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想いと刃・2

 夢から覚めるのは唐突で味気なかった。

 目を覚ましたアーナが最初に見たのは鉄筋とコンクリートで組まれた天井だった。ヒビだらけで今にも崩壊しそうな老いぼれの天井に埃っぽい空気。それを払うように涼しげなそよ風がどこからか室内に入ってきている。


(…………ここは……?)


 アーナは体にかけられていた薄い毛布をどかし、コンクリートの床から体を起こした。

 打ちっぱなしのコンクリートの床と壁で出来た殺風景な部屋だった。家具といえば薄汚れた木の椅子が二つあるだけ。正面にはベニヤのドア。後ろの壁と左の壁には二つの窓が取り付けられている。後ろの両開きの窓は開け放たれ、そこからそよ風と淡い日光が差し込み、鳥の可愛いさえずりが聞こえてきていた。外の雰囲気からして、どうやら今は朝方らしい。

 左側の窓は固く閉まっている。左側の窓は長方形の大きな引き窓となっており、長方形の窓の外にはまた大きな空間が広がっているのが見える。この部屋と似た鉄筋で組まれたオンボロな屋根裏。ぱっと見た雰囲気からして工場の中だろうか。

 だとしたら、この左の大きな窓は工場内を見渡す為のものだろうか。アーナがぼんやりと自身のいる場の情報を整理していると、ギィ、と木製のドアが開いた。


「へへ、目ぇ覚めたみたいだなぁ」


 一人の男と、一匹の奇妙な犬は部屋に入ってきた。犬の肌は黒い鱗に覆われていて、毛は尻尾にしか無かった。おそらく伝獣だろう。犬はこちらには興味なさげに部屋の端で伏せて寝だした。

 部屋に入ってきた男にアーナは見覚えがあった。金色の短髪、装甲服と腰に提げた二つの片手剣。夜に自分とウラグナの前に現れた襲撃者だった。


「お前は……」

「そういや昨日は名前も名乗ってなかったな。俺はエドガー。良い名前だろ?」

「悪いがお前の名はあまり興味がないな。ここはどこかしら?」

「釣れねぇ女だ。こっちは背中斬られてまで仕事してんのによぉ」

「すまないが私の知るところではないかな。それよりここは?」

「ははは、それこそお前に言う必要あるのか?」

「そういうのは言い、気分じゃない。いいから言え、どこだここは」

「つまらねえなぁお前……ここは俺たちのねぐらの一つだ。都市外だが、そこまで離れた場所でもねえよ。これで安心できたか、お嬢さん?」

「まぁ、そうね。都市外というのが分かれば十分だ。助かったよ」

「? どういう意味だ?」

「そのままの意味だ」


 アーナはそれ以上喋る気がないというように目を背け立ち上がる。

 僅かに警戒するエドガーを無視するように部屋のある汚れた椅子まで行き、空が見える窓際まで運び無言で座り窓の外へ目をやった。

 無言の小部屋。

 それにエドガーはつまらなそうに肩をすくめると開けたままのドアから外に出て行った。からかい甲斐がないと思ったのか。外に出たエドガーのカンカンカンとリズミカルな足音からして、ドアを出ると直ぐ階段があるようだ。

 蛇皮の犬だけは部屋に残ったままだったが、アーナがこちらに興味が向けないのを理解したのか、部屋の隅に移動し、そのまま眠るように腰を下ろした。

 一応の見張り、ということなのだろう。

 アーナは適当にそう思うと、注意はそのまま窓の外に向けられる。外には針葉樹の森が広がっており、どうやら都市から少し離れた丘の森のどこかなのだろうと当たりをつける。


(森……夢の続きというには、規模が違いすぎるかな)


 ぼんやりとそう考えていると、再び誰かが昇ってくる足音が聞こえてきた。そのまま近づき、エドガーとは別の人物が一人、部屋に入ってきた。

 アーナの視線がその人物へ移る。

男は着流しと紫のポンチョを身に着けていた。顔立ちは自分や菊千代と同じく東方寄り。腰帯には菊千代の刀よりも長い刀を差している。

 極東の武士。その言葉が良く似合う気がアーナにはした。


「どうもおはようアーナ・イザナミさん。名乗る事でも無いが、あんたを攫った連中の頭目の陵田長政だ。ついでにそこで寝てる伝獣はクロって名だ。まぁ、あとは言わなくても分かってるだろうが、俺がアンタを殺させてもらうぞ」


あまりにあっさりと。御陵田は殺すという事実を遠慮なく言い放った。


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