極東堕ち・6
石畳の小さな通りにも市民に商人に兵士を始めとして様々な人々が右に左にと雑多に歩を進めている。特にこの都市は大陸南西地域の都市連合地帯の一つでもあり、通りには西洋様々な人種、文化の身なりをした人々が往来している。
が、その中でも異様に目立つ一人の男がいた。
「やぁやぁ成程、つまり東方地帯からこの都市連合までこられたのですか!」
赤を基調としたド派手な柄スーツに意匠の色眼鏡。ブロンドのオールバックには虹のように鮮やかな髪も混じらした正真正銘の道化者。
『がらくたの・曲芸団』の団長エリス・アーガイルその人だ。
ただでさえ目立つその装いに周囲は奇異の目を向けながら道を譲り、彼の周りは面白がって近づく都市の子供たちばかり。
いや彼に近づく子供たちの目的は他にもある。エリスはその道化のような見た目宜しく左手に多数の風船を持っており、それを近づく子供たちに配っていた。
それぞれの子供たちが自分の目当ての色の風船を指さし、そしてエリスはその風船を笑顔で子供たちに渡していく。
「ありがとうピエロさん!」
「はあいこちらこそありがとうですよぉ! 皆さんサーカス団をよろしくねえ!」
「うん、ピエロさん! あとピエロさんは歩き方変だけど疲れないの?」
「はっはははは! やぁまぁ何の問題もないですよぉ!」
エリスはそう笑顔で返す。
そう、エリスは長身だ。身長は190近くあり子供にすれば近くに来れば思い切り見上げるほかない。
しかし子供は僅かに見上げるのみ。
エリスは子供たちと目線を近づけるために先ほどからひたすら中腰の姿勢のまま風船を配り続けていた。通りを歩きながら、だ。
まるで空気椅子でもしながら歩いているかのような奇妙な歩行だが、上半身にぶらさずエリスは笑顔のまま風船を手渡す。苦も見せずやってのけるその奇行自体がまるでひとつの芸のように子供たちには写ったのか面白がって更に近寄り、風船を超著なく受け取っていく。
道行く子供たちと戯れながら、エリスはその隣を歩く男に改めて話を戻す。
「大陸東方から中央地帯を避けてこの大陸南西地帯に。僕自身も東には行ったことないですがかなり危険が有ったのでは?」
「……そうですね。団長の仰る通り、大陸の南方では中央地帯とのやり合いも収まっていませんでしたから」
男は言葉少なくそう返した。
長年使い込んだのだろう、ボロ布になりかけたマントを頭から羽織ったその男は道化丸出しのエリスと並ぶ歩くと一層その旅装の痛みが際立つかのようだった。
くたびれたマントから踏み出されるブーツもズボンも今までの苦労が見て取れる。
目深にかぶったマントからは顔も見えず、くぐもった声だけが奥から漏れる
ド派手なピエロと怪しげな放浪人。特異さばかり周囲からは膨れ上がるが、本人たちは特に気にしていないようでもあった。
「いやぁ東から南方の紛争地帯まで抜けてこの南西の都市連合地帯まで来られたんですか、それはまた想像を絶しますね」
「ありふれた話ですよ。争いから逃れながら、それでも少しでも良い噂のあるところへ移ろい続けているだけの事です」
「このサーカス団についても旅の途中で聞かれたからと本社へ仰っていましたね」
「ええ、最初は都市連合の評判につられて西へ来ました。そこから都市連合の内で貴方方の話を聞いたのですよ……怪しげな人材でも受け入れて収集しているという曲芸団とその団長の話を」
「ははは! それは光栄ですね! 遂に都市連合の間にも少しは噂になってきたという事ですか!」
中腰から飛び上がるように姿勢を戻しエリスは顔を綻ばせる。明らかに良い噂ではないだろうに、この団長にはそんな事はお構いなしという事だろうか。
そんな団長に対し、新入団員は平坦な声で言う。
「団長は変わった方だ。明らかにリスクばかりあるだろう組織なのに、貴方はそれを意にも介していないようですね」
「あはは、やぁまぁそうですね。何と言おうと、これはあくまで僕の我欲のもとのものですから。逆にそれでもここに居てくれる方々がいる事が、僕には喜びですよ」
「それによって、貴方に要らぬ火の粉がふりかかるのではないですか?」
「それこそ自業自得としか言えないですかね。もちろんそこに集まる人たちにとっても、ですね」
「自己責任だと?」
「呪われた世界では個人の手に負えない人生もある。ならば互いに手を貸しあおうという事です」
「…………なるほど」
「やぁまぁ体よく言いましたが大元はやっぱり僕の欲ですよ。僕のサーカス団を作りたいという欲です」
どこか照れるようにそうエリスは笑った。
「全ては団長の夢からということですか、ええ、期待以上の答えでした」
「夢なんて大したものではないですよ」
「いえ良い願いだと思います。呪界であろうと、いえだからこそ。人は自身の想いに殉じるべきだと思います」
「……やぁそうですね、そうなりたいと、私も思います――――――っと、そろそろ着きましたね」




