第二話
俺は結局、泉に引っ張られる形で部室棟の二階にあるミステリー研究部の部室まで来た。
部室と言っても現在はただの休憩室だ。部員がいなくて休部状態だったところに去年、俺達が入部して好き勝手にやっている。ちなみに部長は俺。泉と迅に無理矢理押し付けられた。一応、顧問の先生もいるけど、ほとんど来ない。
ガチャ!
泉が扉を開けて中に入る。
「お、花菜ちゃん早いね」
中には小柄な体型の女子が一人、椅子に座って読書している。名前は水瀬花菜。ミステリー研究部唯一の一年生。
「別に渋谷先輩は帰っていいですよ。うるさいだけなんで」
「んー、そういうクールなところが堪らない。もっと私を罵っていいよ。というより罵しりなさい」
泉が恍惚とした幸せそうな顔をしている。
泉は美少女に罵しられるのが大好きである。逆に攻めるのも好きというハイスペックな変態だ。
俺は二人のやり取りを無視して椅子に座る。そして適当に部室にある本を取って読む。ミステリー研究部は数年前までは人気があったらしく部室には先輩が残したミステリー関係の雑誌や小説が大量にある。授業をサボって休憩するには理想的な場所だ。
「ところで深夜先輩、風間先輩は今日も来ないのですか?」
水瀬は黒崎が二人いるので俺達のことは名前で呼んでいる。
「知るか。あいつは思い付きで行動するからな。学校にもほとんど来ない」
「妹なんかと仲良くしていないでパートナーのことを大事にしてくださいよ。妄想がはかどらないじゃないですか」
「だから俺はあいつとはパートナーじゃない! そしてお前の事情なんか知るか!」
水瀬花菜はそのクールな雰囲気とは違って中身は腐女子である。俺と迅のカップリングが気に入ったとかでミステリー研究部に入部してきた。俺にはそんな趣味はないのに、迅と事あるごとにくっ付けようとしてきて迷惑している。
「でも、向こうはいつでもOKですよ」
それを否定できないのが困ったところだ。迅は出席日数ギリギリしか学校に来ず、普段は色んなところを遊び回っているのに俺への連絡だけは毎晩、丁寧にくる。正直、あいつがどこで何をしたかなんて興味ない。
「例えそうでも俺にそんな趣味はない」
「だったら同性が好きな男性が集まるところを紹介します。そこで同性の良さを知ってください」
「何があろうと断る」
こいつの相手をするのがしんどいから部室には来たくなかったんだよな。
「だったら花菜ちゃんも同性の良さを知ろう。私が教えてあげるよ」
「寝言は死んでから言ってください。気持ち悪い」
俺がお前に抱いている感情もそれだ。
バァンッ!
扉が勢いよく開いて今時の若者といった感じの私服の男性が入ってきた。
「皆、集まっているようだな」
こいつが風間迅。この学校トップの問題児だ。
嫌な予感しかしない。