廿壱
「おじさん、今日は体調良いらしいよ」
曽我のペースに巻き込まれるまま実父の入院している大学病院に赴く事になった松井親子は、彼の車に相乗りして十分程で到着した。
「随分と雰囲気が変わったな」
「一度改装しとるすけ。前のは最悪だったよな」
今でこそ淡いサーモンピンクに塗装されて温かみのある雰囲気になっているものの、松井の記憶にあるそこはコンクリート打ちっぱなしの薄暗い雰囲気で、子供心に怖さを覚えるほどであった。
「病院というよりも収容所みたいだったんだ。ここに通う生徒全員が健康診断で利用するんだけど、気分が滅入って入りたくなかったよ」
彼は建物を見上げながら昔話をする。何だかんだで思い出があるんだな……猛はそんな事を思いながら父の話を聞いていた。
「じゃあ、入ろうか」
曽我のひと声で三人は院内に入る。内装も当時とはまるっきり違う明るい雰囲気に変わっており、当時ほどの嫌悪感はない。しかし松井は病院嫌いで、若葉を亡くして以降極力病院に近付こうとしなかった。
三人はエレベーターを利用して三階に上がる。曽我は通い慣れているようでさくさくと歩みを進め、親子はそれについて行く。曽我は一番奥のドアの前で足を止め、右手で三回ノックした。
はい。と年齢的に熟している女性の声が聞こえてきて、松井の表情が少し強張る。一方の曽我は慣れた口調で名を名乗り、どうぞの声に合わせてドアをスライドさせた。
「お邪魔します。連れてきました」
まぁ。と言う言葉と共に椅子を引く音が聞こえてくる。スリッパを履いているのかパタパタと小さな音を響かせ、奥から白髪の上品そうな女性が姿を見せた。
「二人共よう来なさった。ささっ、入りんせ」
女性は松井の前に立って懐かしむように微笑みかける。
「ご無沙汰、致しております。お母さん」
「そんな堅苦しい挨拶要らないわ。それと……あなたが猛くんね」
はい。一方の猛は人見知りしない性格なので、初対面の祖母に対しても屈託なく笑いかけている。
「若葉さんによく似てるわね」
「よく言われます。父さん、ここからは別行動ね」
「えっ? 何で!」
松井は何とかして息子を引き留めようとするが、猛は曽我の後にするっと隠れて俺邪魔じゃん、と笑う。
「あの、俺は明日寄らせてもらっていいですか?」
「えぇ。構いませんよね? お父さん」
構わんよ。ベッドの方向からすっかり年老いた男性の声が聞こえてきた。松井はそちらの方に怖々と顔を向ける。
「長居は致しませんので」
松井は変に気構えて冷ややかな態度を取る。
「何言ってんの、ちゃんと話さなきゃ駄目だからね。曽我さん、俺行きたい所あるんですけど」
「いいよ、今日はもう仕事終わってるから」
猛は曽我の腕を引き、じゃあねと言ってそそくさと出て行ってしまう。
「私もそろそろ時間ですので」
母もそう言い残して出て行ってしまい、病室内はベッドに横たわる父と松井だけになった。




