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極東堕ち・13


「ッ!?」


 ヤユタは唐突に空へ昇っていく物を見るが、何なのか直ぐには思い浮かばなかった。見ればそれは黒く、人の頭の倍程の大きさの――――、



(――鉄球だと!?)



 間違いなかった。

 それは少女が今の今まで振り回していた棍棒の打撃部分の鉄球。それが突然使い手の元から飛び立ち、下方に繋がる仕込み鎖を引き連れたまま周囲の屋根程の高さにまで達していた。

 だが、それだけだ。

 仕込みぼ鉄球根とは思わなかったが、あんなとこに発射して何の意味が―――


「あぁ~~あ、見ちゃったわね」

「ッ!」


 ウラグナの一言で、ヤユタが我に返る。そしてすぐに理解した。


 唐突に発射された鉄球を見た事の意味を。

 意味のない空間を見た事実を。

 敵のいない場所へと目を向けさせられてしまった。取り返しようのない失敗を。


 一秒とも言えない一瞬の隙を生み出されたヤユタ。


 それと全く同時に、菊千代はヤユタへと突撃していた。長剣を抱え込み、一気に間合いまで駆け込んでいく。


(ブラフッ!)


 瞬時にヤユタは菊千代へ視線を戻すが互いの距離はもう十メートルもない。後ほんの数歩で大威力の長剣の間合いが自身へ届く。


「――――フッ」


 そう――あと数歩もかかってしまう。

 それだけで十分、ヤユタは迎撃の姿勢は整えられる。


「囮とは、性悪共が!」


 時間差のある『爆奴』の迎撃は間に合わない。だが、この呪術師の力は一つではない。

 ヤユタは左手に力を込める。

 即座に左手は応じる。血管という血管が浮き出し、そこに緑色の奇怪な紋様が駆け巡った。

 『葦折りの腕』

 ウラグナの超重量の鉄球の一撃さえ受け止めてみせたその腕。

 その効力は、力を司る剣神の腕が如き剛力を呪術者に与える呪術。発動するたび腕の奥から細胞が腐ってゆくおぞましい代償と引き換えに、たとえ相手が何者だとしてもその手を脆い葦の草のようにへし折る膂力を生み出すと身体呪術。

 それを発動させ、ヤユタは真っ向から迫る菊千代を迎え撃つ。

 ヤユタは『葦折りの腕』たる左手を前方に構えた半身の体勢へ。菊千代は長剣を両手で握り、左肩に担いだ構え。


(あの体制から奴が繰り出せる斬撃の種類は横から薙ぐか、袈裟懸けに振り抜くかのみ。どちらにしろ初動作はこちらから見て右側から! ならば長剣を掴み取り、『爆奴』を奴の顔面で爆発させる!)


 ヤユタは菊千代の動きを読みきり、マントの下の右手に爆弾人形『爆奴』を構えようとするが、そこで違和感がよぎる。

 前方の男、自分へ一直線で迫ったと思えた菊千代だが――――その軌道が微かに、何故だか左側にずれてきていた。

 正面切っての強襲。最短距離によって詰め寄るべき状況で何故最短を駆けこまない。一体なぜ?

 そう。まるで何かから避けるよう―――



 ヤユタが視界の外からの気配を察知する。

 再び、頭上。

 

 そう感じた呪術師の頭上に、菊千代よりも先に、ヤユタ目がけて鉄球が撃ち落ちてきた。



「ッ!!」


 息を呑むヤユタ。無理も無かった。ウラグナの奥の手ともいえる鉄球の発射。それは確かに菊千代から視線を離させる為の一発限りの囮でもあった。だが、それだけではなかったのだ。上空へ昇った鉄球はただの囮ではなく、あれも必殺の一撃への準備。人の鉄球。二重の強襲による正面突破。

 

 菊千代の後方で、ウラグナ・ミドルススは鉄棒を大きく振り下ろし先端から伸びる鎖を、そしてその先に繋がれた鉄球を操り、呪術師へと振るっていた。一撃で、脳天から呪術師を粉砕する為に。


「くっだけろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「舐めるな小娘ええええええええええええええええええ!!」


 ウラグナとヤユタの声が交差する。

 ヤユタは『葦折りの腕』を頭上に突きだす。隕石のような鉄球は既に目前。ナイフの刺さって痛めた足では避けれない。

 ならば受け止るだけだ。ヤユタは即断し、そして実行した。

 直後に鉄と鉄がぶつかるような轟音。ウラグナの鉄球と『葦折りの腕』が真っ向からぶつかり合う。


「ぐッッッッギィイイイイ!!!!」


 歯を噛み締めヤユタが呻く。予測以上の威力に腕ごと体を押し潰されそうになる。それでも、決して倒れない。すぐそこに倒れている魔女を罰し滅するまでは、潰される訳にはいかない。


「ぐ、があああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 左腕の骨ばかりか体中の内側からギチギチと虫の関節のような音が鳴る。奇怪な音を体で感じながらも、ヤユタは鉄球を押し返そうと力を込めるが、



 そこで容赦なく、菊千代は悠々と刃の届く間合いへと達する。



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