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閑話休題 その② しもべBの暗い半日

小話のつもりが、妙に長くなりました。

相変わらずタブレットを抱えコンロの前で籠城していた時、しもべBが帰って来た。


「ただいま」


おや、珍しい。心無しか声が暗い。タブレットをシャットアウトして、リビングに行き、Bに声をかけた。

いつもなら声をかける間もなく、何か食べる物がないか聞くのに。具合が悪いのかと思ったのだ。


「お帰り。具合が悪い?」


Bの周りに暗雲が立ち込めている。こんな事はめったにない。本当に具合が悪いのかもしれない。病院はまだやっているはずだ。慌てて保険証や診察カードを用意し始めた私を見て、Bが口を開く。


「別に悪くないから」


いやいやBよ、どう見ても悪そうだ。


「何かあった?」


うちのしもべ達は、この年頃にしては良く会話する方だと思う。学校であったあれこれや、Aなどは彼氏自慢もする。だから、聞いてみたのだが。


「はああああ~」


Bから返ってきたのは、重苦しいため息だった。どうしたんだろう。何があったのだろう。今回は、私が原因ではなく、学校での事のはずだ。そんな事を思いながらBを促すと、ようやく重い口を開いた。


「今日さ、学校で、Bって存在感無いよなって、言われた。女子にもさ、影薄いよね、とかさ、はああああ」


えーと、具合は悪くないっと。うーむ。今度は珍しく、私が無口になる。とりあえず慰めモードだ。うん。


「でもBは暗い訳じゃないし、目立って良い事なんてないよ?」


「母はいいよ。ずっと学級委員でさ、結構モテてファンクラブまであったらしいじゃん」


多分、叔父である私の弟から聞いたのだろう。これは事実だ。何の因果か学級委員は私について回った。希望した事は一度もない。やって良かった等と思った事もない。あれは雑用係と一緒だと今でも思っている。私は中心で活躍するより、斜め後ろでサポートする方が自分に合っているのである。


ファンクラブは確かにあったらしい。中学時代は交流もなく、私が卒業した後に弟に接触したらしく、弟から聞いて初めて知った。ただ、高校の時は知っている。二つ下の連中だ。休み時間になるとやって来て、私がどこに行くにもついて来ていた。


因みに、全員女子である。全く嬉しくない事実だ。トイレ位一人で行かせろ。ちっとも嬉しくなかった上、クラスの男子からは、お前の彼女を一人よこせだの、紹介しろだの、言われ放題だったのだ。学級委員をさせられていた関係で私は同窓会の委員も兼ねているが、学年でなく、全体の同窓会は出席しない事にしている。恐すぎる。


嫌な事を思い出した私は、地を這う様な声で言った。


「良くない。目立たないのが一番だ。喜べ」


まあ、喜ぶ訳もないし、何となくだが気持ちもわかる。確かに家族が揃って、目立つタイプだ。外見ではない。私は女子にしては高い方だが、しもべAは女性の平均身長である。ただ家族は誰も彼も、何かしらの長になっている。部活の部長だったり、生徒会長だったり、仕事上の役職だったり様々だが、ある意味目立っているし、Bからすれば、劣等感を持ったり嫉妬したりもするのかもしれない。


Bは確かに目立つ方ではないし、全てが真ん中だ。身長は私をようやく越したが、男子の中では中間。勉強も運動も可もなく不可もなく。顔はまあ悪くないと思うが所謂イケメンかと云うと……ただ、それらを凌駕するだけの、素晴らしい特性があるのだ。成績表のコメント欄の一番上には、毎年変わる担任から、毎年同じコメントがつく。曰く、


「穏やかで優しく、頼りがいがある」


本人はまた同じだ、と気に入らない様だが、九年も書いて貰える子が如何に少ないか、Bには判っていないのだ。私や他の家族に穏やかだの優しいだの、ついた事などないのだ。注意点は良くあった。私に至っては、人の意見を聞かないとか、頑固だとか、およそ嬉しくない言葉が並んでいて、教師が私に対する評価は両極端であった。だから自信を持てばいいのだ。


私は、秘密兵器を投入した。


「小学校の卒業文集でも、去年のアンケートでも、“クラスで一番信頼出来る人”で、断トツのトップだったでしょ。自信を持ちなよ、ちゃんと見てくれてる人がいるんだから」


これで、大分浮上したらしく、素直なBの顔は、明るくなって来た。


「うん。まあ、そうする。ところでさ、どうやったら、女子にモテるんだろう。教えてよ」


結局、そっちかい。私に聞くな。アドバイスを待ち構え、まるでおやつを待ちわびる子犬の様な顔をしているBを尻目に、私は段々と不機嫌さが増してきた。最近、先輩に彼女ができて、自慢されるだの、この髪型はどうかだの、言っているなとは思ったが、要は色気づいてきたわけだ。エラク遅いけど。


大体、私が一応生物学上は女だと理解しているんだろうか。諸事情で、父親の役割もしてきたが、性別は女なのだ。女性に付き纏われて喜んだりはしないのだ。男性に間違えられた事は数知れず。子供の頃から例え赤い服を着ていても、カッコイイお兄ちゃんと呼ばれ、客引きのお兄ちゃんには「いい娘、揃ってますよ」と必ず声をかけられ、女の子からはナンパされ。周りの男子からは恋愛相談ばかり受けていた。


だから、言ってやったのである。


「そんな事聞いて来る奴は、モテ無いんだよ」


ようやく私が不機嫌全開なのに、気がついたらしい。ワタワタとしているBを見ているのは面白かったが、昔のあれやこれやの、黒歴史を思い出してしまった私は、発散すべくこれを綴っている。


今? 私は、絶賛引きこもり中だから、ただのおばちゃんである。そして、この上なく幸せだ。


その後のBは、元気に学校生活を楽しんでいます。

私を楽しませてくれてもいます。


ところで、どこかで見たなこの話と思った貴方! ありがとうございますm(__)m

この話は、拙作に出てくる赤の部屋の彼のモデルとなった一件です(^^*)

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