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戸番榊の非日常~叶桐怪奇譚~  作者: スタミナ0
二章.空欄の中の可能性
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008──人生ゲーム~Bad game.~



 ──漆:参:拾:弐拾──



 昨晩の激闘を経て、負傷した俺──戸番榊は絶対安静と命令するボクっ娘同級生の敷波桐花による厳重な監視の下、市民会館(仮)の中を散策する事にした。幾ら怪我したとはいえ、これくらいは許容して貰わなくては何も出来ない。

 一応、治療に関しては桐花の処置で問題なく、大事に至らないという。庭園(予定)の方に降りて行けば、敷地の外側では筋肉だるまがこちらを覗いていた。

 手を振ってやると、その大柄な体格に似合わない小さな動作で応える。その肩に乗っている足軽もまた、こちらに縦に立てた手刀を面前に上げて一礼する。……どうやら謝罪の積もりらしい。

 俺も何となく一礼して返すと、笠の下でかたかたと顎を鳴らした。あれは、笑ってるのだろうか。

 まだ正午を迎えない時間帯、町の喧騒を遠くに聞く森に面した市民会館は、アイツによって展開された結界の内側を満たす静寂に包まれている。外界の音を遮断する効果でもあるのだろうか、意魔と何らかの関連があるやもしれん。

 しかし、その辺は専門家の桐花が熟知しているだろうし、俺が熟考せずとも解答を用意してくれるだろう。──いや、それで意魔の弱点を把握して己一人でも対処できると俺が調子に乗らない為に、まだ教えてくれないのだ。

 何だか朝陽よりも一足先にデートっぽく並んで歩く俺と桐花。……でも、コースは廃墟の散策で印象悪いし、毎日登下校を一緒にしていたから気にならん。

 取り敢えず、修羅場を生き延びた俺が意識を向けるべき問題は、体育祭で朝陽を懸けて対決する際の行動に、この腹部の負傷がどれほどの悪影響をもたらすか。十全な状態でなければ、恐らくあの完璧超人には勝てない(まだ噂や伝聞程度の知識ではあるが)、それでも勝負の前にやっちまうなんて、相当間が抜けてると思う。

 今となると、大事な局面を前にこんな失態をしてしまった点では、あの頃の朝陽の心情も理解できる。……引退試合、凄く張り切ってたんだろうな。


「サカキ、これ食べる?」

「ポテチの薄塩味か、良いぞ」

「これ最高だよね、特に食感と塩味の加減」

「お前、好きな食べ物って何?」

「色々美味しくて甲乙付け難いけど……一番は、味噌汁だね」


 趣味が渋い、女の子要素が……。

 いや、個性があって良いじゃないか。それにポテチ好きって事は、それなりに日本文化に浸透してきてるんだろう。何故なら、前回二人でスーパーマーケットに出掛けたら、お菓子コーナーで四歳児と一緒に並んで凄くキラキラした目で吟味してるくらいだし。

 仕事で海外を転々とするらしいが、きっと滞在期間も最低限の物なのだろう。そうでなくては、流石にこの新発見の多さも判らない。


「あ、でもサカキの料理も好きだよ」

「俺はお前の料理好きになれないな」

「そういうことを言わないでよ!ぼ、ボクだって……頑張ってる……?」

「そこ、語尾を疑問符にしちゃいけないやつな」


 まあ、上達の成果は見えるよ、所々に。

 今まで保存食生活だったらしいから、確かに料理も最低限しか出来ないのだろう。……いや、だとしても何故に具材が爆散するんだよ。

 それに、そんな食事生活で周囲から美少女だって見られる容姿が維持できるのだろうか。これは人類の神秘学として研究対象になるんじゃない?朝陽が彼氏出来ないのと同じくらいに。

 俺は軽く体を伸ばすと、腹に感じた痛みを隠しつつ周囲を見回す。


「昨日、汗掻いたしな……シャワー後で浴びたいんだが」

「あ、じゃあ案内するよ。丁度、ボクも朝にするんだ」

「え゛……じゃ、じゃあお先にどうぞ」

「?大丈夫だよ、シャワーは沢山敷設されてるから二人で一緒にやったって問題ないよ」

「おま……」


 心底から気付いてない顔の桐花。小首を傾げて見上げてくるが、やめろ、俺は喋りたくない!

