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092話 お似合いに見える・・!?

 服屋では店員が店の中を駆けずり回っていた。


 「これと、それと・・・・ああ、アレも・・・」


 店の中の物だけで無く、倉庫からも引っ張り出して来る勢いでフィッティングが進んでいた。


 「あの・・・程々で良いので・・・」

 ネメラが退屈そうに店員に声をかけると、店員は「任せて下さい。今お似合いの服を用意しますので!」と息巻くだけであった。


 『こんなことしてる場合では無いのだが・・・』

 イプシロン達の巡回が通り過ぎたことは、経過時間から予測できており、無事にやり過ごせたと認識していた。


 「本当に・・・何をしているのだろう?」

 風太郎に何をしに来ているのかと問い詰めておきながら、今の自分を思い浮かべたネメラがボソリと呟くと店員が「ハイっ!すぐ済みます!」と、自分達が早く服を選ばない事への問いかけと勘違いしたのだろう。


 その動きが加速した・・・


 「ふう~~~・・・。戻ったで~。服決まった~?」

 少しして風太郎が戻ってきた頃には、都合六セットの見繕いが出来ていた。


 「こちらに用意致しました。候補をご覧頂き選んで頂ければ幸いです。」

 汗だくになりながら店員が用意したセットを眺める。


 「ミラ・・・服の横に立ってくれないか?」

 風太郎の指示にネメラが従うと、店員が気を利かせて服を身体の前にかざして見せた。


 「次、・・・次・・・次・・・」

 風太郎の声で次々とネメラの身体の前の衣装が替わっていく・・・


 「ふむ・・・流石本職やな。どれも似合ってる。」

 風太郎が店員のコーディネートを褒めると、店員は「いえいえモデルが良いから何でもお似合いなんですよ。」と当然の社交辞令を飛ばしてくる。


 「そやな・・・。基がエエから何着ても似合うよな。」

 さらりと褒めたところでネメラが硬直したように見えた。


 「な!?」


 「お熱いですね・・・。それで、如何ですか?」

 店員が風太郎に捻り寄って行くと、「そやな。全部貰うわ・・・幾ら?」と、躊躇無く返ってきた答えに店員は飛び上がって喜んだ。


 「ぁヒッ!?有り難う御座います。え~~~~っと、そうしましたら、アレとコレとソレのドレで・・・」

 店員が提示した金額を払うと、両手一杯の袋を持って風太郎とネメラは店を後にした。

 

 「ちょっと、そんなに服を買ってどうするのよ。」

 意味が解らないと言わんばかりに風太郎を問い詰めるネメラは、今買って貰った服を着用していた。


 「経済活動・・・。」

 「ふざけないで・・・」

 

