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006話 捜索願!?

 (時と場所を少し戻して・・・バ・ヴェールにある風太郎の部屋)

 風太郎が突然、姿を消した部屋では、女性達が大騒ぎ・・・にはならず、沈黙の時間が過ぎていった。

 その場に居る誰もが、ついさっきまで風太郎の身体のあったベッドに目を向けながら、口を開く事が出来なかった。


 「「「「「・・・・・・・。」」」」」


 実際の時間にすると二分程度であろうか・・・

 しかし、女性達の体感としては数時間、時間停止していたかのような錯覚を受けるほど衝撃を受けていたのである。


 ピイ~~~~~ッ!!!

 窓の外で甲高い鳥の鳴き声が聞こえた事で、その場の時間が動き出したように一気に騒がしくなった。


 「ちょっとっ!!!どういうこと???」

 「何がどうなってるの?」

 「風太郎さん、どうなったの?」

 

 ギャー

   ギャー

   ・・・・・・・・・・・・


 パニック状態でそれぞれが慌てふためく中、一人、眉間に人差し指を立て目をつぶりながら思考に耽っていたイヴが声を上げた!


 「皆!落ち着きなさいっ!!!風太郎が泣くわよ?」

 その一言にその場に居た全員が、直立不動でお互いの顔を見合わせ頷いた。


 「そ、そうね。私たちが力を合わせないと・・・」

 ティアが一同の顔を見合わせ頷いた。

 「それは、そうだけど、何が何だか判らないのよ?」

 マーヴェルはそれでも不安そうな表情で訴えた。

 「っ・・・・・!」

 ティアもそれは承知している事であり、頭の整理が追いつかず再び沈黙が訪れそうになった。


 「ふ~~~・・・。ねえ、ここで顔をつきあわせている私達より、一人の風太郎の方が寂しい思いをしているとは考えられないかしら?」

 落ち着いた表情でイヴが言葉をかけると、エヴァが続いた・・・

 「そうね。一人の寂しさは、私達には理解できるわね・・・。こうして賑やかに生活できるようになったのは、風太郎のお陰だもの・・・」

 

 元々、イヴとエヴァは世間から隔離されていた存在であり、約一万年という時間を単一の状態で過ごしていただけに、その言葉の重みは他の誰よりも感じる事が出来た。


 「まずは、状況の整理をしましょう。」

 ティアが一同の顔を見回しながら声をかけた。


 「風太郎が消えた!」

 「ティアが取り乱した!」

 「イヴに叱られた!」

 

 それぞれが声を上げると、ティアはこめかみをピクリとさせながら、

 「いや、私が取り乱したのは事実かも知れないけど、その情報は必要ないでしょう?」

 続いてイヴも、

 「それを言うなら、私が叱ったと言うのも必要ないわよね?」


 イシュテルとマーヴェルは、軽く笑って誤魔化した。


 「風太郎さんが消えた以外に変わった事は無いかしら・・・。手帳とペンダントは?」

 ティアが、風太郎の所有物である手帳と、ペンダントの所在を確認するために、風太郎の部屋にある机の引き出しを開けた。

 

 ガサッ!


 引き出しの中には、手帳と薄緑の石がはめ込まれたペンダントが、確かに入っていた。

 

 「手帳と、ペンダントは・・・。有るわね。」

 そう言いながらティアは手帳とペンダントを持ってダイニングルームへと戻ってきた。

 その間に他の者達も、変化を探りながら、お互い情報収集に努めていた。

 

 「こっちは特に収穫なしだな・・・」

 マーヴェルが腕を組みながら難しい顔で戻ってきた。

 後に続くようにイシュテルも椅子に腰をかけた。


 「施設の中に風太郎の反応は無いわね・・・」

 「ゲートの周辺にも反応なしね・・・」

 エヴァとイヴが意識の集中を解いて答えた。


 テーブルを囲んで着席した一同の目の前に、ティアが手帳とペンダントを置いた。

 「この通り、手帳とペンダントは有るのよ。フレアが元の世界に戻ったときにはペンダントも一緒だった事を考えると・・・風太郎さんは、まだこの世界に居ると考えて良いわね。」