 横で女子のシャワーなんて音だけでも絶大、煩悩の源泉にしかならんだろうが。せめてゆっくりしたかったもんだ。




 ──十時間後。



「お泊まり会・第二夜~!」


 アイツの変な進行で、二日目の夜が始まる。

 厨房を借りて、俺が料理して品々を壊れかけの卓上に並べたばかりなのだが、さっさと食べて欲しい。いや、桐花は待ちきれずにもう堪能してる。

 仏頂面の俺に、食事に夢中の桐花を見て「え~つまんな~い」なんて言い出すアイツ。そのテンションで一夜明かす方が辛いんだけど。


「サカキが怪我するから、午前中に皆でバスケやる予定が帳消しになったじゃ~ん。ホントに有り得ないんですけど~」

「そりゃ悪いと思うが、お前が言うと清々する」

「扱いの差半端無い~、これマジ酷くない?ね、トーカっち」

「今日のお前のキャラは何なんだ、何処で学習してきたそんなモン!?語尾伸ばすな、人を「◯◯っち」って呼ぶな、腹立つ」

「じゃあメガネ~」

「名誉ある名じゃないか」

「サカキのキャラが一番意味不明だし~」


 人の怒りを誘うような倦怠感漂う感じの語調がすごい耳障りだが、相変わらず何してもキャラが濃い。その癖して印象が薄いから記憶に残りにくい。何だろう、こいつなら完全犯罪可能なんじゃね、身内からそんなヤツ出したかないけど。

 しかし、昼のシャワーは地獄だった。横から体を清める最中の桐花が会話を求めてくるから、折角精神統一してたのに見事に掻き乱される。音が響きやすい構造だったから、もう色々と男には辛いやつだった。

 あれだな、ここは某漫画みたいに、『僕は喰◯だ』と言ってた青年みたく割りきっていくかとも考えたけど、この場合は危険だから避けた。俺が犯罪者になりかけた。


「んで、今晩は何をするんだ?」

「そうだな、サカキを鬼にして“猿回し”」

「駄目です」

「そんなに怒らないでよトーカちゃん、冗談だって」


 俺が運動するとなると、とことん切り捨てる桐花。その気遣いは嬉しいけど、そこまでやると何の案も出なくなっちゃうぜ。


「人生ゲームは?」


 そう提案したら桐花の顔が輝いた。もう手に持ってる。


「良いね、やろうか」


 盤を広げて駒を置く。

 人生ゲーム──盤の上に描かれた升目(マス)に従い、回したルーレットで出た数だけ駒を進める単純な遊び。升目に書かれた文に従い、最初は五千円を手に様々な苦難や幸運との邂逅を繰り返して行く疑似的に人生の道を示した物。

 自分を表示する駒は、小さな車の乗車スペースにある穴に自分に見立てた棒を一本突き刺す。残はきっと途中で増える家族の空きだ。

 俺、桐花、アイツの順に周回して行き、誰が一着となるかを競う。


 ゲームスタート。

 俺がルーレットを回す──六。


「えーと……『道端でスーツケース発見!落し物と見て交番に届けたら窃盗犯と疑われた!人生(升目)を最初からやり直す』。……何じゃこりゃ」


 ルーレット回した意味が無くなった。俺はスタート地点に帰還すると、アイツが楽しそうに「おかえり」と言う。……コイツこそ地獄見ないかな。


「じゃ、次はボクだね!」


 桐花が回す──四。


「えっとね、『親の借金を返済完了、これから自由が手に入ると思いきや、大富豪に無理矢理婚約を強いられた。“YES”ならば相手を差してゴール、“NO”ならば他プレイヤーに五千円貰って回避』」

