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極東堕ち・15

 戦闘が起きた広場はさまに戦場跡となった。

 周囲の店はどれも半壊か全壊のありさま。生々しい破壊の跡。連続していた爆発音は止みはしたが、そこに人の姿は戻ってきていない。



「やぁまぁ、つまりはこういうことですね」



 そんななか、エリス・アーガイルは手に持った物体を弄くりながら全く現状と似つかわしくない爽やかな笑みを浮かべる。

 手に持っているのは泥で形作ったような人形。先程の戦闘の最中、呪術師ヤユタが落としていた土人形だ。

 人形は五体満足。無傷で見つかった一体だった。それを唐突に、エリスはその人形の右手を掴むとパキッ! と折り、砕けた人形を太陽目がけて投げ放ってみせた。

 

 数秒後。

 人形は空中の最高点で爆発した。


「うおッ!?」

「きゃっ!」


 残骸の上でべたりと座っていた菊千代とエリスは突然の爆発に悲鳴をあげる。


「やぁ成程。つまりこの人形は自立型の呪具と言う訳ですね。作成には呪術を用いていますが使用自体は僕みたいな一般人にも問題なく行える。通信用の伝獣と同じような物ですかね。いやぁこれは便利だなぁ」


 紫色の空中爆発を見上げながら、エリスは(あご)に手を当て感嘆の声をあげる。

 その頭を菊千代が思いきり殴った。


「ゴベ!? 痛っ! いっだぁぁああああああ! 何するんですかキクチヨ君!? しかも篭手を付けてる右手で殴るなんて!」

「何してんだはアンタだ! 何いきなり爆発起こしてんだよ!」

「いやだって、普通は目の前にあんなの落ちてたら確かめずにはいられないじゃないですか」

「確かめねえよッ! さっきまでそれで殺されかかってたんだぞ? もちっと警戒するなり遠ざけたりするだろうが、普通は!」

「団長。私もそれには賛同できません」


 ウラグナにも否定され、エリスは露骨にショックの色を表す。

 しかしそんな団長の悲しみをガン無視し、菊千代は当面の問題を言う。


「それよりエリス。これどうすんだ?」

「ふぇ? これとは?」

「これだよこれ。このボロボロになっちまった周りの事!」


 菊千代は大きく手を広げてブチ壊れた町を示す。


「……確かに菊千代の言うとおりです団長。これだけの事が『がらくたの(ラビッシュ)曲芸団(サーカス)』が原因で起こしたなんて都市の住民や警備隊にバレたら…………」

「おいおい俺達追い出されるんじゃねえのか?」

「それだけで済めば良いけど」


 ボロボロの菊千代とウラグナは見合わせ顔を引きつらせる。

 そうした中で、



「この都市を狙って攻めてきた敵対都市の呪術師を我々が発見し、速やかに排除した事にしましょう!」



 エリスは屈託ない、再び爽やかな笑みでそう言い切った。


「「……………………」」


 速攻で放たれた純度百パーセントの大嘘に二人が言葉を失い、慄く。


「……んあぁっとエリス団長、そんな大嘘ってアリ、」

「この都市を狙って攻めてきた敵対都市の呪術師を我々が発見し、速やかに排除した事にしましょう!」


 言い切る。


「団長、あの、それは名案というか迷案では、」

「この都市を狙って攻めてきた敵対都市の呪術師を我々が発見し、速やかに排除した事にしましょう!」


 笑顔で言い切る。


 菊千代とウラグナが口を開き何か言おうとする、より先に、


「この都市を狙って攻めてきた敵対都市の呪術師を我々が発見し、速やかに排除した事にしましょう! ――――良いですね?」

「「…………はい」」

 

 ばっさり言い切り二人を黙らせた。というか、戦闘を行った張本人である菊千代やウラグナとしては団長の案に反対する理由など最初からなかったりするのだが、何故かツッコまずにはいられなかった二人だった。

 それでも二人が頷くとエリスは、良し! と満足そうに言い手を叩く。叩いた手をくっ付けたまま、エリスは今からの行動を指示しようとする。


「さて、話もまとまりましたし今からやる事決めますか。とりあえず僕はここで待って自警団や市長達の偉い方々に説明してきますね。面倒でしょうから三人は――――」


 と、ここで。

 エリスは気付き、自然と言葉が止まった。

 顔をそちらに動かし、菊千代とウラグナも同じようにそこを見る。


「……姉さん」


 ウラグナが独り呟く。心配そうな、どうしていいか分からないという風に。

 瓦礫の上で、アーナは無言で青い空を見つめている。三人の視線にアーナは気付いていないようだった。立ち尽くしたまま動かない。生命力の無い、銅像のように。

見上げた顔からは既に傷が消えていた。殴打による無残な死への痕はもう何も無い。

 ただ普段の不敵な笑みもそこにはない。何の表情も無かった。

立ち尽くすしているのにまるで路肩の死体のように世界から、生気を欠片も宿さない者の横顔。もしここが墓地で、彼女が横たわっていたなら、それに誰も何の違和感も無かったのではないだろうか。埋葬されるだろう、一つの骸としか見えなかったに違いない。

 だが、世界はそんな女一人の為にわざわざ空気を読みはしない。周囲は戦場のような有り様ではあるが、はるか遠くの空は雲一つない、広く明るい青空からと暖かな太陽の光が世界に広がっていた。先ほどまでの戦闘が嘘のような晴れ晴れとした青い空。その陽光差す中では、アーナの存在はひどく場違いのものに思わせた。


 爛々と世界を照らす太陽。

 黒髪を揺らすささやかな微風。



 世界は、忌々しい程に健やかだった。死なない女を嘲笑うように。



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