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想いと刃・1


 ここは夢の中だ。おそらくだが、記憶の中だ。

 アーナにはそれが直ぐにわかった。


 自分が今立っているのは深い深い森の中だった。

 地表には人の体程もある木の根とそれをびっしり覆う苔類なり菌糸類なりが隙間無く張り巡っている。

 視線を挙げれば見渡す先まで見えるのは大樹の群れ。民家でもビルでも丸ごと収まりそうな大樹の群れが連々と屹立している。頭上では大樹から延びた力強い枝らが空間を埋め尽くし緑色の空とも海面とも思わせる。

 周囲は植物らによって音を吸収されたかのような静寂が支配し、木々の鼓動まで聞こえそうだった。

 肌に触れる空気も濃く深い。何千年も昔から漂っているかのように感じられた。

 神が乗り移ったかのような木々達。

 人の世から、呪い呪われの世界からは隔絶されたような静謐な世界。

 その森の一角では。

 

 アーナと共に何十体もの傭兵の死体が、森の招かれざる客として存在していた。



「…………」

 

 虚無を映した死人の眼。それは何度見ても気味が悪く、観る者の心を蝕むようだった。

 神の如き大樹は血反吐を浴びせられ、その足元に転がる大量の(はらわた)はまるで這い出した巨大な寄生虫のようだった。

 深く濃い空気には血の味が混じり鼻を突き、生臭い赤色が神聖な緑色を犯しているようでもあった。

 無数の屍体と同様に、アーナも全身を血で化粧していた。

 視線を変えれば、自分と同じように血化粧で立ち尽くす男が一人、傍らに。

 

 立ち尽くし、その身を真っ赤に染めた人殺しが一人、アーナを真っ直ぐ見据えていた。




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