「何なんだよこのクソゲー!?」


 桐花も若干顔が蒼褪めていた。自分で購入した物の内容の凄まじさに引いている。

 いや、回避法が五千円で良いのかよ?というか、桐花自体は出費無いのね。何だろう、結婚祝い金みたいに渡すのに意味合いが真逆っていう奇怪さ。


「ぼ、ボクは決めた人としかお付き合いしないなら……二人とも、ごめんね?」

「いや、トーカが変な男に捕まらないんだったら良いけどさ……」

「うわー、僕最初から無一文じゃん(笑)」


 二人とも全財産(最初の小遣い)を渡す。

 桐花を捕まえた大富豪とやらは、後でシバいてやる。スタートから出鼻挫かれたアイツは、泣く泣くルーレットに手を掛けた。


「来い、幸運の青い眼鏡!」

「悪いな、お前が頼ったのは絶望を運ぶグラサンだ!」

「えー要らないー♪」


 アイツがルーレットを回す──八。


「さて、『通り掛かりで変な男に白い粉の入った袋を渡され、指定された場所に届けると後日郵便受けに札束が入っていた!六〇万円を手に入れる』」

「金を得ても内容犯罪なのかよ……シビア過ぎるぞ、この人生ゲーム」


 俺が回す──八。

 アイツと同じ升目だった。俺の肩を優しく叩いて耳許で囁いて来た。


「これで、同罪だね☆」

「納得いかねぇぇええ!!」


 桐花が回す──六。


「よし、『友人が麻薬取引に関与している証拠を発見する。“警察に届ける”なら、他プレイヤーの全財産を受け取ってスタート地点に送る。“黙認する”なら、黙秘料として他プレイヤーから財産の半分を貰う』……」

「トーカは、そんなに俺らから金を搾取するのが好きなのか?」

「ボク……友達いなかったから、どうしたら良いか判らない」

「友達だろ?僕らを見逃してくれよ」

「悪党っぷりが凄い似合うなお前」


 桐花は黙認を選んだ。俺達は犯罪で稼いだ総量の半分を献上する。何だろう、桐花だから良いけど内容的には弱点を握られた感じなんだけど。これから良いように使われる予感がする。


「おりゃっ!」


 アイツが回す──八。


「そら、『前世の記憶が戻った、自分が異世界の勇者だと気付く。通院料五万円を払う』」

「頭可笑しい奴って言われてるぞ」

「こんな酷い人生ゲーム見たことないよ、それを言うなら初日のサカキだろ」

「おい、“風使い”としてそれは聞き捨てならねぇな」


 やっぱり市販で売ってるのが可笑しいやつだ。

 後で何処で購入したか聞こう。


「それぃっ!!」


 俺が回す──九。


「んと、『好きな異性とデートする事になったけど、いつも遊んでる子からもお誘いを受けた。“好きな子を優先”だと八万円得る、“いつも遊んでる女の子を選択”だと謝罪料として八万円支払う』……」


 何だかこの状況が……俺の現状に似てる。

 どうしたものか、盗み見ると桐花の顔がやや暗い。……ええいっ!くそぅ!八万円払ったるわ!

 桐花が嬉しそうにしたので、良しとする。……いや、別に朝陽は好きな女の子って訳じゃないがね?


「ボクが行きます!」


 桐花が回す──八。


「ん、『男に襲われた、治療費で四万円失う』……うぅ」

「ヤツ……結婚を断られた大富豪だね」

「今になって登場!?任せろトーカ、俺が始末してやる!!」


 桐花が涙目だ。いや、コイツは男女ともに被害受けた体験があるから、誰よりも酷に感じるのだろう。心の傷まで抉るとか尋常じゃねぇな、このゲーム。


「そいやっさ!」


 アイツが回す──三。


「よっと、『後ろの他プレイヤー全員を殺害、人生ゲームを終える』」

「理不尽すぎる!?」

「ごめんなさい、ボクが買って来たばかりに罪を重ねさせて……!」

「いや~、もう数えきれないから、僕は気にしないよ」

「お前は何してたんだ今まで!?」


 第一回人生ゲーム終了。

 あまりに釈然としない終結に、二日目の夜はこの人生ゲームのゴールだけを目的に皆で頑張った。四回目にして漸くゴールし、その頃には朝となっていて、俺と桐花が長い道程で負った傷の痛みに悲泣の涙を流していた。

 久しぶりのガチ泣きだった。





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