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第一章 二話

 頭を振ろうが頬をつねろうが、やはり目に入ってくるのは姫様でも中世ヨーロッパ風の街並みでもなく、立派に育った木々しかない。

 ……これは転生失敗ということなのだろうか。 

 なんとなく嫌な予感はしていたんだ。神様と女神様、すんごい目を見開いて俺を見てたし。

 

 もう一度周囲を見回しため息をつく。 

 なぜ俺はここにいるのか、ここはどこなのか。わからない事だらけだが俺には焦りなど微塵もなかった。そう、俺にはチートがあるからだ。

 

 小説なんかをみているとチートに頼りすぎた結果、なんらかの原因で使えなくなりものすごく弱くなる、なんて展開がよくあったから本当はこの世界に来てすぐには使いたくなかった。だが、こうなってしまっては仕方ない。本当に仕方ないよね。


「言葉に出すか念じればいいんだっけか……」


 わくわくしながら神に言われたようにしてみるとゲーム経験者なら誰もが言うであろう、これぞまさしくステータスというものがでてきた。


 地球ではありえない非現実的なものの出し消しを繰り返し、見間違いではないことを確認すると本当に異世界に来たんだなと改めて実感する。 

しかし、魔物が近くにいるかもしれないのだ。遊んでばかりはいられない。


「よし、そろそろステータスの確認でもしますか」


 表示されているのは自分の名前に職業、魔力量や力などのパラメーターにスキルといった本当にゲームのようなものだった。 


 ぱっと見て思うことはHPが表示されてないことと職業欄になにも書かれてないことだが、問題はないだろう。

 ここはゲームではなく現実だ。人の生死は数値で表されることがないということだと思う。それに職業欄があるということは、戦士や魔法使いのような職業があるということだ。この世界に来たばかりの俺が空欄になっててもおかしくはないだろう。


 全部予想だが、特に何か体に異変があるわけでもないし。それどころか転生前よりも体が軽く感じるほどには調子がいい。この辺はおいおい調べていくことにしておけばいいのではないだろうか。

 それよりもこの森に何がいるのかわからない以上、まずは自分がどれくらいの強さなのかを確認するのが優先だ。 


 そう思いステータスを見たがすぐに気づいてしまった。

 

「基準がわかんねえよ……」

 

 上から一つ一つ確認しているのだが、このパラメーターが高いのか低いのかわからない。ただ、レベルは1でスキルを一つももっていないことから弱いことだけは確かだ。

 今は自分が弱い。これだけわかっていれば十分だろう。

 ただ一つだけ、間違いなく低いだろいうものがある。魔力量、つまりMPだ。


 これは非常にまずい。ゲームや小説と同じなら、MPというのは魔法を使うのに必要な体力みたいなもの。魔法をばんばん使っていきたい俺には致命的だ。


「お、おれはまだレベル1で職業もない。大丈夫、大丈夫だ……」

 自分に言い聞かせるように口に出すが、かなり情けない事を言っていると思う。日本だったら心配されること間違いなしだ。というよりもこの年齢でレベル1はこちらの世界でもまずいのでは……?


 自分の能力と魔法に期待できなくなった今、本当にチートしか頼れるものがなくなってしまった。

 慌ててパラメーター以外のステータスを確認していく。


 上からひとつずつ確認していく。


 確認して……。


「……どこにもねえ」

 何度見直そうがそれらしきものは何もなかった。



 どれくらい経ったのだろうか。

 数分なのか数時間なのか、あまりの衝撃に思考が停止していたようだ。


 我に返った俺は、もう一度すがる思いでステータスをみる。当然チートなどどこにもないが、ふとスキル欄に目が留まった。 

 

「こんなものあったっけな」

 チートを意識するあまり見落としていたのだろうか。そこには固有スキルの「偽装」という文字があった。


 偽装……。

 多くのファンタジー小説で見てきたが、どれもが自分のステータスを相手から隠すためのスキル。それが偽装スキルというものだった。


「偽装を持っていることを偽装しろってか?」

 なかなかに笑えない話だと思う。


 この世界に来たばかりの俺のステータスには隠すものなど何もない。たとえあったとしても、ここにはステータスを見てこようとする者どころか人っ子一人いないのだ。いったいこのスキルで何を隠せというのだろうか。

 どのみち隠すにしろ隠さないにしろ、今の状況を覆せるようなスキルではないことは確かだ。


 ただ一つ気になることもある。それは偽装スキルがただのスキルではなく固有スキルだということだ。それでも、このスキルのことを理解したとして今の状況をなんとかできるとは到底思えない。


 右も左もわからない場所で、持っているのは役に立ちそうにないたった一つのスキル。

 ひどい、ひどすぎる。


「もうだめだ……おしまいだぁ……」

 この絶望的な状況に心が折れかけ、膝をつきかけた時だった。


『安心してくださいハヤト、わたしが導いてあげます!』

 どこか自信に満ちた、そんな綺麗な声がどこからともなく聞こえてきた。


 なぜ俺の名前を……?

