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第一章 一話


 今、俺はバスに乗っていた。目的は修学旅行。

 

 それは学園生活の中でも特に重大といえるイベントだろう。

 ゲームに読書、そしてアニメ。普段は家にひきこもり趣味に没頭し、買い物やジョギングの時くらいしか外に出ることのない俺もこのイベントに参加している。

 

 高校になど数える程度にしか来ていないのに修学旅行には参加することに、若干の後ろめたさを感じないこともないが、どうしても参加したい。修学旅行先が生まれ故郷だったのだ。


 赤ん坊の頃に引越しをしたらしく、その話を聞いてから一度行ってみたいな~と思っていたのだが、いかんせんひきこもっている俺には行くキッカケができない。旅行先を知ったときは思わず、キマシタワーと歓喜の声を上げてしまったものだ。


 いつもはクールな俺ですら興奮を隠しきれずにそわそわしているのだ。最初は俺を見て、こいつ誰だっけ的な視線を浴びせてきたクラスメイト達も、どこをまわろうか、なにを食べようかなど旅行の方に興味がいっている。

 学園生活を謳歌している者たちだ。不登校が来たことよりも、目の前の獲物の方に夢中になるのは当たり前のことだと思う。おかげで後ろめたさが和らぐから俺にとっても好都合だ。


 クラスメイト達の弾んだ声をよそに、持ってきた小説の続きを読もうとした時だった。


 突然、耳をつんざくような音が入ってきた。

 それを追いかけるように何かが衝突した、そんな轟音と振動、そして浮遊感が来る。

 

 いったい何があった。

 理解のできない俺を嘲笑うかのように視界が白に染まっていく。


「何が……起きて……」

 目の前が真っ白に染まった。




「辛いことでしょうが言わせてもらいます。あなたたちは修学旅行中に事故で亡くなってしまいました」


 目を開けると、そこは何もない真っ白な空間だった。いや、何もないということはない。近くには俺と同じ制服を着た男子二人に女子が四人、そして目の前には神、女神を名乗る二人の男女がいる。


 自分が死んだなんてこと信じたくなかったが、俺は彼等の言葉が事実なのだと思った。


 男性は威厳のある顔立ちに圧倒的な存在感をしており、女性はこの世のものとは思えないほどの美しさをしている。絶世の美女とはまさに彼女のことだろう。さらに彼等のまわりだけ天から光が射している。

 二人の容姿に加え、夢とは思えないリアルな感覚。この二つのことが神、女神だということを、そしてこれが現実だということを肯定していた。


六人もこの状況を理解はしてなさそうだが、何かを感じ取ったのか彼等の言葉に耳を傾けようとしていた。


 これからどうなる。このような場所にいる時点でおそらくだが、ややこしいことに巻き込まれるのでないだろうか。先の見えない話に不安を感じている時だった。


「あの、俺たちはこれからどうなるのでしょうか」

 グッジョブ! 俺の聞きたかったことを言ってくれた生徒が現れた。


 彼がまとめ役をしてくれるのだろうか、俺たち六人の顔を見ると質問を始めた。 

 イケメンは敵だが今だけは忘れてやろう。というよりも今気づいたがこの六人、俺と同じクラスのやつらだ。バスで俺の近くで盛り上がっていたのを覚えている。……名前は忘れたが。

  

「お主たちはこれから異世界に転生することになる」

 ごほんと咳払いをすると話を始めた。

 

 神の話はまさしくファンタジー小説のようで、長々と異世界の危機について語っていたが要約するとこうだ。

 

 マオウヨミガエッタ


 異世界に行くには随分とありきたりなことだが、一つだけ思っていたのと違うことがあった。俺たちが魔王を倒さなくてもいいということだ。

 それじゃあ俺たちは何のために行くのか。


「お主たちには一人に一つ神器を与えようと思う。それを使いこなし異世界人たちの戦力になってほしいのだ。もちろん倒せるのなら倒してしまっても構わない」

「まあ、建前みたいなものね。向こうには、あなたたちのいた世界と違って魔法が存在するわ。他にも見たことのないものばかりでしょうし、楽しんで生きて欲しいの」 

 女神様がすぐに否定すると、神は少し悲しそうな顔をしていたがそんなことはどうでもいい。

 

