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30.

時折立ち止まりながらも、クリスタ、ミリア、クラースが各々得意な属性の初級レベルの魔法を見せて、それをフィーリアが真似をするという形で一通りの属性を使わせてみたところ、使い手がおらず現状での確認は不可能な闇属性以外は、どの属性も均等に使えるようだ、という事が分かった。

更に見ただけでその通りにやってのけてしまう勘の良さにも、クリスタが感嘆の声を上げる。


中でもやはり光魔法が得意なようで、治癒は言わずもがな、中級レベルとされているシールド魔法をクリスタが展開して見せたところ、すぐに真似出来てしまった。


「すごいですね。しかも本調子ではないのに……」

「まぁ、イメージ力にはかなり自信あるから、そのせい、かな……?」


自分の頬をぽりぽりと掻きながら苦笑したフィーリアに、アレンフィードが難しい顔をして頷く。


「イメージという点では、まぁ確かにすごいだろうな……そのうちフィーリアはとんでもない事をしでかす、気がする」

「えぇ???」

「ちょっ……危険人物みたいに言わないでよ~~」


きょとんとするクリスタと、頬を膨らませるフィーリアに向かってアレンフィードは小さく頭を振る。


「真面目な話──イメージがしっかり出来てさえいれば魔法が発動するって言うんであれば、こいつは今まで誰も使った事がないような魔法を使えるようになる可能性がある、かもしれない」


「誰も使った事がないような、魔法?」


クリスタがアレンフィードの言葉を繰り返す。

それに頷いてみせて、アレンフィードは続けた。


「さっきの詠唱の話を聞いてから考えてたんだが……トライシュラの召喚術は6つの属性では説明が出来ないよな。という事は、ユーフィニアで使えるのは、実は6属性だけではないのかもしれない。そして、具現化出来るだけの魔力とイメージ力があったら──実は、どんな魔法も使える可能性があるんじゃないか、と思ったんだ。勿論やっぱり6属性しかなかったという可能性もあるが、フィーリアは前世のせいもあって色んな魔法のイメージがしっかり根付いてるだろうし、魔力も高い。"ユーフィニアにとって"何か新しい魔法を生み出しても、おかしくないんじゃないか?」


