですねぇ」


紗良の勢いとの落差にか、女神サマが苦笑する。


「では悠人さまは剣がお強い、イケメンさんにしておきますね」

「いや、イケメンでなくても良いから……中の上くらいで……」


正直隣にいる"黙っていれば美少女"とずっと一緒にいたのだ。

性格と容姿のギャップやら、勝手なイメージで言い寄られて現実と違うからと、何故か責められたり逆切れされたりする人生は御免被りたい。


「悠人は何でそんなあっさり決められちゃうの~~!」

「紗良はキャラメイクもいっつも時間かかってたもんなぁ……」

「だって少しでも可愛い方が良いじゃない!!」


たかだかゲームのキャラなのに。オトメゴゴロはよく分からない。と思いつつ悠人は思い出した事を口にする。


「そういえば、必ず銀髪にしてたよな」

「憧れNo.1要素だからね!!!」

「じゃあそれで良いじゃん。ほら、どうせ生まれ変わった後は今までの事は覚えてないんだし」

「うぅぅ、そーだけどぉー……女神様!紙と色鉛筆が欲しいです!」

「はい、描いてみた方がイメージしやすいですもんね」


寛大な女神サマは、難なくA4用紙の束と70色くらいありそうな色鉛筆をぽんっと出現させて紗良に手渡した。



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