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呪いの世・1


 熱すぎる太陽が容赦なく廃ビルだらけの町を照らしだしていた。

 北風と競って旅人でも真っ裸にしてやろうとしているような直射日光の下、何十年経っても崩れ落ちない老朽化したビル群の中では様々な人間と屋台がひしめきあっている。多くの人が半袖姿だが、中には極東の着物を着る者や中東の民族衣装等の者もいるという奇妙な眺めだった。

 人の行き交う大通りには多くの屋台も並んでいる。

 ある屋台はテントを張って、ある屋台は牛にひかせた移動屋台で、またある者はビルの中に直接店を構えて。

 荒れた街並みであってもワイワイと、子供は水あめ舐めてキャッキャッと、廃れた世界を嘆きもせずむしろこれが当たり前として生活していた。

 そんな中で。



「この世界は呪われていいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃいいるる!!」



 人が行き交う大通りのど真ん中で一人の男の声が高らかに響いていた。


「諸君っ、忘れてはならない。貴様たち人の罰を! この呪い渦巻く世界のあり様をぉおお!」


 男の周りだけぽっかりと人の流れは避けられ、それに男は満足だというように手を広げた。

 叫ぶ男は真っ赤な西洋風の法衣を身に纏っていた。膨らみのある服の所々を何種類かの色のベルトで乱雑に縛りあげているその姿は子供の書いた葡萄(ぶどう)の擬人化したさまを連想してしまう。

 顔は真っ白になるような化粧が施されその頭にも風船みたいな真っ赤な辮髪帽。

 どうみても変人にしか見えないが、男はその風貌とは裏腹に至って真面目だぞと示すかのように演説を続ける。


「何時だったか。すでに百年も年が過ぎている事だろう。この世には節度も弁えぬ! 今の世の科学とは比べようもない科学が跋扈していたァあああああ! 今一度見てみよっ! 周りに聳えるビルを! これら全てその時の科学によって作り出された忌むべき、そして人と世界に未だ続く『神』からの呪いの形だァあああっ!!」


 男は再三繰り返す。

 人は呪われていると。

 世界は呪われていると。

 そしてそれを耳にする往来では、なんだか鬱陶しそうにこう思った。

 全くあの男は。何を今更分かりきった事を言っているのだ、と。



呪界(じゅかい)



 それがこの荒れて落ち着いた世界の記号。

 神様に呪われた世界の名前だった。

 行き交う人並み、その中を歩きながら前方の道化のような男を見ていた、真っ黒でひどく縁起の悪そうな女は連れの男へと面白そうに話しかける。


「ふむ、見てみろ菊千代。なかなか奇天烈な事をしている男がいるぞ。確かあれは、えぇっと何て言ったかな?」


 話しかけられた男は背中と腰に目立つ二つの剣を帯びていた。

 背には西洋風の長直剣。腰には極東の刀という奇妙な装備だ。

 ただ、よく見れば装備はそれだけでない。

 和柄の腰巻を着けた腰の後ろには狩猟で使うような剣鉈(けんなた)が、またどこかで拾ったのか、腰には刀とは別に粗末なサーベルが差してあると刃物だらけ。あからさまに危険人物臭をさせる男だ。

 そうして妖しげな美女、アーナに声をかけられた男は――酒瓶を買いに行かされ戻ってきた菊千代はどうでも良さそうに答える。


「ああいうのはあれだろ。確か(だい)神者(しんしゃ)って奴だ。私が堕ちた神様の眼となり耳となり口になるって(のたま)ってる人間。別にここらの地域じゃ傭兵並みに珍しくもないだろ」

「それは分かっている。このご時世に未だ神様に許しを乞おうと生きるなんて物好きな事だが、私が言ってるのはそうじゃない」

「?」

「なんて言ったかな、アレだアレ…………そうだ! ブドウだ!」

「……あいつの見た目の話かよ」


 度数高めの葡萄酒のそのまま渡しながら、菊千代は呆れた。


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