極東堕ち・12
「ごっ……!?」
衝撃とともにヤユタの体がよろける。同時にヤユタの手から力が抜け、アーナは人形のように地面へと倒れ落ちた。
アーナは砕けた石畳に倒れ伏す。そのまま血だらけの顔で僅かに開けた視線を、包丁を投げたであろう男の方へ向ける。
土煙の中からは、隠す気もない殺気を垂れ流しながら、一人の男の姿が見える。
「クソ鳥、てめぇなに一切合切アーナが悪ぃみたいに言ってんだ? あ?」
「ッ!」
ヤユタは中腰で何とか態勢を崩れるのを防ぐ。自身に食い込んだ刃物が急所には当たっていないという最低限の損傷状態を確認し、すぐさま声の主へ向き直る。
「国が滅びたのも何もかもがソイツのせいだ? 甘えんな呪術大国様が。散々アーナを道具として使っておいたくせに下手を打ったら最後は女一人のせいですだと? 呆れるくらい調子の良い恨み方してんじゃねぇぞ」
ゆっくりと、風に流される粉塵から、右手に長剣を携え男は怒声を放つ。
菊千代は、一歩踏み出し、再度ヤユタと対峙する。
至近距離での爆発により、その顔は血だらけ。服は至る所が裂け、赤いしみが出来ている。
体中に裂傷を伴いながら、それでもその眼光は一切曇りなく、ひたすらに強く、ヤユタを真っ直ぐ見据えていた。
ヤユタはそれを見返しつつ、脇と腹に刺さったナイフをゆっくり引き抜く。
「貴、様ッ。一体どうやってあの爆発から? 二体分の爆発を至近で喰らって」
その問いに菊千代が答える前に、
「別に簡単な事よ」
菊千代の数歩後ろ。晴れる粉塵から同じように姿を現したのは少女。
菊千代に負けず体に傷を作ったウラグナ・ミドルススが口を開いた。
「最初の奇襲の一撃、あれで情報は手に入っていた。一体分の爆発なら人を抱えた状態であっても回避も防御もなんとかなるって。なら邪魔なもう一体を―――」
ウラグナはその手に持った鉄球棍棒、その鉄球の方で地面をトントン叩きながら、
「―――私のこのヴリトラハン、って言っても分かんないわよね。私の鉄球で地面に押し潰してしまえば爆発は最小限に抑えられる。後は菊千代が長剣でもう一体を少しでも私から遠ざけながら私の盾になる。そうしたらこの通り。私も菊千代も何とか四肢の一つも千切れずに済んだわ」
血の流れる顔にニヤリと笑みを作り、そう言ってのけた。
その事に、ヤユタ・タケミカズチは鴉の面で隠した目を大きくし、驚きを抱いた。
(あの小娘、我が爆撃呪術を、『爆奴』を憶すこともなく押し潰した、だと!? いやそれよりもあの二人、あの刹那の攻防からそこまで読めたというのかっ。見世物小屋の似非武士ごときが!?)
当たり前だが爆弾という物はその性質上、爆発を拡散させなければ威力は出せない。ウラグナは、ヤユタが投げ打った爆弾人形の威力を的確に計った上で、女性らしからぬその怪力を用い鉄球と地面で爆発を抑え込んだのだった。ただ力があるだけでは、そして知識があるだけでも到底出来ない芸当の筈。
「それをこんな、小娘が」
「まぁ小娘だけど、今の問題はそこじゃないんじゃない?」
ウラグナはそう零しながら鉄球根をクルクルと弄ぶ。鉄球の端っこを左手一本で、そして手首の返しだけを使って体の横で回してみせる。遠くから見れば異様に巨大なマラカスで遊んででもいるような仕草だった。
「というか呪術師さん。やっぱりまだ気づいてないのかしら? アレを」
「なに」
くるくると鉄球を回したまま、意味ありげに言うウラグナ。言葉の裏を読めないヤユタに対し、今度は菊千代が息を吐きつつ、告げる
「上だよ」
何気なく人指し指で空を指す。と、それに反応するように。
菊千代の後方で空に目がけてなにか黒い物体が発射された。