 そもそも、俺がこの世界にいる事を知っているのは、あの場にいた八人だけのはず。そして、転生の失敗でこんな場所に飛ばされた事を知っている可能性がありそうなのは神と女神さまだけだ。しかし、今聞こえてきた声は二人の声とは違ったと思う。

 

 だが、俺のことを知っていて導くといったのだ。ここがどこなのか知っている可能性がある。

 とてつもなく怪しいが、今はこいつを頼ってもいいのかもしれない。というよりもそれ以外に手がない。

「あんたはだれだ、なぜ俺の名前を知っている」 

 

『よくぞ聞いてくれました! わたしは神と女神の娘にして超絶かわいい天使、サニアといいます。今は天界よりあなたに話しかけています。先程も言いましたが、人生にも道にも迷ってしまった子羊を導くためにきました」


 あの二人の娘とは思えない、どことなくアホな娘っぽい感じが伝わってきた。

「……おう、よろしく頼む」


 どうしよう、かかわりたくねえ~。 

 とりあえず道だけは聞こう。あとは無視だ、無視。


 つーか、人生には迷ってねえよ!


『なんか言ってくださいよ! わたしがアホみたいじゃないですか!』

 突然天使とやらが怒鳴ってきた。

 少し驚いたがそれよりも自覚があったことにホッとする。


「ちがうのか? まあ、そんなことより聞きたいことが」

『そんなこと!? そんなこととは聞き捨てなりません! これから長く付き合っていく人からの初印象がアホはいやです。訂正してください! 失礼な言葉を言ったことを謝ってください!』


 やれ言い直せ、やれ謝れとすごくうるさい。

 無視してやりたいが精神的に参ってる今、こいつのテンションについていけない。


「わ、わかったから。謝るから一度落ち着いてくれ」

『……本当ですか?』 


 疑り深いというか、面倒臭いというか。だが、顔は見えないが初対面の、ましてやこれから助けてくれようというやつにいきなりアホというのは確かに失礼だ。こちらに非があったことは認めよう。

「ああ、わるかったな」

『……わかってくれたらいいんです。それで、何が聞きたいのですか? なんでも答えてあげましょう』

 まだ納得しきってないような声だが一応許しは得たらしい。


 それにしても、なんでも……か。すごく魅力的な言葉だ。

 この危機的な状況に一筋の光が見えてきた。

 さよなら絶望! おかえり希望!

 

「そうだな、まずはここがどこなのか。あとはどっちに行けば人に会えるか知りたいな」

 まずは、最低限知りたいことを聞いていく。

 街に着くことさえできれば、今よりは何倍もマシなはずだ。

 


 質問してからしばらく時間が経ったが、天使からの返事が一向にこない。それどころか、先程までぎゃーぎゃーと騒いでたのに急に黙ってしまった。

 初めは調べてくれているのかなと思っていたが、それにしては遅すぎる。

 

 …………まさか。


「天使いるか?」

『……はい』


 当たってないでくれ! 間違っていてくれ!


「おまえもしかして……」

『し、しししってますよ、場所ですよね。えっとですね』

「森というのはなしだぞ」


 当たって欲しくないと願いながらツッコミをいれるが返ってきたのは、うっ、といううめき声だけ。


「……今だったら正直に言えば怒るかどうかは考えてやる」

  

 俺がそう言うと、さっきまでの沈黙はなんだったのかと思わせる程に即答してきた。

『本当ですか!? 実はわたしもさ~っぱりわからないんですよね。同じ迷子ですね、えへへ』

 天使は照れた声で悪気のなさそうに、そして自信満々にそう答えた。


 俺の希望は前に進むどころか走り去っていったらしい。

 気が付くと、膝どころか手すらも地面についてしまっていた。


「…………おかえりなさい」

『ただいま??』

 少しかわいいのがムカつく。



 それよりもどうしたらいいんだよこれ、結局状況は変わってない。頼みの綱であった天使はミイラ取りがミイラになってやがるし。

 いや、それよりもタチが悪い。こいつは同じ迷子だとのたまってやがるが、実質迷子になっているのは俺だけ。あいつは俺を上げて落とすためだけに来ただけだ。


 そう考えるとだんだんイラついてきた。

 俺がふらふらと立ち上がると天使は心配そうに声をかけてきたが無視をする。


「ふっ……」

『ふ?』

「ふざけんなこのアマぁ! なぁにが導くだ! 期待させるようなこといいやがって!」

『ひっ! きゅ、急に怒鳴らないでくださいよ! それにさっき怒らないっていったじゃないですか、嘘ついたんですね!? この嘘つき!』

 

 いきなり怒鳴られてびびったのか若干涙声な天使だが、そんなことしったことか。


「うるせえ! そもそも何も知らないくせに、よく堂々と助けに来たとかいえたなあ! やっぱりアホなんじゃねえのか!?」

『また言いましたね!? アホっていったほうがアホなんですよ! 知らないんですか!?』

「だったらてめえは嘘つきじゃねえか、この駄目天使が!」

『だっ?! でしたらあなたはダメ人間です!』


 「「――!! ――!!」」



 俺は自分の状況などすっかり忘れ、今までの不満を全てぶちまけるためにこの低レベルすぎる争いをしばらく続けた。




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