 神器、いわゆるチートというやつだろう。ぜひつかってみたい。そして魔法、そう魔法だ。アニメや小説を見ている人たちなら一度は使ってみたいと夢見るあの魔法だ。

 それが異世界にはあると言っているのだ、興奮しないわけがない。

 やばいドキドキしてきた、無双して俺つえーとか言ってみたい。


 こんな面白そうな事だ、全員が興味を示してると思っていたがどうやら俺だけだったらしい。

 話が終わっても誰も何も言わず、沈んだ顔をしている。

 

 沈黙を破ったのは、やはりイケメンだった。

「……俺たちは元の世界にもどることはできるのでしょうか」

 彼は握り拳をつくると、俯きながら弱々しい声で彼等に質問をする。

 

 生徒たちは沈んだ顔から一転、何かを祈るような願うような、そんな顔をして返事を待っていた。


「……残念だがそれはできない。既にお主たちは異世界の人間であり、地球では亡くなっていることになっているからだ」

 神は目をつむり、ゆっくりと答えた。 


「……わかりました」

 もしかしたらと思っていたのだろう。顔を俯かせる者、嗚咽を漏らす者、反応はそれぞれだが落胆しているのが目に見えてわかった。

 

 彼等の気持ちはよくわかる。俺も自分が死んだという実感がいまいちわかない。話すことも体を動かすこともでき、生きていた頃と全く変わらないのだ。死んだことは理解できている。それでも、生きていた頃と何ら変わらないこの感覚が期待を寄せてしまったのだと思う。

 彼等と違い、俺にあまり悲しみがないのは、別れを惜しむような人がいなかったからだ。ひとり暮らしでひきこもり、顔見知りはいるが深い関係の人はいない。故に悲しみよりも興味が上回っていた。



 涙を流し、悲しそうに誰かの名前を呟く彼等が俺はすこし羨ましかった。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「落ち着いたか? なに、そう悲観ばかりするでない。わしも人の死とは長く付き合ってきたが、人生をもう一度やり直せるなどなかなかあることではないのだ。さらに神器というおまけ付きでだ。そう悪い話ではなかろう」

 

 魔王をたおさなくてもいいのにチートがもらえ、もう一度やり直せる。確かに悪くない話だと思う。

 あとは、これをどう使い二度目の人生を楽に生きていくかだ。


「転生先はどの街よりも安全だろう王都ラーエルというところだ。魔法の基礎に文字の書き方が乗っている本、およそ一ヶ月は暮らせる分の金も用意している。その期間で気持ちを整理し、今後どうするかを決めて欲しい」

「転生後、あなたたちは異世界に適した体になります。言葉や文字、貨幣の価値などは、脳内で日本語に翻訳され理解できるようになります。文字を書く事は覚えないといけませんが会話ができない、買い物ができないなどはないので安心してください」


 話を聞いたときは不安だったが、ここまで用意してもらえれば俺でもいけそうな気がしてきた。

 チートもあることだし冒険者になって生きていきたいが、異世界にいったらこの六人と一緒に行動することになるだろう。

 やりたいことは色々あるが、まずは彼等と共に行動し、一人で生きていけるくらいにはなりたい。


「そろそろ時間ですね」

 

 女神様がそう言うと、俺たちの足元に青く輝く大きな魔法陣が現れた。

 すげえ、本当に魔法じゃねえか。


「向こうに着いたらまずはステータスを見てくれ。それぞれの神器がどういうものかを知ることができる。何が来るかはランダムだが、お主たちに合った物だ」

「過去にあなたたちのように転生した者もいます。その方たちを見つけたら教えを請うのもありでしょう」


「何から何までありがとうございました。向こうでどう生きていくかはわかりません。それでもこの二度目の人生、精一杯生きていこうと思います」 

 

 イケメンは俺たちに柔らかい笑顔を向け、力強くそういった。

 無理をしているのだろう、作り笑いだというのがわかる。それでも、その嘘は生徒たちの顔を上げさせ、彼等の顔に生気を戻していた。

 自分だって辛いだろうに、イケメンというのはどこまでもかっこいいらしい。


 神は俺たちを見ると、何度かうなずく。 

「お主たちならきっと大丈夫だろう」


 魔法陣は今にも発動するかのように大きな光を放ち始めた。


「貴方たちに精霊の導きがあらんことを」

 二人は祈るように手を前で組み、微笑みながら祝福のようなこと言う。


 その言葉を最後に俺たち七人はまばゆい光に包まれていった。


 

 視界が白く染まりかけた時、二人が俺を見て驚愕していたのが見えた。




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