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未来への遺産

かっこいいサブタイトルを付けてみました(笑)

とある大好きな作家様の作品を拝読して思い出していたのだが、私の身近には、大抵人間以外の生き物の存在があった。


殆どは子供時代の記憶である。

鶏、金魚、熱帯魚、犬、ハムスター、そして背黄青鸚哥(←セキセイインコと読むらしい。変換して驚いた)。

並行して、カミキリムシ、鈴虫、かぶと虫、おたまじゃくしやザリガニもいた。


その時々で私を癒してくれた、大切な仲間だった。それぞれに嬉しい思い出も悲しい思い出もあるが、割愛する。出し惜しみではなく、今回の話からまたしてもズレて行ってしまうからだ。

万が一、読みたいという方がおられたら、いくらでも語るんだが。


さて、これらはいずれにしてもペットの類いだ。昆虫も立派なペットだ。育てるのは、同じだ。



今回の話は、植物である。植物も育てる人間に呼応する。動物よりも手がかかる事もしばしばあったりする。


独立するまでは一戸建て住宅だったし、農家出身の母は動物も好きで育てていたが、植物を育てるのも好きだったから、私も自然と影響を受けたのだと思う。


今はマンション住まいなので、ベランダでチマチマやっている。ただ、我が家は海から近くて、風向きによっては潮風が入ってくるらしく、残念な事に野菜は全滅してしまった。それでも、ミニトマトはいくつか食せたので満足だ。


今年は花はやらなかった。去年から今年の初めにかけて、マンションの大規模修繕があったので、ベランダを使えなかったのだ。屋内でスミレを育てていたが、花が終わって外に出した途端、駄目になってしまった。やはり、潮風の影響かもしれない。



そんな中、元気に頑張っている唯一の生き物がサボテンである。今回の話の主役だ。


そもそもサボテンを育てる様になったのは、しもべAが小学校に入学した年だ。今は廃刊してしまった、子供向けの定期科学誌(ご存知の方も多いだろう。科学と学習の科学である)の付録だった。


サボテンの種があったのである。駄目元で植えてみたところ、いくつかあった種から一つだけ芽を出したのだ。これがなんとも可愛かった。良く子供が描く草の絵と云えば解るだろうか、お弁当に入っているバレンみたいな形。そのギザギザがたった二つ、ついている、5ミリ程の可愛い芽。これが私を捕まえた。


しもべから科学誌を横取りして、大事に大事に育てていった。一年程で、いわゆるサボテンの形、荒野にあるそれではなく、半円つまりお椀をひっくり返した形になった。しかも直径3センチ位。なんて可愛い!


水の加減だけは気を使いながら、大きくしていった。しばらく刺は無かったので、植え替えも楽だったし、何より鉢を大きくする度に大きくなっていくサボテンは健気である。


当時中部地方にいたのだが、またしても転勤で首都圏にきた時、他の植物はトランクに納めたが、このサボテンだけは私が抱えて、一緒に300キロを旅したのだ。


この頃から、トゲトゲし始めたサボテンは球体に近い形になり、軍手では扱えなくなってきた。反抗期なの? なんて事を思いながら植え替えをしていった。


だが私は植物の専門家ではない。子供用科学誌にはサボテンとしか書いていなかった。本を探したが、多肉植物はあってもサボテンの園芸書はなく、今考えると適当過ぎる扱いだった。そこで、家族で伊豆へ行った時、シャボテン公園で係の方に聞いてみた。


写真を撮って持って行ったら良かったんだが、品種は解らなかった。恐らくこの仲間だろうと云うのはあった。そいつはでかかった。大きいなんて表現が使えないほどデカイ。多分直径1メートルはあったんじゃないかと思う。


「えっと、これどのくらいになります?」


「もっと大きくなるよ。まだ花が咲いてないしね」


花?うわ~花、見たい!


「お客さんの話を聞いた限りじゃあ、50年後位には咲くんじゃないかな」


「……そうですか。50年後ですか……」


「見られるといいね」


係員のおじさんは、そう言って、颯爽と去って行った。


50年後……がっかりしながら、しもべに後を託した。母の野望を絶対に見届ける様に、と。いつになく真剣な顔をして、がっつりとしもべの両肩を掴んで言い聞かせる私に、コクコクと首を縦に振ったしもべである。


……見られない物は仕方ない。気持ちを切り替え辺りを見回すと、売店にサボテンを自由に寄せ植えできるコーナーがあったので、しもべ達にそれぞれ5、6個ずつ選ばせて、寄せ植えにしてもらった。当然私もだ。


ひょいひょいと割り箸を使いながら、寄せ植えにしていく係のおじさんの手際は実に見事で、まじまじと観察してしまう程凄かった。今後の参考にしよう。


さて、私の鉢にはそれぞれ形の違うミニサボテンが、しもべAも似たようなもの。ところが、Bの鉢植えは全部同じ種類のサボテンだった。


「えっ? これでいいの?」


しもべBは頑固に言い張った。


「いいの。似てるけど、違うのだから」


まあいいだろう。こうしてご機嫌でサボテンを抱え、帰宅した私としもべ達。私とBはベランダへ置いたが、Aは自室の出窓に置いた。


春になり、私とBの鉢植えサボテンは、可愛い花を咲かせた。Bのものは、見事に違う花が咲いていて、サボテン自体を見る限り、判別出来なかった違いを私達に見せてくれたのである。

その時の自慢げなBの顔は、いい思い出だ。めったにないのである。写真を撮りたかった位だ。


それからも、私の手塩にかけたサボテンは大きくなって、現在直径30㎝位あるだろう。ただし、もう植え替えてはあげない。土を含めると、かなりの重さなのである。これ以上重くなったら、台風などの時に移動できない。それにトゲトゲが、長いのと短いのの、二段構えになっていて、移植が困難になってきている。どうしたものか悩んでいるが、現時点で既に、百均で買えるプラ製鉢では最大なのだ。陶器製の巨大な物は見たことがあるが、重すぎる。だから可哀相だが、我慢してもらおう。



たかがサボテン、されどサボテン。丈夫で、手入れは最小限。外に置くのなら、水は成長期の春に少しと夏場の暑い時だけで十分育つ。多少ズボラな私でも大丈夫である。そんなサボテンを育ててみてはいかがだろう。


ところで、Aの寄せ植えサボテンはどうなったのか。春がくる頃には既に干物になっていた。黒く変色し、土も割れ。私の大切なサボテンの将来を託したのは、もちろんBである。

何たって、Bと同い年なのだ。双子の弟として面倒を見てもらって、立派な花を咲かせて貰いたい。



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