 「もちろん、確証が有るわけでは無いけれど・・・」

 ティアは、天井を眺めながら自分の仮定を述べた。


 「中は確認したの?」

 イシュテルが手帳を手に取りページを捲っていった。

 「いえ、まだよ?何か変化有る?」

 ティアが答える間にイシュテルはパラパラと中を確認した。


 パタン・・・

 「私の目には変化が見られないわね・・・順番に確認してみて?」

 イシュテルは、首を横に首を振りながら閉じた手帳をティアに渡した。

 手帳を渡されたティアを始め、他の女性達もページを捲ってみたものの特に気になることは内容であった。


 「手帳の方は手がかり無しね・・・、困ったわね・・・」

 ティアが溜息をついた時、イシュテルが何かに気がついたようであった。


 「ちょっと!それ何か変じゃない?」

 イシュテルが指差した物は風太郎のペンダントであった。


 「何処が?」

 イヴが不思議そうにイシュテルに尋ねると、他の女性達はペンダントに視線を送ると驚きを表した。


 「あ!・・・確かに!」

 「色が変?」

 「何これ?白と緑の斑模様?動いてる?」


 テーブルの上に置いてあったペンダントのクリスタルが、ジワリジワリと変化して行く様子が確認されたのであった。


 「どう言う事?」

 イヴは首を傾げながらティアに目を向けた。


 「解らない・・・。けれど、今までの経験から考えるとクリスタルの色と、風太郎さんの状態とは密接に関連していると思うの。」

 「つまり?」

 「焦らさないで・・・・。つまり、生きている。この世界にいるけど、容姿が変化していることが予想される。と言う事ね」

 

 「風太郎であって、風太郎では無い。と、言うこと?」

 「その可能性が高いと言うだけね・・・。まして、今回のように透明度まで失って濁っていく事例を私達は知らないから・・・」


 お互いに知り得る情報を出し合ってはみたものの、結論として・・・

 「皆、風太郎さんの事、手帳、ペンダントについて知らなかったのね・・・」

 「ホントね・・・。これで婚約者だなんて恥ずかしいわね。」

 「おまえ達二人がそんな事でどうする・・・私なんて知り合ってからほとんど期間が無いんだぞ?婚約者として一番恥ずかしいのは私じゃないか・・・」


 話が違う方向へと向かい、ティア、イシュテル、マーヴェルが涙を流し顔をうなだれていると、エヴァが横から声をかけてきた。


 「あのさ・・・、場違いな感傷に浸るのは止めて建設的に話をしましょう?じゃないと、私とイヴの立場が無いしね。」

 イヴの顔を見ながら頷くと、ティア達に質問を投げかけた。


 「何か他に状況を知り得る手立ては無いのかしら?他に知っていそうな人は居ないの?」

 

 エヴァの質問に、ティア達は暫く顔を見合わせた後、思い出したかのように手を叩いた。

 「「あっ!?・・・人じゃ無いけど!?」」

 ティアとイシュテルが同時に答えた。

 

 エヴァは、にこやかにティア達に目を向けた。

 「良かった。心当たりが有るのね?」


 「そうね、幻獣に知り合いがいるのを忘れていたわね・・・私とイシュテルでちょっと聞きに行ってみる」

 ティアはイシュテルにアイコンタクトをとると、ゆっくりと立ち上がった。

 「ちょっと!!!!私は?」

 マーヴェルは慌ててティアの腕をつかんだ・・・


 「マーヴェルはここでエヴァ達と日常の運営管理をしてくれる?」

 「な!?・・・」

 「私達3人が不在だと決裁に支障が出る可能性があるから・・・ね?5日程で戻ってくるか、一度連絡を入れるから」

 ティアの腕をつかんだままのマーヴェルは暫く考えると、深く鼻息をはきながらその腕を解放した。

 「確かにその通りだ・・・。風太郎を探したい気持ちはあるが、この環境を守る事も大事だな・・・承知した。」

 表現が、やはり硬くなっていると自分でも苦笑いしながらも、マーヴェルはティアの依頼を快く受け入れ、エヴァ、イヴと共にバ・ヴェールの治政に集中する事にしたのであった。


 「それじゃあ、オネアルト経由で聖地のニーア達に会いに行きましょう。」

 程なくティアとイシュテルの二人は、バ・ヴェールゲートからシュクチでマイナダビゥと跳び、街の転送装置を使いオネアルトへと向かった。


***

 (ようこそオネアルトへ)

