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 二晩東北の星空を満喫し、首都圏方面へ帰る伊勢と瀬戸内方面へ帰る松井は藤巻の車で空港まで送ってもらっていた。彼と別れてターミナルに向けて歩いていると伊勢の表情がすっと曇り、松井の影に隠れてしまう。


「何なさってるんです?」


 伊勢はそれに対する返事をせず、急かすように腕を引っ張ってその場から離れようとする。不自然に早足の二人を追いかけてくるサラリーマン風の男性に気付いた松井だが、急に走り出した伊勢に更に引っ張られて声を掛ける余裕はなかった。

 ‎しかし息の合わない二人の逃走などすぐに追い付かれてしまい、あっさりと回り込まれる。男性は藤巻くらいはある長身で、当然だが松井にとってはただの見知らぬ男に過ぎなかった。


「奈那子」


 彼の声は悲愴そのものだったが、伊勢は完全拒否を態度の表すかのように松井の後ろに隠れたままだ。間に挟まれる形となる松井はこの場から逃げたい気分だったが、尋常ではない力を込めて自身のシャツを掴む女性を置き去りには出来なかった。


「あの、二人で話をさせてください」


 男性は丁寧な口調ではあるが、確実に松井を邪魔げに見下ろしていた。


「私は構わないのですが」


 そう言いながら伊勢を見るが、彼女は首を振って応じようとしなかった。その態度に男性は明らかに肩を落とし、それ以上の無理強いはしてこなかった。


「今日はこれで失礼します、お騒がせしました」


 思っていた以上にあっさりと去っていった男性の後ろ姿を見ていた松井に急激な疲労感が襲ってくる。伊勢もようやく力が抜けたようで、掴んでいたシャツを離してほぅと一つ息を吐いた。


「シャツ、破られるかと思いました」


「ごめんなさい」


 この事から話題を逸らそうとした松井の意図とは違い、伊勢はさすがに気持ちの切り替えができていなかった。これはどうしたものか……この重苦しい雰囲気をどうにかしたいのだが、妙案が浮かばず何となく腕時計を見た。時刻はちょうど十一時、視界に入ったレストランが開店したばかりだった。


「取り敢えずあそこに入りませんか?」


 大して空腹でもなかったが、一先ずこの空気を仕切り直しいがために彼女を誘って早い昼食を摂ることにした。


 ‎開店一番乗りで店内に入ったのでほぼ貸切状態だった。松井はサンドイッチとコーヒーを、伊勢は甘いものを欲してパフェを注文した。

 ‎早々に運ばれてきた軽食をあっさりと平らげたはいいが、それで重苦しい空気が振り払われた訳ではない。向き合って座っているのに会話もなく、松井は段々と居心地が悪くなってくる。


「さっきの人なんですが。実は()婚約者だったんです」


 沈黙を打破するかのように、伊勢が身の上話を始めたのだった。

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