呪いの世・7
「まぁ今回のご依頼は、戦闘に区分されますから傭兵団と言っても変わりませんが」
戦闘。
その言葉に町長と町兵の眉根にほんの少し皺が寄るのを、二人は見逃さない。
町長は先程よりも僅かに声を落として言う。
「そう、依頼したのは戦闘です。この町の存亡に関わると言っても良い。正直言って、我々だけでは現状の打破が難しいのが現状です。ただ隣の方は分かりますが……貴方のような女性が来られるとは正直思いませんでした」
「人数も、ですかね?」
「…………そうですね」
町長は素直に頷いた。
先程から変わらない渋めた表情。
そこには不安。そして不満が見え隠れしていた。
「団長の方には依頼内容はある男の撃退とお伝えしました。その相手と言うのも、」
「標的は『呪術師』、名はウプアアウト。 当代兵器である呪術を用いると聞いていますが。間違いでも?」
アーナの言葉に町長だけでなく部屋の隅に立つ町兵達にも緊張が滲んだ。
そんな中でアーナは悠々と、出されていた紅茶に手をかけつつ更に続ける。
「一年前、唐突にこの町に密かに襲来。自警の町兵らを大量に殺害する事でその力を見せつけた。以来民衆には内密の上で、町とウプアアウトはとある協定を結ぶ事になった。」
「……」
「町へのこれ以上の攻撃をしない代わりに、病人でも何でもよい、人間を差しだすようにと」
「…………はい、月に十人。男女は問わず……」
「ふむ、間違いなく生贄ですね。何かしらの呪術儀式の為の……同時にこの町自身の生贄ですね」
「貴様ッ!」
アーナの一言に町兵の一人が声を荒げる。が、アーナは特に気にした風もない。
「何か間違いがありますか?」
町兵が歯を剥き出しにし更に言おうとするが、それに町長は手を上げ兵の発言を止めた。
「いえ、アーナ・イザナミさんのおっしゃる通りです。ウプアアウトは近隣の町々も含めて定期的に移動しながら方々で生贄を要求しています。この事実は住人には話していません。不安を煽るだけですから。そして再び、ここの番というわけです」
「なるほど」
「しかし町を維持するためといってももうこれ以上は従う訳にはいきません。そのためにあなた方に依頼したのです…………ですが、それがたったお二人とは思いませんでした」
「何だよ町長さん、そんなに不満ですか?」
言いつつ菊千代は鳩尾をさすりながら体を起こした。
「俺たちだって呪術師なんて意味分からん奴とやるのは初めてじゃない。うちの団長の判断を信用して下さいよ」
「菊千代の言うとおりです。どちらにしろ前金は頂きましたし、ご期待には答えますよ。とりあえず、あなた方の知っている事を改めて教えて頂きたい。呪術の力、風貌、または居場所など。情報なら何でも結構です」
「……その前に、こちらからも一つお聞きしてもよろしいですか?」
「んあ?」
町長は菊千代に向けていた視線をアーナに戻して、訊く。
「あなたも呪術師。なんですよね?」
町長のそれは質問というよりも、確信を持った確認のようなものに近かった。
呪術士の撃破という依頼に対し二人という少人数。
そして眼の前の女性の身なりからはとても肉弾戦を行えるとは思えない。
ただ、それでも戦闘依頼の適任者として向けられた、異常な道化集団の曲者だというなら―――おそらく彼女もそうなのだろう。
神の呪いという把握不能な感情に世界は呑みこまれた事で生まれる事になった、呪術師という名の呪界の『技術者達』
奇跡のような現象を起こす為に神様も用いた呪いという忌避すべき方法を、己が力として利用してみせる、業を負った存在。
様々な奇怪な術や儀式を扱う彼の者達は強力な者なら大国の盛衰をも左右するとも聞いた事があった。
そして彼女も、その一人なのだろうと町長の老人は思った。
目には目を。
呪術師を殺してほしいなら、呪術師を。
黒衣のこの女性は、呪術師という今の世界を体現するような人間に違いないと。
が、
「ふふ、なるほど。私が呪術師、ですか」
問われたアーナは少し俯いて、小さく笑った。なにか滑稽なことでも言われたように。
「半分正解、といったところですかね」