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 『小学生の自由研究企画』の記事制作も大詰めとなり、今度は松井が教材出版社のある首都圏へ向かうことになった。今回は小田ではなく、首都圏出身で前職からの仕事仲間である青葉透(あおばとおる)を伴っている。彼は首都圏の地理に明るいことと、実家の法要に参列するという理由での同伴となった。


 しばらく振りに再会した伊勢の表情は完全に吹っ切れている様子だった。長岡との事で何らかの決断をしたのだろうと安心したと同時に、以前出会った時よりも仕草が亡き妻に似てきた事で何となく落ち着かない。

 ‎それを周囲に悟られたくなかった松井は、敢えて伊勢と距離を置いた場所に座る。青葉は松井の隣に座り、ニヤッとして耳元に顔を近付けた。


「彼女、以前と少し印象が変わりましたね」


「そうかな?」


 素っ気なく答えた松井に対し、青葉は興味深げに伊勢の姿を視線で追い、その後松井の横顔をチラッと見やった。

 ‎仕事そのものは昼過ぎに終了し、伊勢の後輩編集者である加藤(かとう)という若い男性が事前に仕出し弁当を手配していた。


「お二人もご一緒にいかがですか?」


「「ありがとうございます」」


 青葉はどこかの店に入ればいいと楽観的に考え、松井は食事の事など一切考えていなかったのでこのお誘いはありがたかった。担当部署の編集長である由良も姿を見せ、その場にいる者全員で弁当を食べ始めた。


「そう言えば、この前伊勢を訪ねて男が来たんすよ」


 記事制作の際には同席していなかった小嶋(こじま)という男性編集者が思い出したかのように彼女の話題に触れた。小嶋とは以前別の仕事で何度か顔を合わせており、天文館メンバーとの交流自体は伊勢よりも古い。


「今する話じゃないでしょ?」


「別にいいだろ、背も高くてなかなかのイイ男だったんだし」


 小嶋はニヤニヤしながら彼女を見る。松井は二人のやり取りであの時のサラリーマン、長岡謙太朗の事だと確信した。


「呼んだ覚えはないからね!」


 伊勢は面倒臭そうにしながら弁当を頬張る。女性にしては豪快にかっくらう食べ方に笑いそうになるが、本当に笑ってしまうと失礼にあたりそうなので黙っておく。そう言えばパフェを食べてたあの時もこんな感じだったっけ、とこんな時に思い出さなくてもいい事が脳裏をかすめる。


「けど何か訳アリでさぁ、元カレか何かか?」


「ノーコメント。それよりアンタ覗いてたの?」


「そっそんなんじゃねぇ! たまたま視界に入っただけだ!」


 線のような細い目で睨み付ける伊勢と、急激にアタフタし始める小嶋との会話を面白そうに眺めていた松井は、いつしか午前中のわさわさした思いなどすっかり忘れてしまっていた。

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