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拾壱

 妻と出会ったのは高校一年の頃、クラブ活動の顧問をしていた男性教諭の妻として出会ったのが最初だった。当時はまだ珍しかった大型ショッピングモールで、彼女が体調を崩しているところを偶然通り掛かり、たまたま介抱していたら顧問と遭遇して彼の妻と判明した。

 ‎彼女は時々近くの公園でぼんやりと過ごす事があった。顔見知りだったのでちょくちょく話をしていくうちにいつしか恋心を抱くようになっていた。


 その年の年末、若葉が当時はまだ認知されていなかったDVの被害に遭っていた事が明るみに出た。暴力事件を起こしたということで夫である顧問は懲戒解雇、妻であった彼女は短期滞在のできる駆込み寺に身を寄せていた。

 ‎その寺は天体観測に打ってつけの小高い山の上にあり、松井自身そこにはよく出入りしていた。二人は徐々に心を通わせ、進級する少し前に男女の関係に発展していた。


 ところが若葉は夫と離婚が成立しておらず、彼女がいくら離婚を願っても復縁を迫られて話が進まない状況だった。怪我をさせるほどの暴力を振るっておきながら、と当時の松井には皆目理解が出来なかった。

 ‎見かねた寺の住職が間に入り、彼女の両親も呼び寄せて話し合いの場を持った事でようやっと離婚が成立した。ところが松井は松井で家族に内緒で天体観測をしていた事がこのタイミングでばれてしまい、寺の出入りを禁止されてしまう。


 若葉に会えない日々に耐えられなくなった彼は、真夜中に自宅を抜け出して寺に忍び込み、彼女を呼び出してこの街を出ようと誘った。彼女もそれを了承し、数日後荷物をまとめて駆け落ちを敢行したのだった。


 松井はそこまで一気に話し、ぬるくなったアイスティーで喉を潤す。どちらかと言えば大人しいタイプに見える彼に不倫という言葉がどうしても結びつかず、ただただじっと見つめていた。


「意外、とでも言いたそうですね」


「えぇ、あなたの話とは思えません」


 伊勢は正直にそう告げたが、彼は自らを嘲笑するような笑みを見せる。


「大してキレイな男ではありませんよ」


「そういう言い方なさらないでください。奥様への愛情は純粋だったんじゃないんですか?」


「我ながらよくあんな大胆な事したなと思います。ただあの時は彼女の笑顔を取り戻す事に必死でした、それ以外頭にありませんでしたので。自分自身の家族、友人、当時の暮らし、全てをかき集めて天秤にかけても彼女の笑顔よりも軽かったんです」


 伊勢は再び仏壇に視線を移し、いつまでも変わる事のない若葉の笑顔を見つめていた。彼女はきっと松井との結婚を選択して幸せだったのだろう、そう思うと何だか羨ましくなってくる。


「彼女と過ごした十二年半は本当に幸せでした」


 松井は再び語り始めた。

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