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呪いの世・8


 廃れたビルが立ち並ぶ町、その一角。

 町の西部に位置したこの地帯は町では危険区域に指定され人の出入りを禁じられていた。

 町の中心地から離れたそこにも、やはり手入れもされていない前時代の象徴達が乱雑に立ち並んでいる。

 町の中心地とこの危険区域とで差をつけるとすれば、この一帯の建物は中心地帯のビル群とは違い風化や荒廃の具合が激しく、今にでも崩れそうな物ばかり。どころか轟音を立てて今まさに崩れているのもさえあった。

 危険極まるビル群の足元には旧時代の戦いの主役たる戦車や装甲車が。小石と同じように道端に落ちているのは小銃や電子銃といった科学の象徴たる手持ち武器。

 どれもが小石以下の役立たずとして放置され、赤サビの餌食になりながらもなお、その姿をとどめていた。

 こうした旧時代の道具や建造物には『持ち(・・)』が良い物と悪い物が明確に存在している。

 例えば部屋の中に保管していた車が錆の塊になっても外に放置されていた車はほとんど変化していないなど。どこでも、どの地域でも、どんな物にでも見られる光景だ。

 同じ何十年と手入れをしていないビル等でも何故こうまで物持ちが違うのかははっきりとは解明されていない。

 主流の考えは『昔あった科学の面影を、人々に世代を跨いでも見せつけてやろうする』という神様の呪いの一つというものだが、おそらく当たらずも遠からずだと、人々は無理やり納得していた。

 いや、解明されないというよりも大多数が解明する気もないというのが正しいかも知れない。

 神様がしっちゃかめっちゃかにした世界で(そうさせたのは人間なのだが)今更何で? どうして? どういう理由で? など研究者でもない大半の人々には意味がない。

 重要なのは使えるのか、そして自分たちに害はないのか。そこさえが分かれば物事の本質などどうでも良い。それで事足りるというわけだった。


「……さってと。どうしたもんかな」


 そんな崩壊寸前、人が使う気もないビル群の中で比較的まだ大丈夫そうな五階建てビルの三階に、菊千代達は潜んでいた。


「町長のじいさんの言うとおり、あのでけぇ教会が別荘ってわけだ。外には手下っぽいのが十人ちょいか。軍服に、洋服に、あれはなんだ、着流しか? どいつもこいつも顔に白い布巻いてて分かりやすいな。中にもまだまだいるだろうなぁ…………うん、多すぎだろ」


 ビルが立ち並ぶ中で場違いな程に堂々と立っている一つの廃教会。

 ここに依頼目標のウプアアウトという呪術師がいるらしい。

 教会は塗装が剥げ落ちて組まれたレンガが丸見えだった。全体的にかなり細長く、大きさは目算で二百メートルといったところ。

 今は廃墟だが、元々はかなり立派な教会だっただろう事がその大きさで分かる。それだけに何故こんなビルだらけの町の中に建てたのか分からない。探す側からすれば目立つ為見つけやすかったのだが。

 菊千代はそんな事を考えながら望遠鏡を覗き込み、気もない様子で状況を洗っていく。

 教会からこのビルまでの距離は約八百メートル。既に敵陣といえる範囲内だが、敵の警戒意識が甘い事も有り、ギリギリ気づかれはしないだろう。


「しっかし、まさか町の兵士は一切手伝いもしないとはな。もう少し協力があるかと思ってたんだが」

「私たちが駄目だった時に火の粉を被らない為でしょうね。失敗しても一切町は関わっていなかったと強引にでも言い張るためでしょう。正しい判断ね」

「それ、団長の野郎も分かってるんだよな?」

「これも含めての殺人依頼なんだろう」

「成程。たいした団長のご配慮だこったな」

「帰ったらボーナスだったか。ふふ、それぐらい先に言っとかないと後が怖いと思ったのかしらね」

「俺たちに後がないからそう言ったんじゃねえとは、思いたくねえな」

「ああ、死地とも言えるところに投げ込まれる。良い上司に恵まれたものだ」

「…………」


 答えたアーナは菊千代の隣に座り、再びの酒瓶を傾ける。


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