第五話
夜中の九時ごろ、俺達ミステリー研究部のメンバーは校門前に集まっていた。
「泉と水瀬はよくこんな時間に集まれたな」
俺と朝陽の父親は現在、出張中で母親もそれに付いていっている。両親はいい歳して子供の前でもラブラブするので見ていて恥ずかしいものがある。
まぁ、そんなことは置いておいて今は家に二人だけなので夜中に抜け出すぐらい余裕だ。
だが、泉と水瀬は変態とはいえ一応は女。両親が心配しても不思議ではない。
迅はどうせ問題ないだろ。
「私は友達の家に泊まるって言ってきたから問題ないよ」
「私の両親は私が何をしても気にしないから大丈夫です」
水瀬、それは大丈夫じゃない。家庭環境が壊れている。
まぁ、人の家の問題に口出しするつもりはないが。
「じゃあ、入るか」
「その前に迅。その格好は何だ?」
迅はテレビで見る探検家みたいな格好で虫取り網とカメラを持っている。
ここに来るまでに不審者として通報されなかったのが不思議だ。
「せっかくの真夜中の学校探険だ。それなりの準備をするのは当たり前だ。むしろ、お前達みたいに手ぶらで来る方が信じられない」
多分、迅が期待しているようなデンジャラスな出来事は起きないと思うぞ。
「私も手ぶらじゃないです。ちゃんとシャッターチャンスを狙うためにカメラを持ってきています」
何のシャッターチャンスなのかは聞かない。というよりも聞きたくない。
「俺もちゃんと懐中電灯ぐらいは持ってきてるぞ」
「あっ!懐中電灯を持ってくるのを忘れていた。さすが深夜だ」
何で一番重要はものを持ってきていないんだよ、この問題児は。
「ところで、どうやって中に入るんだ?もう完全に校門は閉まってるぞ」
「そんなの決まってるだろ? 校門を登ればいいんだよ」
予想通りの解答だな。だが、それには問題がある。
「一応、宿直の先生ぐらいはいると思うぞ。見付かったら、どうするつもりなんだ?」
「見付かってから考えたら良いだろ」
いや、お前は良いかもしれないが俺達は困る。バレたら教師からむちゃくちゃ怒られるぞ。
だが、迅は俺がそんなことを思っているうちに校門を登り始めていた。
「お前らも早く来い」
迅の辞書に躊躇という言葉はないのか。
「私、スカートなんだけど」
「それがどうした、泉。別に登りづらい格好じゃないだろ」
「……だから中を覗かないで、ってこと」
「誰がお前のスカートの中を覗くんだ?」
こいつは何を言ってるんだ? 朝陽のスカートならともかく泉のスカートの中身になんて一銭の価値もないぞ。
「明らかに冗談で言ってないのが分かってムカつく」
「何にムカついてるのが知らないが、カルシウムは取った方が良いぞ」
まぁ、こんな奴はどうでもいい。心配なのは朝陽だ。
「朝陽、大丈夫か? 無理そうなら家に帰ってるか?」
「大丈夫。私も行けます」
朝陽が今までにないくらい本気の目をしている。これはお兄ちゃんとして応援するしかない。
「でも無理そうなら言ってくれ。お兄ちゃんが運ぶから」
俺はこれでも結構鍛えている。可愛い妹一人おぶったまま校門を登ることなど余裕だ。
「じゃあ、私を運んでくれませんか?」
ああ、そう言えば水瀬はかなりの運動音痴だったな。
「家に帰るか、泉に運んでもらえ」
「酷いです。か弱い女の子をこんな夜中に一人で帰す気ですか?」
いや、ここまで一人で来たよな?
「後、渋谷先輩に運ばれるのは身の危険を感じます」
確かに。泉のことだから、どさくさに紛れて何をするか分かったものじゃない。俺も水瀬の立場なら何があっても断るな。
「おい、泉。水瀬が困ってるから運んでやってくれ」
「ちょ、何言ってるんですか!?」
BL関係以外では決して取り乱さない水瀬が焦った顔をしている。
「分かった。そういうことなら私にお任せ」
泉が凄い勢いで水瀬をお姫様抱っこして、そのまま校門を飛び越えた。こいつ、何者なんだ? どう考えても女子高校生の身体能力じゃないな。
そして俺は朝陽は校門を登ったのを確認してから学校の中に入る。
五話終了。では感想待ってます。