増殖する殺意・3
―――亡国の呪術師、ヤユタ・タケミカズチを撃退してからすでに一週間以上が過ぎていた。
時刻は夜中。夜も深まり、乏しい街灯の灯りだけが都市を照らしのみで全ては静まりかえっていた。
「やぁやぁつまり僕は燃料として引き摺り下ろされた神様っていうのは相当焦っていたんじゃないかと思うんですよねぇ」
ただ『がらくたの・曲芸団』の団長室。そこだけでは陽気な声が部屋の中に投げかけられていた。部屋にやたらと設置されたランタンで照らし出された部屋、酒瓶の種類は豊富なバーカウンターの中から、団長エリス・アーガイルは手慣れた風にシェイカーを振りながら自論を説いていく。
前置きはこうだ。
曰く、神様の呪いについて。及びこの世界の在りようについて。
「この呪界というのは神様に呪われたためにグチャグチャになったワケじゃないですか。まぁ元を正せば私たち人間の自業自得ですがね。今考えてみても神様を燃料にしようとは中々に禁忌的な発想じゃないですか。考えるだけで身の毛がよだちますね僕は」
「……お前が怖いとか言うと嘘くさいな」
その団長の演説を拝聴しているのはカウンターで座る菊千代だった。
普段身に着ける三振りの刀剣は部屋の瀟洒なソファーに適当に投げ置かれており、その手には木のグラスに注がれたビールがある。
その体の節々には包帯が服の下から見え隠れしていた。呪術師ヤユタとの戦闘の名残だ。特段動きに支障がある訳でもないが、生傷の感触は菊千代の気分を萎えさせ続けている。
ローテンションを隠そうともしない菊千代だが、それを知らずか無視しているのか、エリスはその態度に一切変化はない。
「いや本当に怖いと思っていますよ僕は。これでも神様にも人様にも呪われないように気を付けているんですがね」
「神なんてのはもう人間を呪って居なくなったんじゃねえのか?」
「どうですかね? 今神様がどうなっているのか、それは現在の世界の根源も根源でしょうし、僕には想像もできないことですかね」
「知らないって普通に言えっつの」
「はは、まぁそうですね。やぁまぁ万が一にも神様って存在の今を知っている人がいられるなら、ぜひお会いしたいですがね」
話を戻しますが、そうエリスは言いつつカクテルのシェイクを止め、その中身をグラスに注いでいく。
鮮やかな赤色のカクテルがグラスを満たしていく。
「科学技術の全盛期。神様を燃料や資材にしたという前時代。それは今とは比べ物にならないテクノロジーの時代だったそうです。飛行機は本当に飛んでいただろうし、船の動力も本当の動力として稼働していた。銃は人の目になど映らない速度で人を殺せる道具だったそうですし。今の時代とは何もかもが桁違いです」
「大昔の話だろ」
「ええその通りです。化学兵器や機械人形といった軍事技術、最先端技術は徹底的に呪われた。この世の機械は手当たり次第に。物だけでなく技術自体が手当たりしだいに。もし使おうものなら物体は呪いの爆発が起こる。技術を扱おうとした人間が壊れる。新たに生み出そうとした人も物も同様に。まぁこれって僕らからしたらもう当たり前の現象ですけど当時は相当苦労したと思うんですよ。だって例えば銃とかっていうポピュラーな武器でも使おうとしたら原因不明の爆発でデッドエンドですよ? 理不尽にも程があります」
「あの時代でも剣でも斧でもナイフであったんじゃねえのか?」
「人間楽な手段があれば先ずはそちらを使おうとするものですよ。菊千代君だって刃物がいきなり呪いの対象になったら困るでしょ」
「……考えたくもねえな。悪夢だわそれは」
「それが昔に起きた神様の呪いの恐ろしさなんでしょうね……たた、でもですね? ここで一つ大きな矛盾が生まれるんですよ」
エリスはとあるものをカウンターの上に置く。それは部屋を明るく保っているランタンの仲間、アルコールランプのインテリア家具だった。
「? ランプがどうしたんだ?」
「このようにランプやランタンは今でも使われている。でもこれも立派な科学ですよね? 燃料を消費して灯りを得る。街のガス灯もそう。だけど同じように燃料を使う車や戦車は動かない。これっておかしな話だと思いませんか?」
「いやおかしいって言われても、現に使えてるなら良いんじゃねえか。真っ暗なのが好みなのか? すげえ不便だぞ」
「確かに、私も真っ暗なのは怖いですね。こうして灯りがある生活って言うのは本当に身に染みて在り難いと思いますよ。ただ気になるってだけですよ。何故、使える技術と使えない技術、二つに分けられているのかが、です」




