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戸番榊の非日常~叶桐怪奇譚~  作者: スタミナ0
三章:鳥籠の校舎
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002──キズモノ~????~



 ──漆:拾:拾壱:参拾弐──



 屋上にて武者姿の意魔──足軽。

 榊の親友を自称する──黒服。

 筋骨隆々とした巨体の意魔──筋肉だるま。


 戸番榊と交流ある彼等は、屋上にて賑々しく開催された体育祭の成り行きを静観していた。無論、一同注目の的は榊と桐花、そして対立者となる広瀬翔の姿。持ち前の高い身体能力を発揮する面々は、事も無げに一つの競技を処して行く。

 屋上の面子は、最終決戦となるリレー戦まで安心して見守っていた。足軽のみが柵に腰掛けて眺め、黒服と筋肉だるまは昼の陽気に転た寝を始める。夏の熱も彼等には温く感じるのだ。

 天頂へと緩やかに太陽が昇り始めた頃、足軽と筋肉だるまは異変を悟って、周囲を忙しなく見回した。意魔は生物ではない、人の夢や精神の澱から産出された意思の貌でしかない彼らの本能を刺激する気配がある。

 黒服は組んだ後ろ手の腕枕に預けていた後頭部を持ち上げ、グラウンドの方を見遣る。足軽達の察知した異変の正体を、彼だけが正確に気取っていた。

 黒服が上体を床から離した時、学校の敷地を囲う壁が忽然と現れ、頭上までも覆う。半透明な赤い硝子の如く外の景色を濁らせるそれは、結界と呼ばれる類いの物であった。完全に外界から隔離された空間となる器宮東高校は、未だその異変すら覚っていない。

 欄まで歩み寄った黒服は、片足だけを乗り上げてグラウンドを見下ろす。


「君達、サカキが危険だ」


 足軽が長刀の把と鞘に手を添え、筋肉だるまは跳躍の姿勢に入る。二人は黒服が告げるたった一言の含意を瞬時に了解した。サカキの身に及ぶ危険の種類など、この平穏な校舎に囲まれた場所では一つしかあり得ない。

 出現した赤い結界、意魔の本能を刺す危機感。


 この学校が──戦場になる!


「行こうか」





***********




「──ッ、く……んのぉ!」


 断絶しかかった意識を無理矢理にも引き戻し、俺は後ろへ傾いた上体を前に振って堪える。倒れたら、そこでまた気絶してしまうだろう。腹部に感じた痛みが幸いにも気付けの薬になっていた。

 痛みの根元が何処かを探って手を当てると、先日負傷した部分から再び出血している。傷が開くほどの過度な運動はしていないし、その危険を考慮して力の加減を考えて競技をやり過ごした筈だ。

 目前を睨めば、不意にぶつかってしまった相手の姿がある。不気味な事に、この娘は俺の名を知っていた。それがどういう意味を持つのかは判らないが、少なくとも俺を害する存在であるとは感じる。

 白髪に小麦色の瞳は洗練された宝石に似ており、薄汚れた白の半袖パーカーの下に、黒の長袖インナーを着用している外見年齢十三歳の少女。白磁の肌は夏日に照らされても焼けるようには見えず、寧ろ陽射しを受けて透き通る硝子にさえ思えた。まるで彼女自体が職人によって製作された精緻な美術品である。

 黒いショートパンツは太いベルトを通しており、そこに付けたバッグからは何本もの鍵束がじゃらじゃらと騒々しい物音を立てる。他にも工具らしき物が中から収納し切れず飛び出していた。

 その娘の手中には鋭い果物ナイフが握られ、ペン回しの要領で器用に何回転もさせる。刃物の扱いが随分達者であるのは容易に解るが、そんな物騒な物を持ち歩く女の子が居る訳がない。護身用にスタンガン持ち歩くのとは、大いに違う用途を感じる。

 少女は落胆の色を見せ、嘆息して項垂れる。


「あー……殺しそこねたぁ」


 成る程、最後までただの女の子にやられたというのを信じたくなかったが、この一言で相手が敵なのだと再認識した。畜生、恨みを買うような事した憶えは……憶えは……あったような?

 脱力して膝を着きそうになったのを、横から飛び付いた大樹が支えてくれた。そういやコイツ居たな、すまん。


「大丈夫か、サカキ!」

「済まん、あまりに熱烈な女の子のスキンシップに悩殺されるところだったぜ……」

「いや、刺殺だからな。こんな時までバカ言うなよ!?」


 刃物をスキンシップに使うとは、何とも刺激的ではあるけれど、俺は鋭い接触は控えたいものであって少女から受けたものは全く嬉しくない。いや、痛いのは誰だって嫌だろう。

 少女が手中で玩んでいた果物ナイフを、指先だけで投擲した。もはやその器用さは笑うしか無いが、それよりも驚くべきは指で弾いた程度で発揮できない筈の速度で刃先が迫る。指先に火薬でも仕込んでいたのかと疑ってしまうが、俺は先に大樹を横へ押し退けた。

 体を直撃の寸前で捻ったが、今度は左肩を深く抉られた。学校指定のジャージに凄惨な鮮紅色が滲み、思わず膝を着いた俺の眼前で空中を無数のナイフが旋回する。無造作に腰の鞄から取り出して少女が上に放り投げた物──嫌な予感がする。

 空中で手にとって放ったり、殴ったり、或いは蹴り飛ばしたり──その矛先は総て俺なのだが、正確さを欠く筈の連投なのに寸分違わず凶刃が飛び退いた俺の過去位置に突き立つ。標的が動く都度、その照準を即座に定めてまた放つ。

 猛追するナイフを躱わし、俺は屋台の影へと転がり込んだ。大人達は怯えきって、少女を中心に環が広がるかの如く完全に離脱していた。それが正しい判断ではあるが、一人も助けてくれない状況には変わりない。

 肩と腹部の負傷、出血量は早く処置を済まさないとまともには動けないだろう。意魔ではない、明らかに人間である。周囲が目で知覚しうるからこそ、現に危険を感じて皆が逃げたのだ。誰かに殺意を向けられた事など一度だって……ありました、霧島親衛隊にはその点では凄くお世話になったわ。


「くそ……何者なんだ、お前は……!?」

「アタシはね、『キズモノ』だよ」

「……えらく可哀想な名前だな、付けてやろうか?」


 俺が背を預けていた看板板に、数本のナイフが命中する。咄嗟に前に上体を戻し、貫通した刃先に貫かれずに済んだ。

 キズモノ──を名乗る少女は、両手に提げたナイフで金属音を奏でながら、俺の居る方へと歩み寄る。目的は俺を殺す事、その動機は不明、実力は相手が上、負傷した俺の勝機は薄い、対抗策は……

 俺は看板板を持ち上げ、少女へと投げ付ける。遮蔽物として投じたそれの後ろで、俺はその場から離脱しようとするが、行く手を阻むナイフが飛来する。


「残念、人間の考えてる事なんてお見通しだよ」

「その口振り、まるでお前が人外みたいだな」

「その認識で間違いないよ」

「たまに居るんだよな、漫画や小説でも。お前みたいに鬱陶しいタイプのキャラ」


 俺の台詞を聞き終わってから、笑顔で少女のナイフ乱発。もはや回避の仕様がない。諦念に目を瞑りかけた時、目前に人影が割って入ると凶器の散弾を悉く撃墜する。


「……足軽か!?」

『オオオウ』


 救世主が登場した。





忙しくて後で書き足す予定です。

次回も宜しくお願い致します。

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