 「只のプレゼント・・・のつもり。」

 「それにしたって、こんなに沢山・・・」

 「これまで約一万五千年分の人生で考えたら少ない方やろ?俺からのチョットした気持ちやから気にせんと貰ってくれ。ずっと渡せるとも限らんからな」


 風太郎はネメラの顔を見ていなかった・・・

 どこか遠くを見るように人口の空を眺めながらそう答えたのだった。


 「風太郎!?」

 「アウトッ!お仕置き一つ決定~~~~!」

 「何?何だ?」

 「今、禁止ワードが出ました~。ペナルティーが付き宿屋に帰ってからお仕置きとなりま~す。」


 瞬間的に普段の風太郎に戻った事に、ネメラは何故か落ち着きを感じたのであった。

 「いや、今のは無しだ。そんな約束をした覚えは無い。」

 「そうやっけ?」

 「そうだ!但し、今からでも良いというならその遊びに付き合ってやろう!勿論只の人族ごときに負ける理由が無いがな。」

 「よし!その喧嘩買った!今から晩飯食い終わるまでの間で勝負やっ!禁止ワード一つに付き一ペナで、ペナ数の多い方が負け。」

 お互いの本名を言うと負けゲームが和やかに?開始された・・・


 「さて、今日の目標は上の階層を全てチェックすること・・・歩きで上がっていくつもりやけどナビ頼めるか?ミラ」

 「寄り道をしなければ夜までに十分チェック出来ると思うけど、随分大胆ね・・・フータ?」

 お互いの名前の所だけ妙に語尾が強くなる二人であったが、先ずは昨夜チャックした林へ転移した。


 シュン・・・


 風太郎は辺りの気配に気を配り、人気が無いことを確認してから道の方へと移動した。

 「さっきのイプシロンの巡回時に思ったんやけど、感知されへんかったよな?」

 「そうね・・・。元々私が巡回する時は付き人のような役割だったし、イプシロン達だけの場合でも、特別に警戒する必要が無ければ、只歩いているだけかしらね。」

 ネメラは風太郎の問いに答えた。

 「何で?」

 「貴男、自分の胸に聞いてみたら?」


 風太郎は呆けたように自分の記憶を辿ってみると

 「ああ・・・存在自体が脅威か」

 「戦闘力としては人族より遙かに高い能力を有するイプシロンですからね・・・そう言うことです。」

 『であれば、一般的な居住エリアに居る間はそれほどネメラの存在をかぎつけられる心配は無いかも?』


 「なら、このまま上の機人族の居住エリアに移動しても見つかる確率は低いのでは?」

 風太郎はダイレクトに思ったことを問いかけた。


 「その問いに答えることは出来ないわ、風太郎の思うようにやってみなさい・・・」

 アウトランティスの機密に触れると判断したネメラは風太郎の問いに直接答えることはしなかったのだが、思考がそちらに傾いたことで、風太郎に攻撃の機会を与えてしまったことに気がついていなかった。


 「アウト~!ペナ一~!」

 「何?あ・・・・」

 「頂きました。ほ~・・・只の人族ごときに後れを取るとはね~」

 勝ち誇るように顔をニヤつかせる風太郎に、ネメラの目尻がつり上がった。


 「き、貴様・・・狙ったのか!?」

 「そんな訳無いやろう?単にネメラが墓穴掘っただけやん・・・。しまっ!」

 「ア~ウ~ト~・・・。これで帳消しになったな~」


 「ウフフフ・・・・」

 「ハハハハ・・・・」

 風太郎とネメラは見つめ合いながら楽しそうに笑うと、話を元に戻した。


 「まあ、アカンって言われへんかったから俺の思うようにやってみるわ。但し、何時検索されるか判らんから機人層は素早く抜けよう。」

 「基本的に勝手に人の情報を読み込むことは禁止事項になっているから、その可能性は低いとは言え、各施設では防犯の観点からチェックされるかもしれないわね。」

 ネメラが町の基本情報の一部を話すと風太郎は腕を組んで思案した。


 「となると、機人層への転移陣設置は諦めるか、他の階層もその前後にある自然階層に置く方が無難やな・・・。その方針で行く。」

 

 風太郎の方針に沿って機人族の層は、道中、機人達の生活の様子については注意を払いながら早足で歩き抜けた。


 「機人達の様子は地上とそんなに違いが無いように見えたけど、実際どうなんやろうか・・・」

 「機人族の階層にはイプシロンの巡回は無いわ・・・」


 「さいですか・・・ボディーガードに雇いたいくらいやな・・・」


 ネメラの表現から、少なくともイプシロンと同等の能力を有する可能性が有ることを感じるに十分であった。勿論、ネメラやネモアと言った管理者が機人であり、コントロールされていると言うことも理由の一つであるとは思うのだが・・・


 機人階層を抜けた風太郎達は、その上の自然階層の下り口と登り口付近二カ所に転移陣を設置し、更に上へ移動した。

 「この階層は森人の層よ。貴方達で言うエルフね・・・」

 その階層は、先の自然階層と言っても過言では無い程、自然豊かな環境であった。


 「町並みって言うのがよう判らんな・・・スルーしとこう」

 そう言うと此処も足早に先を目指したのであった。

 『何やろう?どこからか視線を感じるけど・・・しかも複数・・・』

 上の自然階層へ登り切るまでその感覚が抜けることは無かったが、階層を変えた辺りでその感覚から解放されたのであった。


 「監視されてた?」

 思わずネメラに問いかけると、軽く頷き実態を説明してくれた。

 「複数の森人に行動を監視されていたわね・・・。警戒対象にはならなかった様だけれど。」


 「何処でその対象が別れるんかね~・・・」

 「森人は自然を愛する・・・その辺じゃ無いかしら?」

 「よう判らん・・・。取り敢えず先へ進む・・・」

 此処でも降り口と登り口付近に転移陣を設置し他風太郎は、少し休息を取ることにした。


 「それなりに移動したしな。ちょっと休憩・・・。」

 風太郎は道ばたから少し入ったところの草の上に寝転んだ。


 ゴツッ・・・

 「痛てっ・・・」


 勢いよく転がったせいで頭を地面に打ち付けた様子を見て、ネメラは風太郎の側に座り、そっと太ももの上に風太郎の頭を載せた。


 「え?凄いサービスやな・・・」

 「特別サービスだ・・・服代位にはなるか。」

 「なかなかエエ値段の膝枕やな・・・しっかり堪能させて貰うわ。」

 風太郎はそう言って目を閉じた。


 『かなりハイペースで飛ばしてきた気がするけど、もう少し各種族階層を調べた方がエエかな・・・。いや、単に足がかりとしての探索やから人気を避ける方が吉やろうな・・・。最終的な目標はティアとイシュテルの奪還とエイトランティスの敵対解消?って事はどないすればええんや?てっきり戦争みたいな事を予想してたけど、普通に住んでるやん!?』

