呪いの世・5
呪界
呪われた世界という、とても安易で、これ以上ない程分かりやすい世界の記号。
人の英知と愚かさの極限の果てが、この世界の始まりだった。
そう昔ではない過去のことだ。
人の化学はその技術を極めると同時に、一つの終点を迎える。
それは少し考えれば分かり切っていたことで、けれどもその瞬間まで大半が目を逸らし続けた事。拍子抜けするほど、当たり前の結末。
圧倒的なエネルギー不足。
爆発的な発展を突き進んだ科学社会において、それを支えるはずの燃料という資源が底をついてしまった。それは何世代も前から言われ続けていた必然の到来だった。
枯渇したエネルギー。資源が追いつかない程の科学技術の発展。
それでも人は歩みを止められない。
莫大な恩恵を当然の権利と享受し続けた上で繁栄した人類社会において、自発的な停滞と後退など誰も納得せず、ましてや出来ようはずもなかった。
変わらぬ継続的な繁栄、そしてその維持には、社会全体を支える根本的な『燃料』が必要とされた。
その場しのぎなどではない、絶対的な解決となるべき、莫大なエネルギーが。
そうして人は答えを出した。
一つの解決策が導き出され、そして全人類規模でそれが実行される事になる。
『高次元の暗黒物質の三次元世界への抽出と、暗黒物質のエネルギー変換による人類救済』
それが科学の答え。
画期的な解決策。
この世にエネルギーが無ければ、別の所から引っ張ってくればいい。
『高次元に存在する暗黒物質』を三次元物理空間に引き出し、それを燃料にする。
観測して接触して抽出した、莫大なまでのエネルギー源を手にし、それを欲しいままに燃料として消費する。
結果として、それは信じられない程の成功を収めた。
どれだけ消費しようと問題は無い。それこそ効率度外視で垂れ流しにしようと燃料は無限とも思える量だった。
科学は文字通り次元を超えた。
無尽蔵のエネルギーを手にし、その活動制限は完全に解消される。
しかしそれを扱う人は変わらない。
ひたすら搾取し、湯水のように消費し続け、いつしかそれが只の当たり前だとし、また享受し続ける。
燃料など気にしていた者など時代遅れとまで考えられた。
人の世は絶頂を迎えた。
その忘我の恩恵の前に、誰も改めて知ろうともしなかった。
『高次元の暗黒物質』
それが本来、どういう存在であるものなのかを。
「今まで馬鹿面並べて拝まれてた人間なんぞに、いきなり家畜以下の油としてその身を使われたんだ。どんな奴だって怒るに決まっているだろう。その身を貪られて当然だとまで人間なんぞに思われる。そこまでされて恨むな呪うなっていうのが無理な話だ。知らなかった? 気づかなかった? そんな言い訳が通じる訳がないだろう。罰を与えられるどころか遂に呪われるまでされたんだ―――神様って存在が、そこまでお人よしな訳が無いだろうよ」
人は神様に呪われた。大昔に世界と自分達を作りだしてくれた筈の神様に、憎まれたのだ。
当時の最新技術、化学、近代兵器は神に目を付けられた。
最先端科学は呪われた。
神が恨んだ科学という物が、そして人の住む現世という空間までもが呪われた。
もし無視して使おうとすれば、必ずその者は『神からの呪い』を受ける。
科学はその歩みを根本的に止められたのだった。
神様に恨まれ、人が呪われた世界の、あまりに歪にねじ曲がった新たなルール。
その中で、人はそれにすら慣れ、当たり前として生きていた。
既にそれが当たり前の世界。
呪いというシンプルなまでの感情に支配された、呪界の世の理だった。