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閑話休題 その③ しもべBの逆襲

「ねえ母、鎌倉幕府の・・・」


「1192年!」


こうみえて、社会系の成績だけは、ずば抜けて良かったのだ。しもべBなんぞに負けるもんかい。私は無駄に自信満々な態度で即答した。


するとBは、にや~っと笑ってこう宣った。


「違うんだなあ~。 今じゃ1185(いいはこ)なんだよ。やっぱ遅れてる~先生の言った通りだ~」


今ってなんだ? 先生どんな事を吹き込んでくれたんだ?


趣旨と全く関係ない事がパパッと浮かんだが、ここは受験生の為にピシッと教授せねば。


「1192(いいくに)で合ってるはずだ!」


すると、これを予想していたらしいBは用意周到にも教科書を差し出して、私に該当ページを見せた。


うそお?! 本当に1185年になってるし、今まで源頼朝像として載っていた写真には、鎌倉武士の像なんて云う解説がついている。


歴史までも、私に時代遅れを突きつけるのか。

私は、敗北感にまみれた。


私が学生時代に必死になって覚えた、地理の知識は今じゃ殆ど役に立たない。

世界地図が数年の内に塗り変えられて行く様には、リアルタイムで興奮したが、親になり、その変遷をいささか興奮気味にまくし立てたところで、しもべ達にとっては、今現在の世界地図が全てなのであるから、全く興味を覚えなかったらしい。歴史のひとこまという事だけだ。


先だって、ベルリンの壁崩壊から~というニュースがあったが、考えてみれば、しもべ達の生まれる以前の事なのだ。今や歴史で扱う事柄となっているのである。


石油や石炭、貿易の知識も同様に役立たずで、現在の世界情勢を簡単に仕入れる為に、Aの高校の教科書を読み耽った。


なのに、歴史もだと~!!


縄文や弥生時代の年代設定が変わったのは、ニュースでなんとなく知ってはいたが、たかが800年位しか経っていない鎌倉時代まで変わるとは、考えてもみなかったのである。


もはや、社会科に母の入り込む余地は無くなってしまったのかもしれない。

がっくりとする私を可哀相に思ったのか、Bはこんな事を聞いてきた。


「母、今度東京でオリンピックがあるじゃん? 前回の時ってさあー」


「・・・・・・」


私はますます不機嫌さを増しながら答えた。


「流石の私も、まだ生まれてないんだよ!!!」



ギリギリだけど。




実はこの話、これだけでは無かった。ここまで書いた後に、更なる衝撃が私を待っていた。


「ねえ母、関数とかで使われる、何乗とかってあるじゃん?」


私は数学が苦手である。計算が得意ではないのだ。うかつな私は、繰り上がりとかで凡ミスを繰り返した結果、数学は大嫌いな教科ナンバーワンであった。社会人になり電卓を使う様になって、どれ程ホッとしたことか。していた仕事上、電卓を叩くのだけは速い私である。


それにしても、今度はどんな罠が、私を待ち構えているのだろう。私は警戒心丸出しで聞いてみた。


「それがどうした?」


「あれの、2ってなんて言う?」


「2?」


「つまりさあ、これ」


と、Bが見せてきたそこには、二乗と書かれていた。


「じじょう」


答えた途端、Bの顔がニンマリとした。


「にじょうって読むんだよ、今は。やっぱ、時代が違うと言い方も変わるんだ。先生の年によって違うからさあ、こっちも困っちゃうよ」


「ああそう、ふーん」


してやったりの顔を不機嫌に眺めながら、私は思った。


もはや、しもべの学習そのものに、母の入り込む隙間は無くなってしまったのだと。

ただでさえペラペラになりつつある母の威厳は、今や風前のともしびとなってしまった。暫しの間、哀愁漂う母と化した私である……。




……いや、ここで負けてはいられないのだ。思春期はこれからである。この消え行くともしびを松明とせねばならぬのだ。よくわからない使命感につき動かされ、私はリベンジして挽回するべく、顕微鏡で覗き込む様にBを観察している。


待ってろよ! B!!

実は今日、本屋で「こんなに変わった歴史教科書」なる本を発見! 自粛解禁して購入して参りました(笑)負けず嫌いな母でございます。



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