 歓迎の横断幕がかかっている到着ゲートから町に出た二人は、早速それぞれのフレンドシップパートナーである幻獣に呼びかけた。

 「ニーア聞こえる?」

 「ウルド?聞こえたら返事して?」


 **********

  **********

   ***********


 何度か呼びかけた後、ティアとイシュテルは自分達の元住まいへと急ぎ跳んだ。

 

 元住まいの拠点にある幻獣用の建物には、既に二体の幻獣が待機していた。

 「お久しぶりね・・・ティア」

 ニーアは優しく語りかけるとティアに歩み寄ってきた。

 

 「お久しぶりです。ニーア・・・それで、お願いしていた件は?」

 久しぶりの再会も程々に、本題を切り出したティアに、ニーアは首を振って答えた。


 「貴女達からの情報をファントムとミレニーに伝えたのだけれど、何故か冷たくあしらわれたのよ」

 「「え!?」」

 ティアとイシュテルは信じられない様子でニーアの顔を見つめた。

 「ファントムが言うには、『あれは心配ない・・・いずれ戻る!信じるのだ!』だって・・・」

 「ミレニーなんて『男の子ですものね・・・あの程度の事乗り越えなければ。ホホホホ』・・・でしたしね」

 ニーアとウルドも不思議そうにお互いの情報を付き合わせた。


 「そんな・・・!?じゃあ、ファントムとミレニーは何か知っているんですね?その上で情報を渡して下さらないと?」

 食い下がるように質問をするティアに、ニーアは少し申し訳なさそうに答えた。


 「ご免なさいティア・・・私達もパートナーシップを結んでいる以上、協力してあげたいのだけれど・・・」

 そこまで聞いて、ティアは何かを悟ったようにうなだれた・・・

 「そうですわね・・・。そもそも、幻獣様が私達とこうして話をするだけでも、あり得ない事でしたのに・・・」

 自分の考えが甘かった。と、目の前が真っ黒になりそうな表情のティアに、ニーアが答えた。

 「それは確かにあるかもしれないのだけれど、私の見立てではファントム自身かなり焦っていた様子だったわよ?」

 「どういうことですか?」

 イシュテルが首をかしげながら質問をした。


 「貴女達はどうやって私達とコンタクトをとったの?」

 「それは此方から頭の中で呼びかけて・・・、ニーアから同じように応えが帰ってきて・・・あ!」

 「そういうことね・・・多分、応答が無いのかもね・・・」

 「応答が無いって・・・!?」

 「存在は確認できている・・・が、【意識が無い】、【接続が確立出来ない】が原因として考えられるかしら?」


 ティア、イシュテル、ニーア、ウルドは続けて議論を交わした。

 「と言う事は、ファントムも現状を全て把握していないと?」

 「その可能性は高いわね、私達が此方に来る前もどこかに行って居なかったようだし・・・」

 「幻獣様でも状況が把握できないなんて・・・」

 ティアの呆けた顔を見ながら

 「私達も万能では無いですからね。誤解の無いようにね」

 ウルドは楽しそうに答えた。


 「で、風太郎さんの存在はどこで確認されているのですか?」

 イシュテルの問いにウルドが答えた。

 「確証が得られない様子よ?あちこち跳び歩いているようだから・・・」

 「そんな・・・」

 「ただ、確率的にトゥラベスが濃厚みたいね。私達が持って居る情報はここまでかしら。」

 ニーアとウルドはお互いに顔を見合わせ頷いた。


 「有り難うございます。多いに収穫がありました。」

 ティアは、ニーアとウルドに深々と頭を下げ礼を述べた。

 「お役に立てて良かったわ。いろいろと大変でしょうけど心穏やかにね」

 ニーアは笑顔でティアに言葉をかけた。

 「はい。このお礼は必ず・・・」

 「あははは、気にしなくて良いわよ。風太郎が戻ったら、また皆で食事に誘ってくれれば!」

 そう言い残し、ニーアとウルドはその場を後にした。


 「トゥラベス・・・か。捜索願を出しましょう。」

 「捜索願って、風太郎さんの失踪を表に出すわけには・・・」

 「判っているわよ。水面下で動いてもらえるようにアルテに依頼をかけましょう。」

 ティアとイシュテルは急ぎトゥラベスへと向かい、秘密裏にアルテの支店長と接触を図る事にした。


 「これはティア様、本日はどのような御用向きで?」

 「実は・・・・」

 

 二人がアルテを訪ねたのは、キャスが細やかな事故を起こした翌日の話であった。

 

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