「それは……さすがに考えすぎでしょ~」


あははと笑うフィーリアに、アレンフィードはそれなら良いけどな、と手を振る。


「新しい魔法……ですか。例えば、どんなのがあるでしょう……」


何せ"新しい"のだから、クリスタが考えたところですぐには思い浮かばない。


「こないだ言ってたあいてむぼっくすとかは?」


ミリアが期待に満ちた瞳をフィーリアに向けると、フィーリアは慌てて無理無理無理!とパタパタと手を振る。


「どこに繋げば良いのか、さっぱり分からないし」

「別の空間の話ですね」


クラースの言葉にフィーリアが頷き返すのを見て、ミリアが残念、と呟く。


「まぁ、試してみたい事が浮かんだ時にでもやってみれば良いだろう」

「そうだね。時間はたっぷりあるんだしね」


アレンフィードの言葉にミリアが少し前に自分がクリスタに言ったセリフを繰り返し、ひとまず"新しい魔法"について、この場で考える事は見送られた。



「魔力の方は、大丈夫そうですか?」


基礎の魔法ばかりだったとは言え、魔力を使い続けた事に変わりはないので、クリスタがフィーリアに確認する。


「うん、大丈夫。というか、使った方が落ち着く、とはちょっと違うかな……馴染む感じ?がするってゆーか」

「そういうものなのですか……?」


特に意味はないが手指をワキワキと動かしているフィーリアを、クリスタが見つめる。


「確かに、少し落ち着いて来ているみたいですね」


魔力が乱れてしまった際には、他者が干渉することで魔力の流れを矯正させる事が出来るという事は分かっているが、本人が魔力を使う事で均す事が出来るとは驚きだった。

フィーリアだからこそなのか、誰でもそうなのか──


クリスタは『研究の価値あり』と脳内メモに書き込んだ。


「……あれ?」


その時、フィーリアがふと空を見つめた。


「どうかしましたか?」


クリスタの問いかけに、フィーリアはじっと耳を澄ませるようにして、そして辺りを見回す。


「……何か、聞こえない?」


フィーリアのその言葉に、全員が足を止めて周囲の音や気配を探る。


「特には……」

「変な気配もない、な」


全員が戸惑った様にフィーリアに視線を向けるが、そんな皆の反応を余所に、フィーリアは変わらずその()()に耳を傾けて──


「泣いてるの?」


ぽつりと問いかけるように呟くと、暫く視線を彷徨わせて──

そうしてふらりと歩き始める。


「おい、フィーリア?」


フィーリアの肩を掴もうとしたアレンフィードの手をクリスタが咄嗟に止める。


「アル、待って下さい。少し……様子を見ましょう」

「だが……」

「昨日も、同じでした」


クリスタの言葉に、アレンフィードは昨日?と返して、そして思い出す。


ルース村を出て少しした頃に、フィーリアはやはり「何か聞こえた気がした」と言っていた。


「同じ “何か” か?」

「可能性は高いかと……」


どことなくふわふわとしたまま歩いていくフィーリアを、ランネルがアレンフィードに目配せをしてから追いかけて、守るようにすぐ後ろにつく。

クリスタとアレンフィードが続き、クラースとミリア、そして最後をエドガールが追う。


「クリスタとミリアは、何も感じないか?」

「えぇ……。ただ、そろそろフィーリアの魔力の影響が消えそうです」

「うん、空気がね……変わりそうだよ」


クリスタの言葉に、ミリアも頷く。


「半分は来たか?」


アレンフィードの問いに、クラースが持っていた懐中時計で時間を確認する。


「そうですね、恐らく半分は超えているとは思いますが」


既にルース村を出て一時間半ほどが過ぎているが、普段よりもかなりゆっくり進んでいたので、レーヴェ村までの行程の半分程度だろう。


「思ったより早いな」


フィーリアの魔力爆発の影響は、フリーデンとレーヴェ村の距離を考えるともう少し先までもつかと読んでいたのだが、そうではないようだ。


「均等に広がっていないのか、フリーデンの方も薄れ始めているのか……それともこっち側の闇の力が強くて効果が消えるのが速いのか……」


どれだろうな、とアレンフィードが呟いたその時、ふわふわと歩いていたフィーリアがふと足を止めた。


「あっ……」


小さな呟きの後に、ふと我に返ったようにきょろきょろと辺りを見回して、後ろを振り返る。


「……あれ、私……」


ぱちぱちと瞬きをしたフィーリアに、ランネルが大丈夫?と声をかける。


その問いかけにフィーリアは暫く固まって、そして戸惑ったように小さく首を傾げた。


「急にふらふら歩きだしたんだ。覚えてるか?」


アレンフィードに問われて、フィーリアはゆるゆると首を振る。


「ごめんなさい、何か、ぼんやりしてる……」

「何が聞こえた?」

「何、というか……声とか音ってわけではなくて……上手く言えないけど……空気っていうか……」


「その”何か”は……泣いていたのですか?」


歩き出す前にフィーリアが零した言葉を、クリスタが確認する。


「泣いて……? あぁ、うん。そう……だね……そんな感じの、空気……」


フィーリアは小さく頭を振ると、もう一度ごめんなさい、と謝る。


「いや……少し気を付けた方が良いかもな」

「そうですね……」


フィーリアが何に反応をしたのかは分からないが、この様子ではこの先何が起こるか分からない。


「シールドは効きそうか?」


アレンフィードはフィーリアとクリスタに聞いてみるが、当然ながら二人とも困ったように首を傾げる。


「効果があるのかは分かりませんが、闇の力の影響なのだとしたら、効くかもしれません」


一応かけますね、とクリスタがフィーリアにシールド魔法をかけようとしたが、フィーリアがそれを止める。


「自分でやってみたら、ダメ?」

「シールドであれば、自分で自分にかける事は出来ますが……」

「じゃあやってみる……何ていうか、何か別の事に意識を持っていっておいた方が良い気がする」

「そういう問題なのか?」


不思議そうな顔をしたアレンフィードに、フィーリアも分からないけど、と言ってから


「クリスタ達と属性の確認をしている時は、聞こえなかったの。だけどそれが終わって、気を抜いた途端、だったでしょう?」

「あぁ、確かにそうだな。じゃあ、本当はもっと前から、フィーリアは何か感じてたって事か?」

「はっきりではないの。ただ……何となく………空気……が……」

「空気、ね」


先ほどからフィーリアが繰り返しているその"空気"感が全く分からないアレンフィードは、全員に視線を巡らせる。


「俺とエドは多分分からないだろうけど……皆も気を付けてくれ。特にクリスタとミリア……クラースもだな」


全員が頷いたのを見て、フィーリアに視線を戻す。


「かけられそうか?」

「んー……"シールド"」


フィーリアは先ほどクリスタに見せて貰ってやってみた時の感覚を思い出しながらシールド魔法を展開させてみる。 と、ふわりとフィーリアの身体を包み込んだ。

それを視たクリスタとミリアが頷いたのを見て、アレンフィードはフィーリアの右隣に立って歩き始める。


「おかしいと思ったらすぐに言えよ」

「うん」


こくりと頷いたフィーリアの左隣には、そのままクリスタがついた。



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