 風太郎は自分の頭の中で自問自答を始めた。

 

 『こっち側・・・居住区の住人には何も責任は無い。責任はネモアと呼ばれる機人と元ヘヴンズアークのサブフレーム、ベーダのみ?仮にそれを排除した場合、エイトランティスはどうなる?制御を失うのか?ネモアだけなら?ベーダだけなら?・・・情報がなさ過ぎる。』


 「浮かれてる場合と違うな・・・」

 風太郎はボソリと呟いた一言を、ネメラは聞き流す様に目を瞑った。


 「「・・・っ!!」」

 風太郎とネメラは、ほぼ同時に異変を感知した。

 

 いつの間にか囲まれているようであった。

 まだ距離はあったが、確実に此方を認識して複数で囲んでいる様子が窺えた。


 「俺らなんか悪いことしたかな?」

 上体を起こしながら風太郎はネメラに問いかけた。

 「少なくとも私には身に覚えが無いけれどね?」

 

 囲んでいる相手の正体が判明した・・・


 「イプシロンやと?此処もルートやったんか?」

 「いや、通常ルートでは無い。何かイレギュラーがあったとしか・・・まさか私達のことが?」


 風太郎とネメラは互いに立ち上がると、お互いを庇い合うように寄り添ってイプシロン達の様子を伺った。


 イプシロン達は三体で三方から囲むように近付いて来た。

 距離にして二メートル程まで近付いた時、正面に位置する一体が声をかけてきた。


 「突然失礼する。此処へはどんなご用で?」

 硬い音声で感情は全く感じられない。

 

 「ああ、彼女とデートですよ。あまりに心地よかったので転た寝してました。」

 風太郎はネメラの腰に手を回し引き寄せるとネメラは恥ずかしそうに風太郎の胸に顔を埋めた。


 「それはお邪魔した。これからこの辺りは季候が悪くなる気をつけて帰ると良い。なかなかお似合いのようだお互い大切にな。」

 イプシロンはそう告げると三体集結して下り方面に歩いて行った。


 「イプシロンて社交辞令言えるんや・・・凄いな。」

 「何変なところで感心しているのよ。今、二人ともスキャンされたわよっ!」

 ネメラは真面目な顔で状況を伝えた。

 

 「え?と言うことはバレたのか?そんな風に見えんかったけど?」

 「バレたと言うには語弊があるかしら。スキャンを受けた事で少なくとも私達二人の存在が認知されてしまったと言うことかしら・・・」

 ネメラの言うことは理解出来たのだが、一つ納得出来ないことがあった。


 「認知されたって言うことはネメラの存在がバレたって事と違うんか?」

 「アウト~・・・。ワンペナルティーね。それは大丈夫だったみたいね。今の私という存在が認知されただけみたい。」

 

 「つまり?」

 風太郎は幾つかの可能性を頭の中で巡らせながらネメラの答えを待った。


 「つまり、管理者としての私という存在がイプシロン達には無かったという事ね。単に機人と人族の二人組として記録されたのだと思う。だから風太郎という名前も知られていないはずよ。」


 「はいアウト~これでチャラ~」

 風太郎は仕返した嬉しさで笑みがこぼれた。


 「人が真面目に答えてあげたのにそれは無いでしょう?もうっ!!」

 ネメラは少し拗ねて見せながらも一つ忠告を入れた。

 「けれど、さっきのスキャンで少なくとも風太郎の顔が記録されてしまったわね。」

 そこまで言って風太郎の顔を見ると、今にも吹き出しそうになって堪えていた。


 「あ・・・」

 「う・・・と~~~~ククク」

 

 「私の負けで良いから、もうこのゲームやめましょう・・・異様に疲れたわ。」

 あまりのくだらない遊びに最高峰の機人が敗北した瞬間であった・・・


 「了解。宿に帰ってたら楽しみにしてけ・・・。まあ、顔を見られたことは悔やんでも始まらん。特に問題を起こさん限り照合される心配は無いやろう。どっちにしてもこの後は少し急ぐことにしよう。」


 一呼吸置いて風太郎はネメラの顔を覗き込んだ。


 「お似合いやってさ・・・。このまま付き合うか?」

 

 ゴスッ・・・


 ネメラの肘鉄が風太郎の脇腹をとらえた音が響いた。

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