プロローグ
二章、スタートです!
器宮東高校──。
そこは底辺から鬼才まで、幅広く存在するため偏差値が少し曖昧な高校である。多くの逸材を育成すべく、幅広く対応したカリキュラムと設備が整った理想郷。大学の充実した施設と差異無い魅力と厳格な雰囲気を併せ持つ学舎。グラウンドは広く、中心のトラックは一周一キロ。
校舎は現役校舎、そして廃れた旧校舎がある。
新築の前者が専ら使用され、校舎は人の記憶より遠ざかり、思い出の品々を収納する備品倉庫、または物置として機能していた。
現役校舎には、三つのコースが設けられており、それらによって学力基準や方針が異なる。
優秀な成績の生徒を集中させた進学コース、異称を『天上界』。
工学や技術面を問われる工業科コース、またの名を『地底界』。
それらを併合させ、本校の象徴とも呼べる天才から底辺までの集合体である一般コース、二つ名を『混沌』。
現役校舎は三つに分かれる。
一階には屋外プールの備品倉庫や食堂があり、二階には『天上界』の教室や進路指導の教員が集まる会議室や資料室があり、三階に図書室の設けられた図書館棟。
主に一般コースが使用する四階建ての何ら変哲の無い、強いて挙げるとすれば生徒会の根城と称される学術棟。
工業科コースが機械の操作法、さらなる発展を目指す勉学に励む工房と体育倉庫のある特別棟。
これが俺の通う学校の舞台だ。
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毎日を一定の場所で過ごしていると、退屈に思えてしまうのは、そこに真の価値を見出だせない者の倦怠感である。だが、それも水を撒いて草木が育つのと同断である自然の理に等しい事実だ。だからふと、日々を顧みて人事不省してみるのも悪くは無い。勉強や運動だって、ただの練習で完結してしまっては体得した事にはならない。反復練習、その辛苦を反芻する行為が心身を鍛える。
その重要さを、この頃の俺はまだ知らなかった。人には不可能はある、だから自身が出来る事を一番にやるのが先決だと。だが、俺の場合は前提から、そもそも不可能と思ってやらず、苦手から目を逸らした逃避だとは思わなかった。
これを聞いたら、アイツはこう言った。
過ごす日々の、そこかしこに転がっている些細な石でも磨けば金剛石になる。削り方、その強さ、角度なんかの加減を絶妙に自分なりに調整し、それが成功すれば万事は魅力的な輝きを帯びて目前に像を結び現れる、と。
つまりは、何事も挑戦すれば退屈なんて感じない、そういう事なのだ。
では、口に衝いてみよう。
「今日も退屈だなぁ」
これが合図、お遊戯の開始だ。
そしてアイツはまた、こう答える。
「退屈な日々は終わらせよう」